買ってよかったと思える作品でした。
バンドものというのは、私としては斬新だった。
わりと深くに突っ込んだ描写があると思わずにんまりとした。瀬戸口というライターは欝展開に定評のあるライターだと耳にしていたので、是非見せてもらおうじゃないか、と息んでいたが、拍子抜けした。
もちろん悪い意味ではない。こんなに生き生きとしたものが書けるとは、と。
キャラを活かすのが上手なライターだ、とも思った。人間とは常に理に適った行動をするものではない。しかし、ゲームとなれば話は別だ。キャラとは、極論を言ってしまうと自動的でなければいけない。身勝手な行動は一切許されない。
何故なら、理に適った行動をしなければ、ユーザーが嫌がるからだ。だが、この作品はところどころに自動的ではない、あくまでも人間味を帯びた言動、行動が見受けられた。それを何の嫌味なく進めることができるのは、ライターの力に他ない。
そして魅せられたのは一般に言う鹿ルートだ。
突然のきらりの死。その後、何事にも流動的に生きてきた主人公。ラストの復活、と。
主人公は欠けた人間である。ヒロインを通して、再生ではなく、また新たな個を作り上げる物語なのだ、と頷かされた。
壊れたものは再生されない。結局のところ主人公は別人になった、という極論もアリなのかもしれない。
いずれにせよ、このライターが書きたいのはユーザーを落とす鬱描写ではなく、その後のことなのだろう。
と、他の面にも素晴らしいところがあった。
例えばバンドもの、として取り上げているようにBGMを含む音楽であったり、ライブシーンであったり……。録音の仕方にも工夫があったのでは?
個人的にはグラフィックがツボだった。どうせならもっと深く踏み込んでほしかったが、それは音楽をやっているものの欲であるので、望まないことにする。
最後にまとめとして一言。
きらりの抱き枕は何の皮肉?