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chu-li0703さんのSummer Pocketsの長文感想

ユーザー
chu-li0703
ゲーム
Summer Pockets
ブランド
Key
得点
93
参照数
1564

一言コメント

どこか懐かしい島で夏の眩しさを探す人と人との関わり合いの物語

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

雰囲気:18点
どこか懐かしい島で懐かしい夏休みを過ごすという一つのテーマが他に類を見ることができないほど完璧に描かれている。音楽、背景、演出すべてを総動員して楽しい夏休みは何かをプレイヤーにしっかりと提示できている点は高評価。ギミックである七影蝶の部分があいまいなところが多くそこをどれだけ割り切れるかが評価の分かれ目。

音楽:19点
Keyらしく全体的に優秀な出来。何気ない日常を彩る曲や物語の起点になるシリアスな曲、勝負の一曲とどれも非常にうまくできている。とくに麻枝准の作曲したSeaシリーズ、夏を刻んだ、波の音は…、夜は短く、空は遠くて…、Summer Pocketsなど印象に残る曲も多い。ボーカル曲に関してもどれも印象深くなっており過去作と比較しても引けを取らない出来となっているといえるだろう。

人物:19点
どのキャラクターもいい人ばかりで夏休みに浸るという点を一切阻害しないどころかそれを促進できている。またKey恒例の家族愛の部分では羽依里、しろは、羽未の3人が少しずつ距離を縮めていく様子やそれを見守る住人達もうまく作られており、立ち絵どころか立ち絵なしのモブキャラでさえも一人でもかけた場合作品が崩壊すると断言できるほど作品における大切な要素となっている。

演出:18点
OPどころか発売前から配置していた伏線を使った演出はお見事とという言葉以外見つからない。また夏の終わりと次の夏への予感を残す演出はどのルートでもうまくできており作品のテーマを強調することに成功している。しかし過去作と比較すると金属バットで殴られたような衝撃の感動シーンは確かに弱く、不満点になりやすい。

シナリオ:19点
父親から受け取った夏の楽しさを娘が母親に伝える子から親への愛の物語。
CLANNADにおいて親から子へ伝える愛の物語という点が一つの大きなテーマになっており、子のために母が犠牲になってしまう。この行為は本当に子にとって幸せなことなのか?今作はそれに対するAnswerとなっているといえるだろう。このためこの作品は羽未をもう一人の主人公としてどれだけ見ることができるかがもう一つの評価の分かれ道となる。個別ルートにおいては各ライターそれぞれの夏休みの楽しさと終わりのもの悲しさをうまく表現できている。特に鴎、紬に関しては演出と合わせて過去作と比較しても引けを取らない出来となっている。ただ全体的に過去作と類似したギミックを使っているため既視感を覚える可能性が存在する。

総評
幾つかの評価における分かれ道が存在するため評価は割れやすい。しかし夏休みの眩しさの表現という意味では業界でも類を見ないレベルの完成度をほこっており、さすがKeyと言えるだろう。ギミックや設定に振り回されずどれだけキャラクター達が目指したものやその優しさと向き合うことができるか?この作品を十全に楽しむためにこの点を強調したい。