学園萌えゲーにもシナリオゲーにもなれなかった中途半端な作品。萌えゲーとしては女の子たちの心情や会話がやたら生々しいし、シナリオゲーとしてはせっかく設定した出来事や抱えている問題について掘り下げなさ過ぎです。いったいこの作品はどこを目指して制作されたのでしょうか。
実際にプレイを終えて
ブランド側がシナリオでも魅せる学園萌えゲー(という方向性)をライターにオーダーしたら
萌えも楽しめるシナリオゲー(という方向性のもの)が帰ってきてしまって
慌てて軌道修正してみたけれど、修正しきれずに、どっちも中途半端になってしまった
みたいな舞台裏を勝手に推測してしまいました。
だってあんな生々しい心情や会話のやり取りをこなすヒロイン達で萌えゲーは無理ですって。
シナリオゲーでこそ映えるキャラクターですよ、あれ。
さらには、主人公の抱えている諸々の問題の重いこと。
あのキャラクター達があの問題に真剣に向き合ったら萌えゲーにはなりませんって。
で、それならば開き直ってガッツリとシナリオゲーしてしまえば良かったのですが、そうはなっていません。
その原因は、問題そのものと、その解決双方の描写不足。
というか、意図的にその辺りをしっかり描写することを避けていたような気すらします。
それをやってしまうと、萌えゲーとしては重すぎるから。
不自然だと思いませんでしたか?
実際に天音の足を折ったシーン--------描かれず
襲われた天音を助ける時にやり過ぎて、『葉原の悪魔』となったシーン--------描かれず
スランプに陥った伊月が復活して、大会を制するまでの流れ--------描かれず
伊月が実際に撫子さんと対峙するシーン--------描かれず
瀬戸家と白石家の親交--------描かれず
父を亡くして崩壊寸前になった修司に、葵が手を差し伸べるシーン--------描かれず
幼いこのみが、修司の部屋で本を読んでいるシーン--------描かれず
過去、修司と撫子さんが実際に口論しているシーン--------描かれず
シナリオに深みを持たすためには必須と言える、これらのシーンは全て
過去の出来事として語られるだけで(伊月vs撫子だけは未来ですね)
実際の場面が描かれることの無かったシーンです。
描かないなら、設定する必要ないじゃないですか、こんなの。
こういう設定をしたからには、描くつもりがあったんじゃないかと思うのですよ。
少なくともシナリオライターの方には、そのつもりがあったのではないでしょうか。
でも、実際問題として、描かれなかった。何故。
……ブランドの方からストップがかかったからって考えると、しっくりくるんですよねー。
もう少し軽めの学園萌えゲーを作りたかったブランド側としては
この辺りしっかり描写されてしまうと、いかにも重すぎます。
ついでに言えば、分量的にもかなり長くなるでしょう。
それを避けたかったブランド側がストップをかけ、描写するのを止めた結果
生々しいキャラ設定と、重すぎる主人公の過去設定だけが残ってしまった。
そしてそれらをほとんど消化できないまま、作品として完成させてしまった。
そんな感じだったのではないでしょうか。
……うん、妄想です。どうしようもないくらい妄想です。
でも、こうでも考えないと、この作品の中途半端さはワタクシ本気で理解できないのです。
この、どういう作品にしようとしたのか、全く分からないこの感じ。
制作の方々が、狙ってこういう感じにしたっ!…………いや、ないよ、無いでしょう。
それとも、萌えとシナリオの二兎を追って一兎も得られなかったなれの果てが、この作品…………?
何だか盗作疑惑で揉めたらしいですが、そっちは当事者間で決着がついているようなのでツッコみません。
それよりも
萌えゲーなんだったら、もっと『萌え』を
シナリオゲーなんだったら、もっと『物語』を
こちらがしっかりと享受できるような作品を、創っていただきたいものです。
~~~蛇足~~~
・あれ?……書き始めた時に考えていたよりも、辛口になってしまった……
ワタクシ、この作品のヒロイン達の会話のやり取りはかなり好きで
プレイしている間は、物語の展開や萌え云々よりも、そっちをより楽しんでいました。
ヒロインと主人公の間だけでなく、ヒロイン同士でさえも結構歯に衣着せぬ物言いがまかり通っていて
うわ、言っちゃうんだソレwww とか
思ってたこと代弁してくれたwww とか
いちいち的確過ぎて痛烈な言葉の応酬に、時々腹を抱えるレベルで笑っていました。
しかも、声優さんの演技が上手いもんだから、尚の事その場の空気とかが伝わってきて。
特に、あじ秋刀魚さんのS声と
真中海さん(久し振り!)の気安さと気怠さの入り交じった自然な声がたまりませんでした。
・さて問題児な主人公
「どうすればいいのか分からない」
この言葉だけで考えている気になって、その実どうすればいいのか全く考えようともせず逃げ回るだけ。
自分のやったことや、現在進行形で迷惑をかけていることに対して、向き合って苦悩している『振り』だけして、何も行動に移さない。
そしてついにどうしようもなくなると
暴走して警察沙汰
無気力ダメ人間化
放心からの居候
何だかんだで分かってくれてる天音に甘え
どん底から救ってくれて態度も気安い葵に甘え
分からないからお話しよう、と訴えかけてくるこのみからは逃げ
こちらの事情をよく知らない伊月には寄りかかる
で、挙句がこのみ√の強姦ですよ。
…………好きになれと、この男を。
確かに家庭に恵まれてないし、なんでも一人で抱え込むのは
亡き母親の一人で生きていけるように、という願いが裏目に出た結果で、同情の余地はあるのですが……
でも似た境遇のこのみがあんなにいい子ですよ。
(愛情やコミュニケーションに飢えてる娘とはいえ、強姦後の心の動きは理解し難かったですが)
撫子さんも実父もひどすぎるのは間違いないですが
そのこのみもほったらかしで、家族の溝を埋める努力をほぼ放棄したまま逃げ出して、しかも勝手に自滅しかけたこの男に
プレイヤーの方から好意を向ける必要はないでしょう。
…………あぁ、だからヒロイン達にもボロクソ言われるのか(納得)
・一番好きなヒロインはこのみです(ロリコンって言うな)
この作品、他のヒロイン達は、容姿は大人びていて性格はかなり生々しい、という感じで
いい意味でも悪い意味でも、リアル寄りのキャラクターをしていたと思うのです。
そんな中で唯一、このみだけがわかりやすく二次元ナイズされていて。
プレイ中、他のヒロインの言動に削り取られたHPを、このみちゃんに癒されることで取り戻すということを繰り返していました。
尤もこの娘も意外と直球を放るので、油断していると痛恨の一撃を喰うのですが……
学園一モテる、という伊月を比較対象として、頭一つ抜けた美人と周りに言わしめるこのみの美少女っぷりは
他作品でもあまりお目にかかることの出来ないものだと思います。
(普通の萌えゲーって、ヒロインの容姿にはっきり優劣つけたりしないでしょう)
そんな部分まで、中々興味深い作品ではありました。
あっただけに……もう少し、何とかならなかったかなぁ…………