《春になったらこのコミュニティから離脱してしまう主人公が過ごす半年間》という設定。 今まで当たり前だったはずの日常に制限時間を設けたのが秀逸で、この設定のおかげで日常の何気ない会話、ごく当たり前の友人たちとのやり取りのひとつひとつが、かけがえのない愛おしいものとして輝きを放つことになりました。HPのSTORYで掲げられているように、本当に誰も死にません。大きな事件も起こりません。でも、それでいい。 ……なお長文感想は前半ネタバレ無し(HPに書いてあること程度)後半ネタバレありにしてあります。
今 春が来て 君はきれいになった
去年よりずっと きれいになった
【作詞:伊勢正三 『なごり雪』より】
おそらく物語が始まる前の主人公がそうだったと思うのですが
本当に特別なことは何も起こらないし、何も語られていないので、
目を瞠り、耳を澄ませないと気付くことが出来ないのですよ。
でも主人公は実母が再婚したことで、否応なしに新しく出来た義妹と向き合う必要が生じた。
そしてほぼ同じタイミングで入試の結果が出たことで、町を出る目途が立った。
さらにはこの町に帰ってきた憧れの幼馴染である群青に焚きつけられた。
それらの出来事をきっかけとして、今まで自分の周囲にありながら目を向けてこなかった人やモノ
自らが属する空間に、想いを馳せる機会を手に入れたのですね。
そうして今までは気付かなかったことに気づき
気づいたことを気にかけて、より良くなるように心を砕き
彼も彼女もさらにはその周辺の人々も変化していく。
距離感を測りかねて戸惑う七と語り合い
人が好過ぎる琴羽が背負うものを気にかけ
いなばの贈る押し花の花言葉を考え
衣良先生のちょっとした配慮や優しさを受けとめ
一見ワガママなだけにも見える夢の苦しみに寄り添い
年が明け、雪が降り、恋を詠い、卒業を迎える彼らのささやかな日常は
本当にかけがえなく愛おしいものとして光り輝くものとなったのです。
だからどうかこれからプレイする皆さんも
批評空間でプレイ時間中央値15時間とあるこの作品を30時間かけるつもりで
彼らの声や表情や仕草や言葉遣いのひとつひとつを、かみしめるようにプレイしてみてください。
そうすればきっと
主人公が手に入れることが出来たその光り輝く日常を
自分のことのように慈しむことができるから。
*************** この下は(軽い)ネタバレありです。ご注意を。 ***************
青海原 ――― 蛇足 ――― なごり雪
・一番好きな√は夢√です。
この√が一番変わっていくヒロイン。変わっていく関係が綺麗に描かれていたように感じます。
記憶が間違っていなければ、CGにクラスメイトの表情がしっかり描かれるのはこの√だけで。
彼と彼女が変わることで周囲もポジティブに変わっていく。
その幸福なありさまを、しっかりと表現してくれているのです。
主人公が学校の屋上で思わず撮った一枚。
きっと≪去年よりずっときれいになった≫であろう、あの夢の笑顔こそ、この作品の象徴。
何気ない日常の輝きに触れることのできた、幸せに満ち溢れた瞬間だったと思います。
・Hシーンに関してはCUBEは毎度頑張ってくれる(性癖に刺さるかどうかは別)ので
今回も期待していたのですが、その期待通り回数・内容共に充実。
そして七の初Hシーンでまさかの性癖ど真ん中。
強いて言えば、そこは勝負下着で来ようね七ちゃん、と思わないでもないですが
脱がし・体位・アングル・イベントCGカメラワークOFF機能・BGV・中出しと
めったに見られない綺麗なストライクを勝ち取ってくださったので感謝の念に堪えません。
毎回こういうHシーンの搭載を確約してくれるなら
思考停止の予約買いをお約束いたします。
・そうそうBGVのみならず、音声周りが強いのもCUBE(CAFFS系列と言うべき?)の強み。
音声再生中に履歴やコンフィグ、セーブ画面等を開いても閉じても音声が途切れない作品は案外無いものですし
驚いたのは、メッセージウィンドウを消去した状態で音声再生(F9)ボタンを押してもキチンと音声が再生されること。
細かいことですがこれが非常に快適で。
声を大切にする姿勢は、これからも継続していって欲しいものです。