涙が出るほどの郷愁
その年齢、その精神状態だったからこそ感銘を受ける作品というものがある。
雑然とした日常や、食傷気味の定型的な人間関係に辟易していた、逃避したかった、世の中の喧騒から。
その時に出会えた、退廃的で耽美なこの作品に。
人は、過去を受けて次へ踏み出すことができる。してみれば「記憶」を持たない主人公は、「とうかんもり」という停滞の中にさまよい、循環することを運命づけられている。
その舞台設定や、美麗で哀愁を誘うCG、心の奥底に埋もれていた郷愁を感ずる琴線を刺激してやまない透明なBGM。
それらの奔流は僕の心をどこまでも擾き乱し、魂を一時的に世俗の喧騒から引き離して美を感ずる高い境地に留め置いてくれた。
無常、虚無、退廃の美。その前には、終局のSF的展開の唐突さも、些細な問題でしかない。
美しさにあてられ、涙を止めること叶わなかったあの心の機微は、それだけは本物だから。