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cyokin10wさんの初恋サクラメントの長文感想

ユーザー
cyokin10w
ゲーム
初恋サクラメント
ブランド
Purple software
得点
85
参照数
484

一言コメント

エロゲでキリスト教のお勉強をすることになるとは思いませんでしたが、それを理由に敬遠するのはちょっともったいないくらいの出来です。名作、ではないですが、充分良質な作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

少年は折る

鎮魂の祈りをこめて

少女は折る

贖罪の祈りをこめて

天使は空を舞う

人の想いを慈しみながら

天使は水面を滑る

人の想いを嘲笑いながら


背負わなくていい罪を背負ったソラの贖罪は

彼女が背負わねばならない新たな罪を産み出します。

残酷な物語。

その後ソラの過ごした9年間はどれほどの苦しみと悲しみに包まれたか。

「もう、姫ちゃんに会わないで」

敬虔なクリスチャンで、人を恨んだり憎んだりしない彼女が唯一許せない人間が、自分。

そんな彼女が前を向き、自由な心を持って大空へと羽ばたいたとき、初めて訪れる、幸福。

確かに多少ご都合主義的ではありますが、それまでの苦難を思えば、ワタクシはそれでもかまいませんでした。

心を揺さぶられる、よいシナリオだったと思います。




個別√に辿り着くまでの共通√もまさに出色の出来。

まあ、ワタクシがミステリ好きだというのもありますが

部活を拠点にして、キチンと考えれば正解に辿り着ける、程よい解かり易さの謎。

それでいて緊迫感はしっかり維持しつつ進むお話は、米澤穂信の古典部シリーズを彷彿とさせます。

壮大なシスコン物語として終わるこの共通√は、岬先輩をメインヒロインに据えて作り直せば

独立した別の作品に出来るのではないかと思うほどの完成度でした。



……ただ、その完成度が災いしたのがヒカリを除く、個別√。

一応共通√の中に伏線がちりばめられていたものの

やはり共通と個別の繋がりが薄く、ほぼ完全に仕切り直しとなってしまい

個別が始まると多少面食らいます。

まあ話の内容がしっかりしていれば、それでも問題なかったのかもしれませんが…………

如何せん、弱いです。短いです。不自然なくらい。



面白くなりそうな伏線は準備されてるんですよ。


例えば岬√。

南雲兄妹はどうやらネグレクト(育児放棄)に遭って、それがトラウマっぽくなってるみたいだし。

内海が参戦してきた学生会選挙は絶対盛り上がるだろうし。

でもそのどちらもほとんど描かれない。


例えばいろは√。

摩子も含む三人、航空部仲間で、航空部時代も色恋沙汰とか色々あったっぽいのに。

勇飛の両親が亡くなり、いろはの弟が亡くなり、勇飛は航空部を辞め、いろはは残り、摩子は何を想ったか。

でもこれらもほとんど描かれない。


どれもこれもがっつりやればかなり書けそうな題材なのに、ちょっと触れる程度で終わってしまいます。

完全な肩透かし。

広げた風呂敷を畳めなかった、ではなくて、せっかく準備した風呂敷を広げもしなかった、この感じ。

星見√はこじんまりとしているものの、適度な萌えとシナリオが好印象なだけに

岬といろはの√さえしっかり作っていれば、名作クラスになりえたのですが。

なかひろさんが力尽きたのか、メーカーが(金やらスケジュールやらの兼合いで)力尽きたのか。

あああ、もったいない。



テキストは良くも悪くもなかひろさん節。

作品の雰囲気を創り上げる筆力がある反面、語りすぎ、書き込みすぎでくどく感じる場合が多々あります。

さらに、キャラクターにプレイヤーの許容限度を越える不快なことをさせてしまうことも。(岬登場時の窃盗でっち上げとかね)

要は『星メモ』の時と長所も短所もあまり変わっていません。

ただ、笑いの要素が少し薄れてしまったのが個人的には残念でした。



キャラクターについては、かなりお気に入り。

皐月徒兎さんの絵がツボった上に、実力派が揃った豪華声優陣の演技が素晴らしくって。

特に、受けにまわるととたんにしおらしくなる岬先輩や

か弱い(?)ドジっ子最強娘星見さんは

中の人ブーストも凄まじく、久しぶりにK.O.されました。

学生会の面々も共通√でいい味出してますし、ホントこの人達使って一本別のを書いてもらいたいくらいです。



演出方面は、技術的には凄いの一言。

特に今作で重要な「水」の描写は力が入っているのがよくわかりました。

でもせっかくの技術を使いきれてないように見える部分もちらほら。

ワイド画面なのに大人数がいっぺんに画面に入ることが少ないとか

後ろ向き立ち絵があるのに奥ゆきの使い方が下手だとか……

シナリオ同様、やればできるのにやらなかった感があって非常にもったいない気がしました。



Hシーン。

薄いですね。だがそれがいい(ぇ)

だってエロゲのHシーンて、濃厚すぎたり特殊すぎたり奇乳すぎたりで、辟易してたんですもの……

ラブラブエッチな部分も含めてとっても俺得ではありました、うん。






……自分はきっとなかひろさんシナリオ好きなんだなぁ。

個別√(除ヒカリ)にやや難があることを差っ引いても

質の高い、とても楽しめた作品でした。



















:::蛇足:::

・五行なずなさん好きだ(告白)
 ホント、どんなキャラでもこなしてくださる方だなあ。
・ヒカリ√をやっている間、頭の中を寺山修司の詩『飛行機よ』がリフレインしていました。
 もっともこれだと少々暗いので、終わった今となってはアニメ『ソ・ラ・ノ・オ・ト』の主題歌『光の旋律』の方がしっくりきますかね。