人生賛歌であり、生命賛歌であり、時を越えた悲恋物語であり。その全てを著名な音楽群と雰囲気ある絵で荘厳に彩り表現した傑作。個人的な事情でクオン√がツボに嵌まってしまい、点数がかなり高めになっている自覚はありますが、その価値は確かにあります。お見事でした。
業に縛られ、業に生き、業に死ぬ。
1200年前から彼女たちは何度輪廻転生を繰り返したか分かりませんが
おそらくその都度彼女たちは同じ業に縛られ、その生に苦しみ、そして死んでいったのでしょう。
作品で表現された現代の彼女たちの生もそれは過酷で
その過酷さの原因が業によるものだなんて、いくらなんでもあんまりじゃないですか。
(特に寧子/ノノなんて、畜生道に落ちてるんですよ。あんな健気な子が)
(※調べてみたら、畜生道はこの世で目的を果たすことができずに死んだ者や恨みを訴えようとして死んだ者が落ちる世界だそうな。
伊予姫を守れなかったことと、その仇を取ろうとしたあの行動が原因だとしたら、やっぱりあんまりです)
でもだからこそ
彼女たちがカルマと出会い
自らの業と向き合い、抗い
カルマがその業を断ち切る
そして此岸に戻った彼女たちが、自らの置かれた環境を受け入れ、新しい心持ちで生きていく。
その姿が(1200年前の出来事を知った後だとより)美しく輝いて見えたのです。
しかしそのような中で久遠/クオン。彼女の業『人を愛する業』
これを断ち切ることが救いに繋がるなど、なんと残酷なことを突き付けるのか。
しかも消滅してしまうクオンには他の彼女たちにはあったその後が無い。
やっぱり、やっぱりそれはものすごくあんまりじゃあないですか。
そうしてハッピーエンドが全く見えなくなり(途中までのカルマくん同様)思考の袋小路に嵌まったワタクシだったのですが
それ故に、カルマくんがその袋小路を突き破る決断と行動を示してくれた時には、涙が止まりませんでした。
重い決断です。一面から見れば決して正しくはありません。決してハッピーエンドでもありません。
ですが『人を愛する業』を持った女性への執着を捨てず、その業も否定せず(断ち切らず)
仏道世界の住人である彼が、彼女へと示してみせた『愛』に、ワタクシは敬意を表したいのです。
見事な決断でした。見事な終わり方でした。
見事な『愛』を伝えてくれて、ありがとう。
煩悩まみれの***蛇足***何が悪いか
・一言感想の所に、個人的な事情云々書きましたが
本当にたまたま、この『夏の終わりのニルヴァーナ』の内容も全く知らなかった状態で
ちょうどこの作品のプレイを始める直前まで『桓武天皇』というタイトルの本を読んでいたのですよ。
早良親王の実兄(同母兄)であり
作中では久遠と伊予の実父であり
当時の帝。主上その人です。
だからまあ、当時の政治状況も、個人名も、人間関係も、虚実織り交ざっているその虚の部分と実の部分とかも
(例を挙げると史実では伊予内親王ではなく伊予親王。男性ですね。伊予親王の変で亡くなるのももう少し後)
諸々の微妙な機微まで含めて(多分知らずにプレイした方々よりも)細かく分かってしまって。
(早良親王は藤原種継暗殺事件で処断されているけど、藤原是公の方はその後何故か息子が出世しています。
だからこの二人が対立関係で描かれたのかなとか)
無知なままだったら考えることも出来なかったであろう、登場人物たちの心の動きにまで想いを馳せることが出来てしまったこの幸運。
もう本当に、クオン√は嬉々として読み進めてしまいました。
偶然に感謝です。
・でも一番好きなキャラはナユだったり。
前半の3つのお話の中では彼女の物語が一番好きでした。
病の中でも明るく生きることを諦めない彼女。
それでもどうしようもなく、諦めそうになってしまった時、彼女に届く、小さな奇跡。
伝わっていた、繋がっていた、優しい想い。
そしてそれを受けた彼女の決断。
八つ当たりしてしまった母に謝りたいからと、精一杯大きな声で、ありがとうと言いたいからと
余命半年の、病で苦しむことが確定している生へ戻りたいと願う彼女。
その凛々しく美しい笑顔。
圧倒されてしまってもう自分は何も言えなくなってしまいました。
√序盤の遊びまわるシーンもとても面白く(カバディは絶対声優さんにガチでやってもらってるでしょコレ)
最初から最後まで楽しめる、出色の√だったと思います。(クオン√の凄さとはまた毛色の違う素晴らしさでした)
・で、ナユの中の人である車の人こと不破弥莉亜さんの演技も、この方のベストとも言えるものだったのではないかと。
ロリっぽい見た目のキャラですが、必要以上にロリな声の作りにしなかったことで
明るいギャグにも辛いシリアスにも適応する声が出来上がっていました。
共通√、さらには彼女の√の序盤中盤のドタバタを楽しいものにしたのは彼女の明るさと行動力。
そしてそれを支えたのが不破弥莉亜さんの演技力。
実力派の声優陣の中でも、ひときわ輝く演技でした。
・そう、ナユ√の序盤もそうですがこの作品、日常のドタバタ描写もとても面白いのですよ。
特に自分がツボってしまったのが、ナユの部屋でみんなでゲームをやるシーン。
待ちガイルまでは何とか堪えたのですが
デイトナUSAの替え歌が音楽付きで流れたところで腹筋崩壊。
あれが刺さったプレイヤーほとんど居ないんじゃないかと思うのですが
よくもまああんなコアなネタを持って来たものです。
ライターさんが世代だったのかな?
・Hシーンは全裸Hが多く、とても俺得状態ではあったのですが
如何せん脱がす差分はほぼ無しでそこは残念。
まぁ、全体のCG枚数もかなり多めですし
Hシーンへのリソースの傾注は難しかったのでしょう。
ところで、クオンの最後のシーンは、あれは、その、なんだ。
…………とてもいけないことをしてる気分になるよね。
・演出に関しては、とにかくセンスが秀逸。
クラシック等々有名曲を並べたBGM。その編曲の妙。
それを抜群のタイミングで質高いCGと合わせてくるんだから
魅せ場が盛り上がる盛り上がる。
特に迦留魔 vs 美羽 のシーンは本作最高クラスの盛り上がり。
絵と声とBGMと文章の融合した総合芸術たる、ノベルゲームの神髄を垣間見た気がしました。