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dacchi03さんのCLANNAD FULL VOICEの長文感想

ユーザー
dacchi03
ゲーム
CLANNAD FULL VOICE
ブランド
Key
得点
77
参照数
1999

一言コメント

友達になること、恋人になること、夫婦になること、親子になること、不思議な町で紡がれる物語「CLANNAD」で描かれる家族は、1つではない。恐らく、ここまで多くの家族を題材として、作品のタイトルにもなっている「家族」を、このような媒体で表現しようとした作品は少ないであろう。そして、表現するだけでなく見事に「家族」を描き、読み手を魅了する今作品は高評価をつける作品として、十分な要素をもっていると感じました。しかしながら、それでもなおこの得点に止まったことには理由があります。それは長文感想にて… 当方CLANNAD関連作品は初プレイです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず最初に、一言コメントにも書いた今つけている得点以上の点数はつけづらい理由について
私が、今作品を読むうえで非常に不快にさせられたルートがあったことが最大の理由です。
その個別ルートとは、春原ENDだ。

このルートでは、家族という部分の兄と妹を描きたかったのだろうが…なんだこの茶番劇は?
サッカー部の連中と殴りあう場面なんて酷すぎだろ…なんで春原は主人公に対して怒る?
親友である岡崎を信じていたから? 
ただその場面で、そんな使い古された言葉を用いられても、過去話なんて語られないし、説得力がまるで皆無だ。
サッカー部は妹の兄を部に復帰させてくれないか?とのお願いに冷やかしで対応している。
いかにも健気な妹を演出するために用いられてしまったサッカー部に同情すら覚える。
他校との喧嘩で、新人戦という高校生活で一度きりしかない大切な試合を台無しにされ、
謝罪も何も無い…春原を受け入れないのは至極当然だ。

寮の前で語れる妹とのしばしの別れの場面だが

春原「僕は、ここにいる」
春原「あと一年、最後までここにいるよ」
芽衣「勉強についていけなくても…だよね」
春原「ああ」
春原「だって、僕は今…」
春原「一生のうち、一番大切な時間を過ごしているかもしれないんだぞ?」
                                春原ルート・寮の前での別れの場面より

まさにその通りだ、分かっているならなぜ謝罪しない?非常に不愉快だ。
これでは妹はただの道化だ。
この手のゲームで多少強引であったり、矛盾が生じる事はしょうがないと思う
だが、この部分に関してはしょうがないですまされる部分なのであろうか?
今作はタイトルに"家族"とかかげるほど家族というものをテーマにあげている作品だ。
そしてなによりも引っかかったのは、このルートが最後のTRUEENDを見るためには必須だということ。
このような作品で、茶番劇をルートに用いていることに疑問を抱かざるを得ない。

もしかしたら、このルートは違う読み取り方が出来、ただ単に私の読解力不足なのかもしれませんが…。


さて、ここからは良い点を書き連ねていきたいと思います。
私の読み進めた順番は、
春原→有紀寧→ことみ→椋→杏→勝平→美佐枝→智代→風子×2→幸村→渚→
AFTER汐→AFTER秋生→TRUE END です。

音楽については大満足でした。
OP&EDに挿入歌などのVo曲、そして場面にあったBGMは非常に作品に合っていました。
特に、今作品のメインヒロインの名前が付けられている楽曲"渚"は
物静かに、少ない音の数で紡がれはじめ、そしてだんだんと紡がれる音が増えていき
サビの部分にはいる頃には、力強く演奏されている。
友達が増え、人間的に成長し、そして新しい家族を手に入れた
今作品の渚を象徴している楽曲であり、作中で聞き惚れました。

AFTERに進む前に読む各個別ルートは、
読む人によって好きなルートがかなり分かれるルートではないだろうか?
兄妹、姉妹、親子、恋人など焦点となる題材は異なるからである。

各ルートの出来はこの再目をつぶるとして、私が好きな個別ルートは
両親と娘の関係を軸に、昔、大切な人を失った悲しみから二度と大切な人をつくらないと
心に壁をつくってしまったことみルートです。

数年越しに届く両親からの誕生日プレゼント。
他人から他人へと国をまたにかけ、受け継がれ、最愛の娘の元へと届く。
昔、ことみが恐れていた外の世界。
昔、ことみが恐れていた他人。
そんな恐れていたものから受け継がれた誕生日プレゼントは、彼女にとって何よりも
大切な贈り物になったはずだ。
また、それだけではない。
彼女が最後友達から送られるプレゼントのヴァイオリン
このプレゼントだって、他人の手を加えられて彼女の元へとやってくる。
彼女の人生のように、不条理に真っ二つになってしまったヴァイオリンのように、
壊されることはあっても、手を加えられ、より良い音となって彼女のもとへと受け継がれる。

昔からことみが好きだった本の一節が、今作のことみルートに度々登場する。

朋也「君はタイムマシンでここに来たんだね」
ことみ「ええ。わたしのお父さまが発明したの」
朋也「なら、ここにはよく来るのかい?」
ことみ「もう何度も。ここはわたしのお気に入りの時空座標だから」
ことみ「何時間いても飽きないの。ここから見るものは、みんなみんなすてき」
ことみ「おとといは兎を見たの」
ことみ「きのうは鹿、今日はあなた」
                       ことみルート終盤・ことみ邸縁側にて

この本の一節からも今作ルートの想いが伝ってくる。

おとといは他人、きのうは友達、今日は親友…そして恋人へ
彼女なりに頑張って手に入れた外の世界の大切なこと
そんな彼女達を祝福するように届いた両親の誕生日プレゼントは、最高の贈り物となったであろう。
両親の娘に対する想いが、純粋に伝わってくるこのルートが一番好きです。

個別ルート後に読むことが出来るAFTERシナリオ。
AFTERシナリオの出来には驚かされた…
朋也と渚、二人と密接な関係を持つ人たち、そして彼らが暮らす町について
中だるみなど一切せず語り、読み手である私はただただ魅せられた…。

たった今読み終えたばかりなので実際あまりのクオリティの高さに放心状態だったりします。
もうちょっと落ち着いてからこの部分に関しては追記できたらと思います。
(誤字脱字もなるべく早めに修正します)