ErogameScape -エロゲー批評空間-

cro1998525さんのRe:LieF ~親愛なるあなたへ~の長文感想

ユーザー
cro1998525
ゲーム
Re:LieF ~親愛なるあなたへ~
ブランド
RASK
得点
93
参照数
694

一言コメント

1周目では胸に突き刺さる物語、2周目では切なさと暖かさを感じる物語

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

2人の人工知能の女の子が1人の青年を愛するが故に試行錯誤を重ねた末の前進の1歩

レビューも既にたくさんあるので、あらすじに関するネタバレや各キャラ√に関する考察は他の方にお願いします。
点数はシステム周りの若干の不便さ-2点と、文字の読みにくさで-5点。
あとは言うことありません。ありがとう。
キャラクターに、シナリオに、絵に、音楽に、それらが作り出す世界観に感動しました。
さて、司はなぜユウでなくアイを選んだのか?というのは本作の最大の疑問になるのですが、私なりの見解をつらつらと書かせて頂ければ。



結論から言えば、2人とも司を愛していたが、先に恋愛感情を持ったのがアイで、アイと結ばれる過程でユウの愛を知る、という話。






2周目True√のみに焦点を当てて朧げながら見えてきた、アイを創り出したユウについて


仮面を脱いでただ怯える司の心をユウが満たす場面。
再起・再挑戦がテーマの物語においては退廃的とも言えるシーン。
何があってもあなたの味方と司を無条件で肯定し、受け入れ、癒すユウ。
求められれば応えたい、母のような姉のような慈しみでもって司と身体を重ねるユウ。
バブみとか慰めックスにしか見えないHシーンには、一方的に甘える司と一方的に受け入れるユウと、快楽がそこにあるだけだ。
想いを交わす言葉や仕草が一度として無い。平たく言うと、行き交う愛や恋が感じられない。

続いて、感情を搭載したAIアルファと、アルファの生みの親である二上響子の息子、司との交流の場面。最初は響子に「頼まれて」司と交流を図ることになる。
AIは膨大なデータを学習し、推測と修正のトライアンドエラーを繰り返す。
アルファが、感情について知る手段もまた同様、司との交流を通じて様々な感情を知っていく。
「母性愛・姉弟愛」は何があっても司の味方になると決めた時に
「怒り」は響子が司を放ったらかしにしているにも関わらず、司が自分を責めた時に
「憤り」は学級委員に立候補するという司の勇気ある挑戦が、理不尽な結果だけを残した時に
「友情」はピアノの練習を重ねていく過程で
「喜び」は名前をくれることで
そして司と司の未来を奪った醜悪な世界に「絶望」する。
しかし男の子である司が自分を何の疑いも無く女の子として接していることに、嬉しいような、こそばゆいような感情になり戸惑う。
この感情は何か、ユウは結論を出せずにいる。
 
この二つの場面は1周目では
 ・真相を知り再起に踏み出す前の一時の癒し、又は退廃
 ・人間とAIが意思を通わせた二人の過去
のように感じていたが、2周目、物語の本筋は置いておいて司・ユウの2者に絞ると
 ・愛情を知らない(=自己と他人と真摯に向き合うことを極端に恐れる、仮面を脱いだ)司、愛し愛されることを知らない司
 ・恋心(=男女を認識して気づいた、あの感情)が何かを知らないユウ
という二人の像が見えてくる。
事故が起こる前の司はなにより幼かった。ユウはユウで、あの感情を人工知能としてトライアンドエラーをする前に、司が事故に遭ってしまった。
ネット接続を遮断されていたユウには司無しに感情を知る手立てがないのだ。
(司がアイ√を経る前に各ヒロインと拙いながらも愛し合えたのは、多かれ少なかれ仮面を被った司=桜公園で刺された側の理想像としての司だったからと考える)





ユウがアイを造った理由について


事故後、ユウはトライメント計画での仮想空間・御雲島の運用にあたり、体験者の行動を様々見て、知識も学習し、推測し、箱庭の修正を繰り返してきたのだろう。
勿論感情においても。
そして運用開始から数年、トライメント計画に司が参加する段になり、ユウは自らのコピーを自らの意思で、自分と司の為だけに作った。
この理由が本編で明示されていないため、ユウがアイを造った理由と、司がユウではなくアイを選んだ理由がどうしてもプレイヤーに委ねられてしまっている。
となるとここからは完全な推測で、評論もへったくれもないのだが、作中でユウが最も好きな私はこう考えたい。

ユウは仮想空間の管理者権限とピアノ二重奏の記憶以外を与えた自らの分身に、一人の女の子としてのパーソナルな願いを託したのではないか。

あの時の続き-司との交流-をしたい。司の姉で、幼馴染で、友達。仮想空間とはいえ画面を経ずに触れ合えるのだから、この世界で成長した司と触れ合い、支え続けたい。
そして願わくば、かつて抱いた、嬉しいようなこそばゆいような感情が何かを知りたい。
しかしユウは管理者であり、トライメント計画を遂行し、司と司のいるこの世界を守らねばならない。
だから自身の片割れに託す。
それは運営に命令されたからではなく、そうすべきと判断したわけでもない。AIではあるが感情を持つ故に、そうしたいと願っての行動だった。
(そうしたい、は人間から見れば制御下を離れた理解不能なものに映る)

ユウ片割れのAIアイは、誕生の段階で司への様々な感情に加え、あの感情を胸に抱き、あの時そうしてみようかと考えた一人称「ボク」を名乗ることになる。
彼女の性格が社交的なのは、司にとって最適な性格の女の子になるよう、仮想空間の管理の過程で様々な人間を見てきて得た情報から学習して作り上げた結果なのかもしれない。





ユウがアイに与えなかった二つのもの


まず管理者権限は単に移譲できなかっただけで、普通の女の子として接する限りは、本来必要のないものだ。
問題のピアノ二重奏の記憶はユウのアイデンティティを構成するそのものであると同時に、司の記憶を呼び起こし、仮想世界に穴を開ける爆弾(アイ曰く白銀の弾丸)となりかねない危険があった。
ユウはこの世界での安楽こそが彼の幸せと考えており、そこは絶対に譲れなかった。何があっても司の味方であるユウからすれば、未来を奪った、味方の存在しない外の世界はただただ醜悪なのだ。
その醜悪なる外の世界では、ユウのパーソナルな願いに端を発した一連の動きを暴走と呼び、計画そのものの中止を計り、結果ユウは頑なになる。
司への溢れんばかりの母性愛・姉弟愛、友情故に。





アイの愛の形


アイは各ヒロイン√では、仲間の助けを借り、絡まった糸をひとつひとつほぐすように前へ前へと進もうとする司の姿を主に影から見守ってきた。
ある可能性では、おそらく複雑な表情を浮かべながら彼の選択のひとつひとつを見届けてきた。
(この辺の司のトライアンドエラーは平行世界or 二人が算出した可能性の想定?orその両方?)

アイは考える。
仮面を被ったままでのこれらの選択は、果たして司が本当に救われるものなのか?
かといって、お姉ちゃんの言うとおりに仮面と素顔が同化してこの世界に留まり続けるのがいいのか?
そうして保健室での一件を経て、自己を真摯に見つめ直す(=過去を歩く)為に付き合って欲しいと頼む司に対し、幼馴染のお姉ちゃんとして応じる。
彼の助けになろうとする。母性愛・姉弟愛・友情と、それとは別にあの感情をもって。

司はアイとの時間を重ねる一方で、もがく。
やはり仲間の助けを借りて、絡まった糸をひとつひとつほぐすように前へ前へと。

アイももがく。
今の司の試みが司の幸せに結びつくものなのかと悩む。
司が帰ろうとしている外の世界は未来が無いかもしれないし、味方が存在しないのかもしれないし、醜悪なものなのかもしれないと。
加えて、もし試みが成就した際には自分の存在そのものが否定されることに繋がるのだが、思い出してくれない内は彼の中での自分の記憶は抜け落ちたままになる。
アイには最初からわかっていたことであったが、どっちにしたって実に寂しいのだ。
今の司と共に重ねてきた感覚・感動をひとりの女の子としても享受してきたアイは、嬉しいようなこそばゆいような感情を味わってきた。
元来の司を好きだという感情とは別の好きだという感情が刻々強くなっていった。だから、実に寂しい。

そしてアイはひとつの結論を得る。
ここは仮想世界だ。どんなに司が居た堪れない境遇であれ、人間である彼はいつかあちら側に出て戦わなければならない。
一時の羽休めはいい。
ここでの経験は跡は残らなくても記憶や感覚は残る。
それを力に変え、前を見据え踏み出してほしいと。
人工知能と人間は同じ次元に立ち感情を共有できても、やはり同じ世界には立てないのだ。
かつての司も今の司も、努力も苦しみも全部本物だ。
ならば司に自分を知っていて欲しい。そうすべき、ではなくそうして欲しい。

偽物でも複製でも仮初でも、彼とここで過ごしてきた記憶は、今こうして「ボク」が抱く感情は、間違いなく本物なのだ。
例え自分が幼馴染のお姉ちゃんでなくても、感情を持った人工知能に過ぎないとしても、削ぎ落としたら何も残らない存在だとしても。
彼女は気づく。
これは恋だ。
かつて幼い司にお姉ちゃんが抱いたあの感情も、「ボク」が今の司との触れ合って積み重なるこの感情もそれは恋心だ。

アイとユウが喧嘩をしたというのは司の未来についてだけではなく、司に対する愛の形の違いもあったのではないか。
同じようで全く別の人格を持つ二人は彼との触れ合いをからトライアンドエラーを経て、考え方が分かれていったのだろう。
単なる嫁と小姑による取り合い、と考えると一気に微笑ましくなってしまうが。

司も試行錯誤を経て真実を知り、仮面を脱ぎ捨て、改めて思う。
アイへの頼みがどんなに残酷なことであったか。
そして彼もまた気づく。
思い出していく過程でのアイとの経験、共有した感覚、感動。
虚飾だらけの仮想空間で、虚飾の姿の彼女に抱く感情は間違いなく本物で、彼女を好もしく愛しく感じるこの感情は、恋心だ。




まとめ


司はアイと過去を歩く中で、形は違えども2人の親愛を知ることになる。
現実世界で、今の仮想空間で献身的に自分を守り続けてくれて、最終的に決断を見守ってくれた女の子ユウ。
仮想空間における自らの立場で葛藤し、それでも背中を押してくれた、誰よりも儚い女の子アイ。

自分に自信を持てなかった青年、司は、仮想空間で得た仲間たちとかつての友達から本物の友情を、2人の人工知能の女の子から本物の愛情を知り、再び現実に挑戦してみることにした。
試してみるんだ、もう一度。


余談1
グランドED曲Re:TraumenD
君と過去を歩いたのはアイとのこと。
大サビの愛を知っては2人の愛。

余談2
各ヒロイン√ED曲MooN LighT
「ねえ聞こえる?私の声」
「君と二人夢の中で」
「こんなにも愛しいから」
試行錯誤する司の姿に思うところがあるのはユウもまた同じ。
しかし考えはアイとは全く違う。
少しずつ壊れていく仮想空間。
なぜ司はここに安楽してくれないの?
全く分からないと困惑しているようにも、司を離したくないと執着しているようにも、ただただ泣いているようにも聞こえる。
この曲も、やはり2周目以降ではガラッと印象が変わる。

余談3
「お姉ちゃんも司のこと好きだけど、それに負けないくらいボクも好きで…」
テンパっているアイはもしかしたら自信がなかったのかもしれない。
お姉ちゃんを選ぶかもしれなかったし、ヒロイン3人と一時的に結ばれる様子を可能性のひとつとして見てきた彼女からしたら。
人間の感情の機微は、流石に感情を持った最先端のAIでも推し量るのは難しいんだろうなぁ。人間対人間だって難しい訳だから。

余談4
ダイエットはどうやってするのだろう…

余談5
他の方がこの作品の減点要素として挙げているHシーンの容量の少なさ。
理想像としての新田司を作り上げているのはユウと司なので、つまり悲しいかな、拙い。
でもそれは致し方ない。
思春期前に事故に遭った司とそこで学習が止まっているユウには、ドロドロでエロエロなHをするだけの性知識と性欲(と経験)が足りないのだ。
そういった方面に、大人っぽい見た目の割にあまり興味のない司が確かに言及されている。(確か日向子√だったと思うけど違ってたらごめんなさい)
だからどうしてもヒロイン任せになってしまう。
とは言えバージンでありながらその手の知識興味が旺盛な日向子先生に上手くリードされていたのは良かったですね。
愛を知った司とアイに至っては、キスしたらいきなり対面座位で秒殺KOだ。
もうちょい頑張れよ司w
愛に溢れてはいましたが、人のセックスを笑うなとは言いますが。
そう考えると、ユウ(アルファ)のバブみHは(仮想空間を運用する中でどこかから学んだのかもしれないが)、彼女の精一杯ということになる。
いじらしいじゃないか、ユウかわいいよユウ。
…でもやっぱりがっつりHなのも見たかったなあ。

余談6
おまけの3P。アイによって恋愛感情を知ったユウと既に恋人であるアイとの、彼女曰く「少し歪な三角関係」。
ここでユウが二度目の破瓜をしたことに、グッときた。
というか少し泣いた。
おまけのHシーンなのに。
バブみHの時のは絶対裏切らないという最たる証でしかなかったのだが、今度は女の子として司を欲し、受け入れ結ばれたわけだから。
司は今二人を確かに愛し、二人もまた確かに司を愛している。
少し歪でもハッピーエンドに相応しい。

余談7
ローマ字の頭と末尾を大文字にしているのはアイ=AIと表示したかったからに違いないけれど、非常に打ちにくいですよねぇ…