日常描写を楽しいと思ったり、ヒロイン可愛い!と感じたり、物語にのめり込みそうになるくらい盛り上がる時があったりと、作品の評価が上がりそうになるタイミングは案外多いのです。しかしそのことごとくを主人公さんがその言動を駆使して華麗にブロックしてくれるのが本作の大きな特徴。主人公がごく普通の人間になるだけで、中央値が10点近く上がるのではないでしょうか。
ま、さすがに10点は言い過ぎですか。(それでも4~5点くらい変わりそう)
張りめぐらした伏線の数々を豪快に放り投げたのも、点数の下がった原因ですから。
・物語序盤からこの災害が人災であることを匂わせたり
・災害を起こした連中による隠蔽が行われていることを匂わせたり
・再び金儲けのために実験を再開しようとしている動きがあると伝えてきたり
巨悪が動いているよ、という描写は散々されていましたし
・ミータという存在の胡散臭さや、真結希の存在を隠さなければならない謎
・普段飄々としている静夏の中にさえ、悲しみや怒りが降り積もっていること
・災害を引き起こしたであろう実験に関わったが故に、罪悪感を抱えた人達の責任や贖罪
主人公の能天気さとは裏腹に、どこか物悲しい雰囲気が漂う世界の中、興味を引くような諸々の描写も所々に差し挟まれて
物語に対する期待値を少しずつ高めながら、終盤へと入っていったと思うのです。
……………………そしてその諸々を全部ぶん投げやがった。
嫌な予感はしたのです。
ミータの話がダラダラと長過ぎたこと(その割に話が進まない)
真結希が出てきてから、三角関係、四角関係の方へ話が進んでしまったこと(困った事に、ここのドロドロ描写は面白い)
残り少ない空きCGの枠を見ながら
あぁこれ尺が足りないな、と最終√の中盤辺りでは流石に気付いていました。
(だからと言ってあそこまで豪快に投げるとは思いませんでしたが)
『イモウトノカタチ』というタイトルからしても
各個別で、ヒロインそれぞれの《妹の形》が描かれる流れからしても
この作品がメインで伝えたいことは、あくまでも妹との色々な関係性の方だったのでしょう。
にもかかわらず、災害後の世界の雰囲気とか、災害にまつわる陰謀とか
そういったものを妙に力を入れて描写してしまったが故に、最終的にどちらも中途半端になってしまった。
集中して描ければ面白くなりそうな要素をいくつも内包していながら
(内包していたが故の?)迷走の結果、物語の着地点を見失ってしまった、残念な作品だったと思います。
→→→ 蛇足 ←←←
・主人公はアレだ。【社会性というものを身につける前に、社会性を要求される世界に出てきてしまった幼児】だ。
何がしか欲望が生じると、その欲望以外見えなくなり衝動的突発的にポンッと飛び出すように行動する。
これ完全に幼児の特性です。
そして彼が幼児よりも質が悪いのは、青年のガタイを持っているが故に無駄な行動力があるのと
何度言って聞かせても3クリック後には忘れている優秀な忘却力でしょう(もちろん皮肉です)。
自己の形成がまだ途上の幼児であれば、繰り返し言い聞かせているうちにいつの間にかやらなくなるものですが
彼の場合なまじ自我が確立されてしまっているので、理解できないことは修正も出来ないんですね。
それはダメだよと言われてハイと答えても、何故ダメなのかを理解していないから修正のしようが無い。
その上自我の抑制を学んでいないから、またぞろポンッと飛び出すわけです。
完全に幼少期のしつけと教育の問題と思われますし、千毬も同じ性質を持っているのを鑑みても
美馬のじっちゃんの責任は非常に重いと言わざるを得ません。
美馬の施設の他の子どもたちもこんな感じなのだとすると、、、、、、ゾッとしますな。
・武器のはずの絵も不安定でしたね。
最初美優樹の立ち絵が出てきた時
「この貧相な顔をしたモブキャラは誰?HPにも説明書にもいないんだけど?」
と、冗談抜きで思ったワタクシです。
いやあれ詐欺に近いですって。
パッケージ絵ともHP絵とも説明書絵とも似ても似つかないじゃないですか。
横を向くと少しマシになりますし、CGはちゃんと美優樹していたのでそこはよかったのですが
一応メインヒロインなのだから、もう少し気合いを入れて描いて欲しかったです。
・その美優樹さんは中の人も不安定。
この方が棒棒言われている理由をようやく理解しました(そこまで酷くも無いと思っていたので)。
近年のキャラはアレ、大分上手くなった結果としての演技だったんですね。
良い性質の声をしている方で、キャラが嵌ると強さを発揮するタイプっぽいですし
(ルナ様(@つり乙)やりんね(@アス永遠)の演技好きです)
拗ねたりやさぐれたりした時の声音に破壊力があるので、キャスティング次第では大きく輝く方だと思われます。
・あやかの中の人の相手役に雪人なんて名前を付けるのは狙っているとしか思えません。
しかも色々な呼び方を試させるシーンがありましたが
彼女がいつ「ユッ○ー♪(ヤンデレボイス)」と言い出すか、気が気じゃありませんでした。
・そのあやか√だけ主人公が別人のようですね。
おそらくライターさんが違うのでしょうが、主人公のアレな部分が、この√だけ大分マイルドになっています。
やや退屈なお話ではありましたが、あやかも可愛いですし、それなりの出来にはなっていたと思います。
・Hシーンは○。
全裸Hが多いのはいいことです(全裸好き)。
特に美優樹は全Hシーンが全裸(フェラのみのシーンはバスタオルしてましたっけ)という、極めて稀な結果に。
(おそらく3回以上Hシーンがあるヒロインとしては、ワタクシのプレイ経験からすると初です)
ただ、脱がしが残念。
最初から全裸だったり、途中まで脱がしたと思ったらその後すっ飛ばして一気に全裸だったり。
まぁ、ただでさえ差分の少ない作品という印象なので、そこだけ充実していても違和感があったかもしれませんが。
女の子が服を少しずつ脱いでいく、女の子の服を少しずつ脱がす。その行為の中で恥じらう女の子。
そこに発生するエロスにこだわってくれる作品には、中々巡り合えないものです。
・選択肢を選ぶと、お話がキチンとヒロインごとに別々の展開になるのは大いに○。
昨今の、2~3行だけ文章を変えてフラグ管理にのみ使われるような選択肢とは全く違い
選んだヒロインとのお話がしっかり展開され、主人公とヒロインの仲の進展が描かれ
その結果、ヒロインのキャラクターに愛着を持てるようになっていきます。
おそらくこの作品一番の長所はこの部分です。
・家族のカタチを一つのテーマにしている割に、その辺結構雑ですよね。
彼らが『家族』を大切にしているようには、とてもじゃないですが見えません。
雪人は妹の存在を覚えていますし、美優樹は兄がいたことを覚えています。
そんな中、二人ともが完全に忘れているもう一人の妹の存在。
さらには、生死不明なのは両親も一緒のはずなのに両親を探そうとはしない二人にも違和感。
本人の√に入らない限りほったらかしの千毬の扱いや
真結希√で美優樹に「私は家族じゃないのか」と言わせてしまう。
彼は結局、家族が大事、なのでは無くて、今自分の興味の向いているモノが大事、なんでしょうね。
『家族』も『イモウト』も彼にとって、自分の興味や欲望を充足させてくれるオモチャ、モノでしかないのでしょう。