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cyokin10wさんのキスベルの長文感想

ユーザー
cyokin10w
ゲーム
キスベル
ブランド
戯画
得点
74
参照数
444

一言コメント

久々に学園モノで、この主人公羨ましい!とか思ってしまいました。キスシリーズはまだ2本目(もう一つはハルキス)なのですが、そのどちらのヒロイン達もキャラクター性の落ち着いた感じの娘が多く、ぶっ飛んで非常識な娘とかアタマのおかしい娘が出てこないので、とても地に足の着いた感じの雰囲気が形成されています。それ故か派手さ(盛り上がり)に欠け、印象に残るシーンの少ない内容になっていますし、全体的な短さがヒロイン描写の足を引っ張っている感はありますが、ワタクシ個人としましては、何となく静かでホッとできる、息抜きのような作品となったのでした。…………長文感想はその全てを我が殿堂入り嫁(道明寺萌美(@ピュア×コネクト)以来1年振り9人目)と相成りました、長津田夕美へと捧げています。他の部分の出来不出来云々に関しては全く触れていないので、その点ご留意の上ご覧ください。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想




長津田夕美




【夕美】
あんな毎日ちゃらんぽらんに生きている不真面目を絵に描いたような気楽な人間に、私のちはるを汚されてはたまらない……!




この娘が最初に主人公に対して持っている感情は、〔警戒〕です。

ちょっと危なっかしい所のある自分の親友に、変な虫がつきそうになっている。
私が排除して守ってあげないと!

そんな感じに彼女はクリスマス会を手伝い始めますが、これが誤算大誤算。
〔警戒〕するが故に、彼のことをよく観察しなくてはならなくなってしまったのです。

その結果

排除対象のはずの彼にあっという間に好意を持ち
そこから少しずつ恋に落ちていきます。

そしてその自らの好意や恋に気付かないように
意識的に目を逸らそうとし続ける彼女の態度や述懐は
どんどんと可愛らしいものになっていくのです。


【夕美】
他の感情なんて、織り交ぜてやるものか。


段ボール落下事故から庇われた後の彼女の心情描写

他人の為に貧乏くじを引いた上で、それを不満に思っていない主人公の性格を好ましいものと感じてしまった彼女は
そんな自分の感情に驚きつつ、そこからとりあえず目を逸らすことに決めます。


【ちはる】
お、なんか夕美の機嫌がいい?


しかし好意に蓋をしてみたものの、その機嫌の良さをあっさり親友に見抜かれる夕美。
これ以降の彼女は、心情描写がされればされるほど、プレイヤーに対して『語るに落ちる』ような状態になっていきます。


【夕美】
「ちはる一人で男の子の家に行かせる訳にいかないから」


主人公が風邪をひいた時、お見舞いに来て一言。
テンプレ科白ではありますが、不満そうに、語尾が上がる感じの喋りが素晴らしく言い訳じみていて。

実際その後の心配そうな声音、食事を作ってくれるその姿。
ちはると一緒に来ているはずなのに何故か彼女にだけあるCGで、彼が少しでも食べ物を食べられる姿にホッとする表情。

ちはるをダシにして自分が見舞いに来たかった感がヒシヒシと伝わってきます。


【ちはる】
「え。夕美、江田くんと遊びに行ったの?まさか、二人で……?」

【夕美】
「ちはる、勘違いしないで!市民会館の下調べに行った帰りに誘われて、その……ついでだから」


いつの間にか主人公と二人でジャンボパフェを食べていたことがうっかりバレてしまい大慌ての夕美。
勘違いしないで!などというテンプレツンデレ語が入っている時点でこちらとしてはニヤニヤするしかありません。

さらにこの直後、畳みかけるかの如く餌付けを始め


【ちはる】
「この様子だけ見てると、仲のいい恋人に見えなくもないんだけど」

【夕美】
「な、なに言ってるのよ!?」


特に深い意味は無さそうなちはるの感想に、少々過剰な動揺を見せてしまうその姿。
この辺りからもう、夕美の主人公に対する採点はどんどん甘くなっていきます。


【夕美】
「言ってなかった?私、江田君の事は結構信じてるから」


一緒に買い出しに行ったホームセンターでの彼女の述懐。


【夕美】
――その、彼の隣にいるのがちはるではなくて、自分だったら、と想像してしまったことだろう。
そしてそれは、自分でも驚く事に嫌ではなかった。


彼に対する好意的な理解が進んでいることと
『もしも』で塗り固められた過程で、時々無性に悩んでいること。

そしてそれを「楽しい」と感じてしまう、彼女が名前を付けずに置いてしまった気持ちは
きっとすでに、好意から恋へと変わってしまっているもので。

目を逸らし続けていたその感情の持って行き場に困った彼女は
その想いを、ちはるへの心配あるいは嫉妬という形に隠蔽して主人公にぶつけてしまいます。


【夕美】
「そういうの……私は悪くないと、おも……じゃなくて!」
「ちはる、そうちはる。あの子が!そういうの、気にするタイプ、だから」

【夕美】
「江田君は……ちはるの事、好き?」
「それは、ダメ……!」


隠蔽……………………??? うん、出来ていませんでした、見事に失敗(笑)


普段から彼のことをチラチラ見ているのを、よりによって本人に指摘されるわ
無意識に親切にしてしまっていたことを、やっぱりよりによって本人に指摘されるわ
何故か何故だか話が進むにつれ、立ち絵が遠くからジリジリ近づいてくるわ


【夕美】
「そうじゃなくて、ちはるばかり見てるから勘違いされるんであって、そうじゃなければいいというか」
「その、どうせなら……その分、私の方を見ていればいいじゃない……?」


喋れば喋るほどに彼への想いが整理され、募ってしまって
そしてさすがにそれは鈍感な彼にも伝わってしまって

夕方の校舎の屋上という絶好のシチュエーションでの(ちょっとグダグダな)告白!…………になりそうだったのですが
ここで邪魔が入ってしまい、彼女の膨れ上がった想いは、吐き出し切れずに心の内に溜まってしまいます。


そしてついにあのシーン


【夕美】
「……江田君と、ちはるが付き合う?」


こわばったその声色
思わずといった感じで流れてしまった涙。

吐き出し切れなかった感情が、彩乃につつかれたことで零れだしてしまいます。


そして、一度零れてしまったら止まらない、その感情。
周りにいた皆が戸惑うなか、ぽろぽろぽろぽろ零れ続ける彼女の想い。


一見ドライで毒舌でダウナー系で、何事にも他のヒロイン達より冷めている感じのあった彼女が
実はこんなにもウェットな情感を隠し持っていて、実はこんなにも女の子だったのだと知ってしまったこの瞬間。

とても綺麗で切なくて、とっても可愛らしいその姿に、ワタクシは恋に落ちてしまったのです。


告白シーンのふくれっ面も
周りが目に入らないかのように彼の胸に飛び込むその笑顔も

本当に愛おしくなってしまって。

この後共依存のような状態に陥り
際限ない甘やかし世界が繰り広げられた挙句
主人公が留年しそうになるというダメダメな関係になっていくにも関わらず

それを批判するでもなく、うらやましいなーと眺めてしまうダメな自分がおりました。





長津田夕美



【市生】
「味方がいねえ!」

【夕美】
「私がいるけど?」



四面楚歌の中、間髪入れずにそう言ってくれるあなたのことが、大好きです。