ギャップと深掘りと歩み寄りが良かったです。ハミクリよ永遠なれ。
ハミクリで特に見た目が好みだったのは聖莉々花さんだったのと、方言女子設定とネットでレスバしてる話(凸詩桜先輩√に出てきた話だったハズ)が気になっていたのとで、個人的に待望のFDと言っていい。
凸追加の天梨√同様、分岐するのは本編時間軸から。公式が莉々子さんを他のヒロイン達と同等に扱おうとしてくれているようで嬉しい。
8時間程度のプレイ時間も、莉々子さんを理解して愛でるのに充分なボリュームだった。大満足。
他、智宏と莉々子さんのことを中心に少しだけ。
莉々子さんは智宏が自発的になって初めて私的な接点が生まれるヒロイン。
本作はコンセプトからしてイレギュラーなので、強引な展開で智宏が何かと主体的なのもまあそういうもんだよねと楽しむことができた。
本編の頃からそうだったが、コミュ障を自称する割に智宏は何かと気配りができる。他人の顔色をうかがう癖があると言ってもいいかもしれない。
本作では、大森祖父母や聖夫妻とのやり取りを何だかんだと無難に切り抜けるし、莉々子さんの仕草を本当によく観察していた。
一方で、その場にいない相手の思考を推し量るのは苦手というか、莉々子さんを文化祭で負かす話を生徒会メンバーに相談せず無かったことにしようとするなどした。人間関係のこういう失敗、キャラに愛着湧くから実は結構好き。
莉々子さんの仕草観察については、ライターさんの手腕がよく発揮されていたと思う。
数秒の硬直、髪をいじり、視線を明後日の方へ向ける……そんな仕草や科白の「間」を、智宏を通した地の文が丁寧にすくい取ってくれていた。
ADVなのだからその辺りイラストや演出に任せてしまってもいいだろうに、律儀に文章化してくれる。
おかげさまでセリフや立ち絵以外から滲み出る莉々子さんの可愛らしさに、しっかりと萌えることができた。
人によって冗長と取られかねないこうしたテキストが、自分には甲木順之助さんの腕を信頼できる所以だったりする。
丁寧かつとにかく読みやすい。智宏のボケは気色悪いが時折クスッとくるのがいい塩梅。
甲木さんが今後も美少女ゲーのシナリオを書き続けてくれることを切に願っている。
本作の目玉は、智宏と莉々子さんが歩調を合わせて仲良くなっていく描写にあったと思う。
智宏が当初抱いていた印象では、莉々子さんは“同調圧力の権化”のような存在だった。
それから二度の邂逅を経て、少しずつ距離を縮める。彼女の漫画を褒めちぎればアヘ顔晒して喜ぶし、無自覚に高圧的でも地元を褒めれば途端顔が綻び、無邪気に我が事のように喜んで……とにかく嬉しそうな姿を見せられてはこちらも嬉しくさせられるヒロインだった。
良くも悪くも素直。打算混じりに関わった智宏も、莉々子さんの芯に触れ、認識を改めていく。
莉々子さんは他校生。顔を合わせるにはその都度私的な約束が必要で、時間を共有することに特別感がある。まさに逢瀬という感じで、ダマガク生徒会メンバーには中々出せない雰囲気があった。ハミクリとして懐かしさに包まれつつも、リリコールとしてしっかり新鮮味が加わっているのが美味しい。
序盤のチャット画面でのやり取りは、お見合いかはじめたての文通かといった微笑ましさがたまらない。相手が目の前にいるのに、クマさんスタンプでじゃれ合ったりする。やや恥ずかしそうにする。
好きすぎる。
「もう付き合っちゃえよ」と「もう少しこのままでいてほしい」気持ちが自分の中でせめぎ合うのを感じながら、二人の関係を固唾を飲んで……いやめっちゃニヤニヤキモい顔で見守っていた。
莉々子さんが地元大好き方言女子からお嬢様然とした生徒会長になるまでの経緯も好き。ハミクリはヒロインの生い立ちやバックボーンを存外深掘ってくるのがいい。
努力を重ねて百合ヶ峰の空気に馴染み、充実した学園生活を送ってきた人だから、不登校に厳しいのも理解できた。
方言を封印しつつも田舎と祖父母への愛は色褪せず深まってすらいそうなのがまたいい。序盤のお婆ちゃんに長生きしてねって言うやつ、大好きです。
従来のハミクリはヒロインの家族の登場が極端に少ない作品だったから、祖父母ご両親大集合な点も莉々子さんの異質さを際立たせていた。
莉々子さんの“漫画描き”としての一面は正直可もなく不可もなし。凄腕クリエイターが揃う本作において、技量はあくまで一般人の域を出ないというのが、かえって個性的だったような気はする。
漫画を心中でうんこ呼ばわりした智宏には初めて憎しみを覚えました。
クマさんマスコットを目の前に差し出されると可愛さで思考が溶ける莉々花さんは、ありがちながら良い萌えポイントだった。かわいい〜〜。
本作での文化祭の出し物は、他ヒロイン√に比べるとこじんまりとしたものだった。
田舎ボランティアがテーマの主軸なのはあまりにも莉々子さんらしくて好きだけど、面白みがあるかはまた別の話。物語の後半は莉々子さんを交えた生徒会と文化祭にフォーカスしていたので、その点であまり盛り上がりを感じられなかったのは素直に残念だった。
とはいえ生徒中心で動く文化祭なんて、本来あれくらいの規模感が普通だよなと思ったり……。いやでも、人気声優がPR動画のナレーション、有名配信者が動画編集、人気作家がレポート添削やってんのよね。今回も内実は大概おかしかった。天梨は……うん……。
シンポジウムでの確執をまず解さないといけなかったのも、久々にプレイした人間には置いてかれがちな要因だったと思う。プレイしたの約4年前だ。これはしょうがない。
単独ヒロインながらしっかりとしたボリュームのタイトルで、主人公との恋模様を丁寧に描いてくれた。
決して二人きりの世界ではなく、メインヒロイン達の出番も多く、本当に本編共通√から地続きのような感覚で楽しめた。
特に大根先輩は莉々子さんの悪癖を矯正するために一役買ってくれた。凸に引き続き株が上がってしまう。映画版ジャイアンみたいだ。
妃愛に関しては、やはりちょっとした行動の中に智宏への重たい感情がうかがえた。
彼と莉々子さんの間に和泉家を継ぐ子が生まれたら、預かってお世話する気満々なのがまた胸を締めつけられる。
そりゃ智宏の血が流れる新しい家族が増えたらね。ひとりぼっちも寂しいだろうしね……甥っ子を大事に愛でまくる姿が目に浮かぶ。
莉々子さんが智宏を連れて地元でアナウンサーやるなら、羽休めに妃愛も資正共々近くに住む気満々なのがまた……それで妃愛がひとりぼっちにならないなら嬉しいが、同時に切ない。複雑。
ハミクリで一番好きなキャラが妃愛である自分なので、智宏が妃愛以外と結ばれるならせめて、旦那の妹を大事にしてくれるお嫁さんであって欲しいと思ってしまう。
また妃愛ルートやりたくなってきた。つらい。
莉々子さんも無事攻略でき、晴れてハミクリの未練から解き放たれると思っていたらむしろ悪化した気がする。
EDムービー前の集合写真、あれはべらぼうに威力が高い。『もう二度と彼女たちの新しい日々を眺められないのかもしれない……』とかいうエロゲで久しく味わっていなかった寂寥感をお見舞いされた。やめてくれ。
蛇足と知りながら、この期に及んで終わりを拒みたくなるくらいには、『ハミダシクリエイティブ』というコンテンツが好きだった気持ちを改めて想起した。そんな作品でした。感謝。