生命倫理の後退した世界で愛を叫ぶ物語。真面目に丁寧に「愛」を取り上げ、それが故に地味になりそうな所をレベルの高い演出(技術)力で最後まで支えながら語り切ってくれました。あらすじから想定していた物語よりこじんまりと収まってしまい肩すかしを食ったのと、納得のいかない部分もあるのとでこの点数ですが、総合力の高い優秀な作品だと思います。…………長文感想は納得のいかなかった部分についてばかり書いているため文句だらけになってしまいました。好きな作品を貶されたくない方等は、ご覧いただかない方が良いかもしれません。
この物語の大きな目的の一つが
夭折したが故に神格化されてしまった優灯の幻影の超克だと思うのですが
(正伍も遊離も姫風露も優灯を意識しまくり)
遊離ENDはまだしも姫風露ENDだと、その超克が出来ていないですよね、アレ。
どこまで行っても未来予知の出来る優灯に先回りされてしまっていて
すでに死んでしまっている優灯に支えられながら課題をクリアしていく正伍たち。
最後の二択まで想定内だったっぽい態度を取られた時点で
自分が遊離だったら発狂するか全部投げ出すかすると思います。
そして姫風露もよろしくない。
優灯から正伍を奪う事、優灯以上に正伍を愛すること、正伍に愛されること、それらを肯定するのに
「自分の愛は優灯から託された愛だから」(だから愛していいんだ)という理由を使っているのです。
これではダメだろうと。
そうではなく
「この愛は自分だけのものである」と
「愛するように設定されたからでもなければ他人の影響を受けたものでもない
ただただ、自らが自らの意思によって彼を愛しているのだ」と
姫風露がそういう確信を持てた時初めて、彼女は堂々と優灯から正伍を奪うことが出来るのではないでしょうか。
そしてその確信を持ってもらう為にこそ、さらには自らの愛を証明するためにこそ
正伍は姫風露を追いかけてきて、チェス勝負を挑んだのではないのでしょうか。
にもかかわらず、チェスに勝ったはずの正伍は逆に姫風露に説得されて彼女を消そうとし
姫風露は優灯から託された愛情を抱えて一安心。
…………事ここに至って尚、優灯の呪縛から全く逃れられてないぞこいつら、、、、、、
もちろん最後は正伍が姫風露を選んでハッピーエンドな訳ですが
その二択すらも優灯に試されているような描き方で。
こうしてこの物語は最後まで優灯のデッドハンド(死者の手)に支えられ、導かれるがままに終わりを迎えるのです。
超克すべき相手、まさにその張本人に手取り足取り持ち上げられるようにして壁を乗り越えたとして
果たしてそれは本当に優灯を超克したことになるのか。
実際正伍たちの成長は(優灯の過干渉のせいか)中途半端に留まってしまったと言わざるを得ません。
最後の最後で揺らぎまくって変節しかける正伍と
ロリ化弱体化した上に未だ自己評価が低く、正伍の愛を信じ切れて無い風味の姫風露
優灯の助けが得られれなくなるこれからがとても心配な終わり方でした。
(直後の事件(アペンド参照)でおっ死んでも不思議じゃない組み合わせだと思います)
&&& 蛇足 &&&
・演出(技術)力は本当に高かった。
目パチ口パクはともすれば動きが硬く不自然になってしまう事も多く、正直あまり好きではないのですが
この作品ではとにかく柔らかさを感じさせてくれていて。
目だけ口だけで無く、表情筋全体が動いて表情をつくっているような錯覚を感じることが出来ました。
(ただそれと陰影を描く塗りの質ゆえか、時折不気味なリアルさを感じてしまったのはご愛敬か)
・そして最後のチェス勝負。
あそこまで厨二心をくすぐってくれるチェス演出には素直に脱帽です。
食い入るように画面を見つめ続けてしまいました。
・月野きいろさん無双でした。
姫風露がフニャっとしている時の声なんかは聴いてるこっちもフニャフニャになりそうで。
あの声を聴き続けるためだけに姫風露をとことん甘やかしたりしたいです。
・藍視伯父さん好きです。ナチュラルに狂ってるあの感じ。そしてシスコン。
(作品内で叔父になってますが、正伍からすると母の兄なので伯父が正しいですね(細かい))
最初の会食の時は、この人が狂ってるのか世界の常識が現代と変わってしまっているのか、判断がつかなかったのですよ。
食事中に本当にしれっと遊離にひどいことしたの暴露したり
優灯や遊離の容姿を福笑いの結果とのたまったり(事実でも決して言ってはいけない類の言)しているのに
それに対して正伍が何も否定的な反応を返さないんですもの。
伯父さんの感覚が当たり前の世界なのかな?と誤解してしまいました。
ま、正伍の父親や晶等々、この作品駄目な大人ばかりなので子どもも歪みぎみになっちゃうということなのかなー。
・そしてそう、晶さんはあれ駄目な大人ですよ。ついていっちゃいけません。
だってこの人、自分の死にたがりに他人巻き込んで責任取らないんですもん。
人を殺して以降の彼女は、その贖罪の為に生きています。
人を助けて正義の味方を出来れば良し。失敗して死んだらそれはそれで良し(死ねば贖罪になるかもしれない)。
そんな生き方に他人を、ましてガキを巻き込んじゃいかんです。
責任取りたいなら一人で勝手にやってください。
しかもこの人はもう大人で生き方が決まってしまっているせいか、結局最後まで変わることが出来ない唯一のヒロインでした。
ひなも遊離も姫風露も多かれ少なかれ良い方向に変わって、正伍と向き合うことが(ある程度)出来ています。
ところが晶だけはただただ前を向いて自分の生き方を貫くだけで、正伍を顧みようとはしません。
(だから晶ENDでは正伍が彼女に付いていくしかなかった)
しかも他ヒロインEND後にもしゃしゃり出てきて、自分の生き方に正伍たちを巻き込もうとしたりもします。
おそらくは藍視伯父さんよりも晶の方がよっぽど、正伍にとっての死神となる危険性が高いでしょう。
・エリーゼの一件はアレ、『われはロボット』(@アシモフ)に似たような話がありましたねー。
古典尊ぶべし。思わずニヤリとしてしまいましたが、あれを姫風露√に活用してきたのはお見事でした。
偽神の禍々しさとエリーゼの薄目の不気味さ(ぇ)は、しばらく忘れることができそうにありません。
・ところで登場人物の皆さま(特に正伍と姫風露ですが)
正伍を守り切り笑顔で逝った散桜花(ナイスシスコン)のことも時々でいいから思い出してあげてくださいね、、、、、、
・若さが足りないワタクシとしましては、冒険とかどうでもいいので
ひたすら姫風露に甘やかされる二人だけの世界をいつまでも堪能していたいとか思っちゃいました。
姫風露が居れば生活に困りそうも無いし、安心・安全・便利な世界の中で
絶対に裏切らないであろう美女の愛情に包まれながら、延々とぬるま湯に浸ってられる、、、、、、、、、、、、、、、、、、
ああっなんて素晴らしい老後っ!!!(終)