人として好ましく思える主人公ではなかったものの、失敗と不器用なアプローチを繰り返す青っぽい姿は物語の登場人物としては好感が持て、応援したくなるものがありました。
ネガティブ多めです。閲覧注意。
から回った行動や思ってもない発言で好きな相手をつい傷つけてしまう。現実であれば端的に不快だし、正当化する気はさらさらないけれど、物語の主人公がそうして等身大なやらかしをすると人間味が増すような気はする。
通常、タイムリープものの主人公はどこかずば抜けた特徴を持っていると思う。何しろ運命を覆そうという訳だから、そうできるだけの強みがないといけない。
その点、今作の尚道くんは間違いなく凡人寄りだった。
例えば、二周目で価格の高騰する品物を事前に買っておこうなんて考える俗っぽさ。
ループ中の行動力にもあまり大胆さはなく、さりとて思考力に特別長けている訳でもない。
だからこそ、応援したくなったりもする。
優雨を振り向かせようと1ヶ月をやり直す姿は青っぽく、肝心なところで一歩踏み出せないのは変わらずでもどかしい。物語の登場人物としては存外好感の持てるウザキャラだった。
これで学園在学中ならもっと思春期を感じられて嬉しかったろうが、卒業済の設定なので行動の落ち着きのなさは少し気になってしまったり。
もっとも、そこがシェアハウスで幼馴染と現状維持を続ける大人未満の青年らしい描写といえなくもない。
タイムリープは夢オチだった。
それ自体に意外性はあまりない。
ただ、キーパーソンがさなえで動機も予想外だったことに対する驚きはあった。
夢の世界があまりに高い精度で展開されていたことには疑問が残る。アカシックレコードにでも接続しているようなレベル。
とうもろこしは宇宙から来た等、ループ中に他者から齎される話題は以前会話したものを朧げな記憶から再生していた、くらいが落とし所という感じはする。夢での痛覚に関しては、事故でズタボロだったリアルの身体の影響と考えることもできる。
それにしたって、尚道くんの記憶から再現するにしては全てが鮮明過ぎたのはそう。いくら幼馴染といっても人格のトレースは限度があるように思う。
案外本当に、大人になり切れていない主人公を神様が後押ししてくれた結果生じた不思議な夢だったのかもしれない。そのトリガーが幼馴染から道路へ押されることなのは流石に同情する。
まあ夢に理屈なんてない、と締めてしまえばそれまでではある。
ここからはヒロインについて簡単な感想。
○優雨
幼馴染のシェアハウス警備員。ゲーセン行ったり漫画買いに入ったりはする。
言葉にするのが苦手な性分や優秀な家族への劣等感から、想いを曝け出す手帳が手放せない。時折見せるそうした心の闇には少し惹かれるものがあった。
だぼっとした格好やあどけない態度、めちゃくちゃ可愛らしいのだけども、この子はどうやって生活しているんだろうと無粋なことを考えたりもした。実家からの仕送りだろうか。その辺りが幼馴染メンバー共々掘り下げが少なくてモヤモヤする。低価格だから仕方ない……のか……。
○さなえ
罪の意識があるのなら尚道くんが寝ているうちにでも自首して欲しかった、なんて言ったらぶち壊しだろうか。見舞いに来ていたのもポイント稼ぎ、目覚めた彼の温情に期待していたのではないかと勘繰ってしまった。そしてフェードアウトするんかい……。
主人公を葬ろうとしてきたこと以外、振る舞いやビジュアルは割と可愛くて好きなのだけども、やけに変顔する頻度が高かったのは気になった。
表情差分少なめなこともあってか、このゲームでは女性陣がことあるごとに変な顔をする。もはや変な顔をすることこそ自然なので、それはもう変な顔とは言えないのではないかと変な顔がゲシュタルト崩壊しそうになった。特に面白いシーンでもないのにやたらと顔面を崩す。かなたも。
当初笑えた一発ギャグも連続でかまされればすぐ飽きるのと同様、変顔するならせめてここぞというタイミングで決めて欲しい。
ここぞという変顔のタイミングってなんだろう。
変顔差分を削って可愛い差分を一つ二つと増やしてくれた方がずっと嬉しかったのだけれど、異端な意見なのだろうか。
○かなた
一つ年上。主人公との接点はシェアハウスでの同居から。ふわふわした雰囲気だが小学生みたいな下ネタをかましてくる。
ライターさんはうんちが大好物なんじゃないかというくらい、かなたの他に主人公らにも言わせたがる。
優雨と良い雰囲気な尚道へ向けて、冗談めかして好意をカミングアウトしてきたりもする。
個人的には優雨と同じくらい好きなサブヒロイン。フリーターということで、働いて家を空けている描写があるのも生活感を感じて比較的ポイント高めだったりする。
声優榎本ねむさんのキャラとは何度か遭遇していたこともあり、今回のお淑やかな声音にはカウントダウンムービーから驚かされた。流石に失礼かもしれない。
はっちゃけた演技もいいけれど、今回のような形も中々いい。
○響
同居しているお姉さん。異分子なので当初は安直にタイムリープの元凶か通り魔かと疑った。スーツ姿と野暮ったくメカクレな髪型の組み合わせがアンバランス、浮世離れして思え、主人公を観測する上位存在なのかなと薄ぼんやり考えたりもした。いや全くそんなことはなかった。申し訳ない。
職業が気になる。神様だったりしませんか。
最後にいくつか。
『あの頃に戻ってやり直したい!』
公式サイトにはこのようにあるけれど、実際巻き戻す時間は現在から1ヶ月程度前まで。あらすじにも"一ヶ月ほど経つと同じ日に戻ってきてしまう"とは記載されているが、現在からどれほど遡った先での1ヶ月間なのか明言していない。体験版をやらなければこの辺りは時間遡行の規模感を誤認させられる文面な気がする。自分も最低でも年単位で逆行するものだと思い込んでいた。
タイムリープが夢オチと分かるまで、真相を探る展開は面白かった。優雨を振り向かせたい一心だった序盤の周回も恋愛モノとして好ましい。終盤のイチャラブも癒される。
一方で幼馴染メンバーや響との日常パートはあまり楽しく感じなかったのが本音で、度重なる変顔にも平静な精神を削られた。可愛い女の子が見たかったのにどうしてあんなことをするのか。
主人公の胸中ではシリアスな雰囲気が続くため、それを和ませたかったのかもしれないが逆効果だったと思う。
人が死ぬタイムリープもの(夢オチ)に挑んでみせたブランドさんのチャレンジ精神は本当に好ましく思っていて、これからも系列ブランドでは出さないような作風に挑戦し続けて欲しい。
そうしていつの日か、ドンピシャに突き刺さってくる作品と出会えることを信じて。