まず大前提として、自分は発売前一言にも書いた通り、続編というものがあまり好きではありません。その上でのこの点数です。ひよりん√に見たかったもの、聞きたかった想いなどが存分に詰まっていてとても満足してしまいました。コミカルなテキストで綴られる可愛いヒロイン幸せな日々。もうこの娘たちに会えなくなってしまうと思うと寂しいので、神田柑凪ちゃんと飯田伊々奈ちゃんを攻略できるファンディスク、いつまでも待ってます。
「あまり遠くへ飛んでいくなよ。」
(あだち充著 『タッチ』第9巻 おーい、南 の巻 より)
でもそう、やっぱりシンデレラは王子様と幸せに暮らしました。めでたしめでたし~の先は自分はあんまり見たくなくて
贖罪の為に神の座から降りてきて
ひたすら恐縮して小さく殊勝になっているしおぽよ先輩とか
その先輩に追いつこうと努力した結果、自分が出来る人間の側に周っているのに無自覚のまま
周囲(プレイヤーにも)に正論という名のハンマーを振り下ろし続けた挙句、その事に鈍感でいる程変わり果てた姿を晒した智宏とか
案の定(ハミクリ感想をご覧ください)、誰かを踏み台にすることを歯牙にもかけず(鳴門さんと智宏は気にかけている)
上を見据えたまま自分の成功へと邁進していくあすみとか
見たくないものまで見せられてしまったなーとも思っていたり。
さらに言えば本編の段階で、この年齢としては社会的には充分成功している彼女たちが
この続編では皆、さらなるステップアップをしていく感じで
ハミダシ部分は控えめで、クリエイティブ部分がキラキラと輝くお話が多かったのも
(ハミ出した部分に関しては本編で概ね解決してるんだからまあそうなるよね)
彼女たちのハミダシ部分を愛して
そのハミ出した彼ら彼女らが一生懸命頑張って得た、学生としてのささやかな成功をともに喜んでいた自分としては
どうにもまた気後れしてしまう原因になってしまっていて。
そばに居たはずの彼ら彼女らが、手の届かない遠くへ行ってしまい
自分だけ取り残されてしまったような
そんな(とても身勝手な)感覚に襲われてしまったのです。
でも、そんな自業自得な自己嫌悪に陥っていた自分を救ってくれたのが
妃愛√でのひよりんでした。
【妃愛】
「うああー、だからあれほど怠け者のままでいてとお願いしたのにぃー。
私の大切なお兄が、どこへ出しても恥ずかしくない兄に変貌を遂げてしまうー」
この科白から始まる妃愛の嫉妬と不安は、ほぼほぼまんまワタクシが一緒で。
ハミダシ部分を克服して
そんなに成功してしまった
そんなに素敵になってしまった貴女は
まだ私を見てくれますか?
そんな身勝手どころか彼女の足を引っ張りかねない想いを抱いていた自分が
ひよりんも同じような感情を抱いていたということに、本当に心から救われて。
正直そこまで後ろめたさでざわつく心を抑えながらプレイしていたネガティブな状況から解放されたのです。
そして実は章タイトルで智宏が何をやるのかなんとなく察せられてしまった妃愛への誕生日プレゼントも
本作最高の名シーンとして華乃共々もらい泣きするくらいには入れ込んで読むことができ
居心地良い世界の
愛おしいキャラクターたちの日常を言祝ぎながら
幸せな気持ちでこの作品を終えることが出来たのでした。
さてここからは攻略順に各ヒロイン√の短評を。
ネガティブな気分でいた時に感じたことをそのまま書いているものが多いのでご注意を。
まずはしおぽよ先輩。
もうこの人は本編でもこの凸でも、とことん損な役回りでしたね。
結局本編であった諸々のツッコミどころというか瑕疵ある言動の言い訳を
ほぼこの√一つが背負わされてしまった感があってなんだかなぁと。
誘われて乗っかったとはいえ
自らが主犯のような形で智宏を陥れた罪悪感を
この人はずっと抱えていくのでしょうか。
一方その詩桜に追いつけ追い越せで頑張りまくった智宏は逆に悪い感じに成長してしまって。
3教科297点とか300点とかとってしまう現役生徒会長という時点で、誰だてめぇ!という感じですが
智宏くん、ここに至っても尚自己評価が低いまま。
そして評価の低い自分が出来たことは周りも出来るだろうという振る舞いが増えて周囲のハードル爆上がり。
その象徴が、ヤングケアラーに対する対応ですが
(これは本来学校側案件で、生徒会の手には余る相談だと言うことは分かっています)
母親の介護に忙しくて学校に来られないと言っている彼女に対して
退学したくなければ学校に来い・成績を上げろ は何の解決策にもなっていないのですよ。
(言っているのは詩桜ですが、智宏はこの一連のやりとりを、誠意に満ちた対応と結論付けている)
詩桜の方は、これでも対応策を考え寄り添おうとしているだけ改善されているというのは分かるのですが
智宏の方がこれで納得しちゃ駄目でしょう。
1年前の智宏ならおそらく、それが出来ないから相談に来てるんだろうふざけんな!くらいは思ったはずです。
それがすっかり出来る子目線になって、しかもそれに無自覚な智宏くんは平然と正論の刃を振り下ろす。
しかもその根拠はおそらく、詩桜や妃愛が(そして自分もね)智宏の事故後の介助とリハビリを乗り越えているということ。
ここにあるのは、出来る人が出来ない人にむける
「ぼく(たち)が出来たんだから君も出来るでしょう?」
という、上から目線な正論という名の暴力。
これは物語本編開幕当初の智宏(や華乃やあすみ)が、世間から傷つけられ苦しめられ続けていた論法で
絶対に智宏に使わせてはいけないロジックのはずなのに。
だから自分はこの√の智宏が大嫌いだし
この智宏に罪悪感を抱えながら付き合っていく詩桜を、不幸だと思っています。
続いてかのちん√。
打って変わってあまりにも平和なド安定カップルを見せつけられて
細かい内容をほとんど覚えていませんw
なんだこのバカップル、早く結婚しろ!
仕事に対してとても厳しい姿勢を見せ
しかもそれに自ら答え続けるハイスペック社会人な彼女と
智宏に対してエロかわポンコツな彼女。
そんな両面を甘々な半同棲生活の中で存分に楽しく描いてくれました。
秋野花さん大暴れと言っていい演技も必聴で
一番ファンディスクっぽい内容のお話だったのではないでしょうか。
アメリ√。
告白して付き合うまではハイクオリティなキャラ萌えが提供されて
大いに楽しませてもらいました。
好意全開で接してくるアメリと
陽キャ独特(まあアメリ独特と言った方が正しかったのですが)のノリとテンションに戸惑いつつも
振り回されるのを楽しみながら期待を膨らませていく智宏。
倫理観を下地にした言動のファウルラインがとても近いが故に二人共が感じていた
二人でいる時の居心地の良さ。それが恋へと発展していく流れには説得力もありました。
ただ、付き合いはじめて以降、生徒会の仕事(文化祭案件)が絡んできて以降は
少々長くなり過ぎ、だれてしまったでしょうか。(しかも主に活躍するのは華乃と広夢)
そして準備を引っ張った割には文化祭本番は演出含めあっさり目で。
個人的にはもっとアメリとのイチャコラや
問題が起きるにしても、二人の間で何かあるみたいな感じにしてほしかったかなと思います。
ところで、アメリは犬のイメージとされていましたが、自分にはピンときませんでした。
あの、話題もテンションもコロコロ変わるような勢いはむしろ猫っぽいような気がしたり。
まあワンワンキャンキャン言っているアメリが可愛かったので、それでいっかな!(思考放棄)
あすみ√
(※一応先に言っておきますと、自分はあすみちゃんを十三人しかいない自分にとっての殿堂入り嫁として扱っています。
天使で怪物なあすみちゃん、ちょうかわいい)
これはもう、予想通りというかなんというか。
どんどん成功の階段を(貪欲に)昇っていく、小さな怪物あすみと
それを陰で支える智宏(と鳴門さん)。
細かいことや周囲の雑音は、自分の信者(鳴門さん)にまかせきり。
自分の夢にとって有用な人物であれば普通に会って活用できる対人・男性恐怖症(笑)
疲れたり困ったら普段はほったらかしにしてる恋人に甘えに行く。
これを赦してくれる恋人に出会ったことはあすみの幸運ですが
忙しいからという理由で恋人に二週間も三週間もほったらかしにされても尚
(果てはバレンタインを忘れられても尚)平然と理解を示す智宏くん、君はそれでよいのか。
まああくまであすみとって一番は歌で
自分はそれに取って代われないと地の文で述懐して、全然悔しくないよと納得してしまう時点で
彼はすでに悟りを開いているのかもしれませんが。
数年後社会に出た時、周囲の一般人に「なにそれ都合良すぎない?」と突っ込まれて、おかしいことに気付く
そんなことにならないよう祈っておきます。
(彼の周りはクリエイター気質の人間と、それを支えるのを生業としてる人間ばかりなせいで
現状それを指摘してくれる人はいない)
しかしとなると、本編の感想であすみの方が智宏を捨てる(踏み台にする)可能性に言及しましたが
実は智宏の方が付き合い切れなくなる可能性もあるのかなぁと、今は思っております。
妃愛√
ある兄妹が過ごした穏やかで賑やかな一年のお話。
この√の凄い所は、徹頭徹尾智宏と妃愛、二人の愛情の在り方のお話になっていることですよね。
元天才子役兼現覇権声優で
実写映画の主演も決まっている妃愛
でも彼女のそんなクリエイティブな部分はほとんど描写されず
家族としてお互いを大切に想い合いながら、恋人としてお互い熱烈に愛し合う。
そんな二人の営みを
ほとんど山も谷もない物語の中で、静かに丁寧に描写してくれました。
妹を恋人にしてしまった兄の想い
兄を恋人にしてしまった妹の不安
妹が昔からスーパーだったが故に(いい意味でも悪い意味でも)慣れてしまっている兄に対し
兄がどんどん真っ当な人間になっていくことで人気が出て、周囲に人が増えて、あまつさえモテ始めてしまう
そのことに対して喜ばしいことと思いながらも、独占できなくなってしまった寂しさと
実妹故に、赤の他人の魅力的な他の女性に兄を取られてしまうのではないかいう根源的な不安を抱えて
ひたすらに、何度も何度も兄から「自分を必要としている」「愛している」という類の言葉を欲しがる、妃愛。
そして自分からも何度も何度も「だいちゅき」と(やや冗談めかしているのも含めて)言葉にして兄を繋ぎとめようとする、妹。
はい、とてつもなく重い女の子です。多分ここ数年自分のエロゲ履歴を遡ってもぶっちぎり。
でも、そんな重い彼女だからこそワタクシは
《この娘はどこへもいかない》
と、強い信頼をおけたのです。
周囲の前で自重しないことが増えてきていたので
いずれバレるのでは?という不安は尽きませんが
仮にバレたとしても、自分が本編の感想で書いた<二人で堕ちていく>なんてことにはならなさそうですね。
きっと智宏が堕ちることも分かれることも許さないし認めないでしょう。
そして必ず、二人分のささやかな幸せは確保してくれる。
そう信じることが出来るようになった、とても素敵な√でした。
きっと二人はこの一年間のような、何気ない小さな幸せを積み重ねる日々を望んでいるので
どうかどうかこの愛しい兄妹恋人に、そのような幸多き未来を。
最後におまけで主人公の智宏くん。
生徒会長なんてやらされて、大過なくどころか立派に勤め上げているので誤解されがちかもですが
彼は、サポート役の方がずっと栄える人物ですね。
実際生徒会長としてやっているのも、ディレクター(というか調整役)のような役割ですし
裏方として華乃を支えあすみを支え妃愛と共に歩んでいきながら、彼女たちを輝かせるその姿は
立派なエロゲ主人公の格がありました。
(でも裸立ち絵まで準備されてる飯田伊々奈ちゃんと神田柑凪ちゃんを攻略しなかったのはエロゲ主人公の風上にもおけぬ)
そんな彼の最大の魅せ場は、妃愛にたいする手紙ですね。
実は上にも書いた通り、章タイトルを見た段階で智宏が何をやるのはなんとなく想像がついてしまったのですが
それでも華乃ともどももらい泣きできるくらいには感動してしまいました。
そしてあの手紙の
≪これから長い時間を君と共に過ごす強さをゆっくりでいいから身につけていこう≫
という彼の決意は、きっと妃愛に対するだけのものではなく
『ハミダシクリエイティブ』という作品に登場する全てのヒロインへの彼なりの回答であり
愛情であったのだと思います。