粗は散見されるが、描くもの、としての題材はよく、短編と見れば素晴らしいTS作品。
『鋼炎のソレイユ』、『世界を征服するための、3つの方法』、『くるくるくーる』など、TS作品は割と多くあるが、この作品はそんな作品の中でも一風違う。
従来のTS作品はひょんな事から女になってしまった主人公が、女である事への葛藤を抱きつつも女へとなっていき、それは男性→女性の一方通行である(くるくるくーるは違うが、アレはコメディなので除外する)のだが、この作品は違う。
この作品は、『体は女、心は男』の、正しく『二つの性別の境界線』に立つ羽目になった主人公が、その『果て』にどちらに転ぶのか、男を選ぶのか、女を選ぶのかを描いている。『二つの性格』もまた、閑ルート(強気)、夕陽ルート(弱気)という二つの性格の違いによって『果て』が変化する事を示している。
男に戻る為には誰か女を犠牲にしなければならない、という設定もいい。男に戻ると言う選択肢を提示し、しかしそれを実行する為には倫理道徳法律に悖る行いをしなければならない、という葛藤が描かれている。
そしてそれ故に閑ルートの主人公は、自分を偽物の女であると思いながら男に戻ると言う選択肢を選ぶ事が出来ず、悪友の告白を契機に自分が女である事を実感し、悪友と親友に求められる事で自分が女である事を肯定し、夕陽ルートの主人公は、自分が偽物の女であり、非力な女であるが為、自分の状況に恐怖し、そんな中で出来た親友を大切に思いながら、悪友の言葉によってその親友に嫌われ、敵意を抱かれる事によって自分が女である事を否定し、凶行に走る。
女になったから興味津津にオナニーとかするぞ、なんて事はなく、この作品は性転換した主人公が女である事を認めるかどうかを描いているのである。
穿った見方をするならば、キャラは主人公がそれを認めるかどうかを分ける為の舞台装置であり、それ故に萌えや抜きを求める人には勧め難い。……閑ルートの主人公は普通に萌えキャラしてたと思うが。個人的には声優さんの演技もあって、段々と女性と化していくのが分かり非常に可愛かった。
話としての短さ、誤字脱字の多さなど粗は多いが、よくあるTSとは違った内容を纏めたのは見事。
個人的には主人公が凌辱されるような話があっても良かったような気がしますけど。