全体的に盛り上がりに欠け、読んでいて眠くなることの多かった本作。丁寧で、とても生真面目な文体は決して嫌いではありません。でも、もっと遊び心やあざとさが欲しかったように思います。もっともライターさんだけの責任ではないような気もしますが。CG枚数とか少ないですし(つばす絵は差分抜きで70枚)、演出もぱれっとならもっと出来るはず。せっかくのつばす絵なのに、イマイチぱれっとの本気を感じない一本でした。
”女の子と、恋をしよう”
このキャッチフレーズを掲げている以上
プレイヤーが二次元の女の子に恋をできるように創らなければいけなくて
その為にはヒロイン達を『かわいい!』と思わせるような印象的な出来事(いわゆるイベント)が必要で
そういう出来事を繰り返すことで、その子のことを『かわいい!』と思うだけでなく
どんな出来事に、どのような反応を示す子なのか、どんな考えを持って行動しているのか、そういった部分の理解を深めていく。
その流れの中で、二次元キャラクターという器に宿る人物そのものに愛着が湧いていく。
……この過程を経なければ、どんなに『かわいい!』を身に纏ったキャラクターが相手でも恋をすることなんかできません。
さて、それを踏まえてこの作品。
人物描写に関しては意外と(?)重視している方だと思います。
ただ、その描写のほとんどをヒロイン各個人の述懐のみに任せてしまったために、薄っぺらくなってしまったんですね。
設定された性格を、ヒロイン本人が説明しているだけにしか聞こえなかったのです。
そういった内面描写に共感するためには、説得力を持たせるためには、それを裏付ける行動が必要なのですが
その行動をプレイヤーに見せてくれるはずのイベントが、決定的に足りていないのです。
ティナに言われて突然恋に悩み始めるこなみに
他の人をないがしろにした!と唐突に怒り出す美桜に
いつの間にか悠真に惚れていることになっているエレオノーラに
違和感を感じませんでしたか?
そこに至るまでに発生したイベント。
それを受けての彼女たちの行動。
そういったところから
ああ、こなみは恋してたよね、とか
美桜ならここで怒り出すよね、とか
共感が生み出されていくはずなのですが
特に共通√の段階でそういったイベントがほとんど発生しないので
自分は彼女達の反応にただただポカンとするしかありませんでした。
大切なのは積み重ね。
それが欠けている上辺だけの『好き』では、女の子に恋をすることなんぞ出来ないのでした。
【蛇足1.月嶋夕莉は俺の嫁(夏咲詠(@ひま夏)以来、8か月振り7人目)という高尚な語り】
さてここまでつらつらと否定的に書いてきましたが、実は1人だけ成功を収めている娘がいます。
誰あろう月嶋夕莉です。
この子の√だけ、恋の過程がとてもしっかりと描かれます。
・冒頭に登場して現在の距離感が説明され
・姉妹喧嘩の仲裁で好感度UP
・和装メイド意外な一面を見せつつ、ナチュラルに口説かれ動揺
・杏の無茶には二人で論陣を張って対抗し、一緒にため息をつく
・夕莉の機嫌がよろしくないと見るや、わざわざ仕事を作り寮まで駆けつけ理解を深め合う悠真
・都合良く携帯を落とす夕莉と都合良くそれを拾って届ける悠真
・そしてついに風紀委員会への勧誘
選択肢で夕莉寄りを選んだわけでもないのに繰り広げられるこれらイベントは全て共通√のもの。
画面が完全女の子視点になって進行するのも夕莉視点が最初で、プレイヤーにとっては最も早く内面に触れられるキャラでもあります。
(しかもその中で、悠真に対する理解が進んでいるのも分かる)
他のヒロイン達とは明らかに一線を画す描写の深さ。
そりゃあ感情移入しますって、夕莉に。
これほど優遇されていれば当然です。
で、これを踏まえた上での個別√でのあのデレッぷり。
可愛いに決まってるじゃないですか!
そこまで書き始めるとそれだけで文字数1万を越えてしまいそうなので、涙を呑んで割愛しますが一つだけ
『ゆうまくんがすきです。』
これで悶死した方は挙手を願います。
ちなみに自分は三次元での人生を手放しそうになりました。
【蛇足2.あれ?死神設定って後付けじゃね?】
"女の子と、恋をしよう。"
始める前はただのキャッチフレーズかと思っておりましたが
ED曲の都度でかでかと出てくるあたり、この作品を創る際の基本コンセプトだったように見受けられます。
んで、このコンセプトに必要なものはと言えば、恋するに足る魅力を持ったヒロインを創り上げ、その子との恋模様を描く事。
『死神』という要素は、このコンセプトにとって必須ではない訳です。
それを踏まえた上で各√を見ていくと、死神要素がなくても成り立つ話ばっかりなのに気づきます。
二重人格の片方が恋をした場合、もう片方の人格とどう折り合いをつけるか、というのが問題の杏√
近親相姦の問題を正面から取り上げた(成功したとは言い難いですが)こなみ√
二人の恋が深まっていく過程と、それにより生じた姉とのすれ違いを描いた夕莉√
そもそも死神が関わっていない美桜√
さすがにティナ√は死神設定ありきになっていますが、共通√を含め他の√は見事に死神不要。
不要のはずなのに、後から『死神』設定なんぞを創り、未消化のままお話内に放り込んでしまったから
どの√でもお話の最中に死神が関わってきた途端、お話の質がグッと下がってしまうという現象を繰り返すことになった。
各√で死神が関わっている部分の、あのなんともいえない中途半端感・消化不良感はこれで説明がつかないでしょうか。
じゃあなんで邪魔でしかない『死神』設定を後から創る必要があったんだよ、という至極もっともなツッコミに
あっさりと敗北する程度の情けない見解ですが、それだけcyokin10w的には死神要素が邪魔だったんだなと思っていただければ幸いです。
【蛇足3.いつものかんじの蛇足】
・とにかく世界が狭いです。
気が付いた方も多いと思われますが、共通√中に私服姿を拝めないヒロインが何と3人もいます(杏・美桜・夕莉)
これは共通√ではほぼ自宅・通学路・学内しか舞台になっておらず
出先で遭遇するとか、皆で休日一緒に遊びに行くとか(学内プールはありましたが)、誰かの家に集まって一緒にお勉強とか
そういう定番イベントが一切起こっていないことを意味します。
つまり、ヒロインが学内で見せる顔のみで口説く娘を選びなさいと言われたも同様で
それはあまりにも判断材料が少ないんじゃないかなぁと思う次第です。
「もっとミニに、もっとヒラヒラに、もっと二次元っぽく!」
(丸戸史明著 『冴えない彼女の育て方』1巻より)
素材が良いのは間違いないのです。でももっともっとあざとくて良かった。
もっともっと『可愛い』を押し付けてくれても良かった。
やり過ぎて興ざめの作品が多い中で、こんなことを望みたくなる作品に出会うとは……
ある意味で、いい経験をさせていただきました。
・ダカラココハエロゲッポクギボノアオイサンモコウリャクデキルヨウニシチャイマショウソウシマショウ
ナニ?モエゲデソレヲヤルノハエヌジー?ソンナコトイッテルカラガリョウテンセイヲ(ry)
・コタロー(ぬいぐるみ)の中の人ってもしかしなくても『ましフォニ』の妹さんですか?
この方上手いから何でも出来るのは分かるけど、頼むからヒロインとして出演してほしいなぁ。
ユキちゃん(@ななついろ)といいソラリス(@ラブパピ)といい、本当に上手いんだけどさ……
・美桜の声と喋り方、聞く度にほんわりできてとても好きです。
ただ、喋るたびにユウくんユウくん連呼する美桜。
明らかに意図的で、ゆう族の方々は(いつものように)大勝利なわけですが
そうでない方々は…………嫌だって言う方もいますよねぇ、やっぱり。
個別√の出来の悪さも含め、幼馴染はやはり負けフラグなのでしょうか。
・杏は少々かわいそうでしたね。
賑やかしキャラなのに一緒に騒いでくれる人がいないんだもの。
肥田辺りが同調してバカやって、有能だけど残念な生徒会とかいうポジションになれていれば
ここまで退屈な日常じゃなかったのではないでしょうか。
大人しい優等生キャラばかりだと、学園ものってあまり面白くならないことが多い気がします。
・こなみ√はがっつり血縁問題に触れてきましたね……
出来は悪くないどころかむしろいい方ではないかと感じたのですが
そこ(血縁)から目を逸らさないとなると、どうしたって後味スッキリとはいきませんからねぇ。
後、私事で申し訳ないのですが、これの前にやった作品(紙まほ)に凄い妹がいたので
どうしてもそっちと比べてしまって……
うん、悪かったのはタイミング。こなみちゃんには何ら責任ありません。
・久しぶりのつばす絵でした。
この方の描く美少女は『可愛い系』ではなく『美人系』ですよね。(今度出る画集の表紙の紗凪と夕莉が思い切りロリ化しててビビりましたが)
だから案外シリアスは似合うのですが、まさか絵に引っ張られてこういう内容になったのでしょうか。
・でもこのライターさん自分はけっこう好きです。
もう少し遊び心が加われば、萌えゲとしていけそうですし
逆にシリアスを突き詰めればもっと面白いものを書いてくれそうな気がします。
今後化けるのを期待です(上から)