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chiyopongさんのサクラの空と、君のコト ~Sweet Petals For My Dear~の長文感想

ユーザー
chiyopong
ゲーム
サクラの空と、君のコト ~Sweet Petals For My Dear~
ブランド
ひよこソフト(2008年~)(株式会社トゥインクルクリエイト)
得点
78
参照数
2445

一言コメント

爽快感も涙も皆無。後味は最悪。だけど得も言えぬ充足感が・・・

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

えろすけアボン以来初のレビューww今度は真面目に書くwww
カミカゼや恋ではなくを先にレビューしようと思ったけど皆様が色々と書かれているので、不遇に埋もれそうなこの作品を先にやることに。


シナリオ(28/30)後味の悪さはマイナスだが彩ルートで見せた独創性、テキストの重厚感に満足。
グラフィック(20/30)立ち絵のバリエーションや動きが飽きないものの、一枚絵の不安定さは減点。
システム(13/20)必要最低限は揃ってる程度。バグも残っている。
その他(17/20)萌えと笑いは序盤に詰め込まれてる印象。BGMはそこそこだが、歌は全てにおいて業界最高水準。
計78点


まずはじめに、この作品は一般に薦められないものになっている。正直、萌えを期待すると痛い目を見る。
体験版に見るスラップスティック的要素は後半には薄れるどころか、なにそれ美味しいの状態に。

☆シナリオ
佳奈多、千春、怜那、彩がヒロイン。サブは攻略不可。
個人的にはこの作品のレビューを最初のほうにしている方に同意で、キャラ的には凪紗の攻略も可にしてほしかったが、ストーリー的には不必要だったのかと思われる。
みんとは、ウザカワを地でいく台風的キャラだったのでこれ以上出てくるとホントうざいだけになったかもしれない。
佳奈多と千春、怜那と彩って感じでライターが分かれてる(ED曲Dolceの作詞作曲などを見るに後者が篁葉月というライターだろう。前者は月染の枷鎖から引き続き飛燕)

佳奈多と千春は萌えの王道を進み、ご都合主義最高の展開。奇跡は起きるし、不都合には目を背け解決、みたいな。
悪く言うとありきたりで見飽きた展開。凡百のエロゲって感じ。あと一枚絵入れる場所下手すぎる。枚数に制限があるならもっと考えて使ってほしかった。必要なところにはなく、不必要なところにある。
よく言うと身構えずにまったりと出来る。これは本当にこの作品においてはオアシス的なポジションで自分としては印象は悪くない。だってほら彩いたから。

さて、どこのレビューサイト、感想、ツイッター等々でも言われてる怜那、彩。
これがこのゲームの根幹を大きく揺らがした。萌えに端然と立ち向かったひよこソフトに好印象を受けるとともに、萌えを期待した分のがっかり感もww
怜那ルートは多くを語らず、必要最低限の描写がされる。兄との確執、祖父の存在、主人公と怜那が別れた後……気になる点は多くあるが、その描写がされないところも想像に難くない。
あんなにつんけんしてた怜那がデレた時の破壊力は近年稀に見るキャラ。デレってこういうことだよね、と思った。
わかりやすく萌えらしい構図ながら、ライターの独特の切り口で斬新な展開を作り上げた。ヒロイン勢最強と言っても過言ではないイチャイチャっぷりw

シナリオに関しての最大の問題部分(個人的所感なので、叩くつもりはさらさらないことを留意していただきたい)である彩ルートは後味が悪い。


主人公に救いがないどころか、閉塞的で排他的な物語を濃厚に描いた感じがした。気味の悪い文章でした。
ただしこれは案外褒め言葉で、繊細な筆致と人を選びそうながらも独特の表現で丁寧かつ、しっかりとまとめ上げたその腕力には、次回、次々回を大きく期待させる(第一作もプレイしている自分としては、ひよこソフトの大きな飛躍となり得る要素が入り込んできたのは嬉しいが、こういう腕っ節で勝負するライターって業界離れるんだよね・・・)
ホントびっくりした。出だしからオチにいたるまで、各キャラの伏線やちょっとした小ネタ、ED曲の歌詞、これでもかというぐらい回収するし利用する。
月染の枷鎖は少し残念な印象が拭えなかったが、このライターいるんなら最初からこのライター使えばよかったのに(新人だとしたらこのライターをここまで自由にさせたひよこソフトの心の広さに感嘆せざるを得ない)

『ジサツのための101の方法』にあったような後味の悪さを臭わせながら、森博嗣のような抽象的な台詞を使ってみたり、たとえば文学的表現を引用したり、心理学的、哲学的要素をライター独自の解釈により噛み砕いたり、と表現方法は多種多様。
あまりにも攻撃的な描写はユーザーを突き放しかねないが、精緻で重厚な一文に思わず引き寄せられた。

彩ルートにおいて言えば対外的な幸福とはかけ離れている。
物語序盤、幸せとは何かという問いかけや、桜空という奇跡の伏線回収における手腕は、物語でたびたび感じたように見事の一言に尽きるが、ここまで歪にするとその腕っ節も埋もれるのではないだろうか。

彩はおそらくディスレクシア、サヴァン症候群の類であると思われる(失読、会話のくだりなどからそう察した)
ここもまた萌えにはないところを引っ張ってきてるあたり、どうやらライターは萌えを作るつもりはさらさらなかったっぽい?
彩真ルートには感傷的で抽象的、何よりクセとかアクとかをフルスロットルにした一歩進めば電波臭を漂わせるような狂った表現が出てくる(このライターもいずれ書かなくなるときがくるのだろうか)

恥ずかしげもなくライターがオナニーをしたらユーザーがびびったような感じ。やけに本気でオナニーするものだから興味が湧いてしまって信奉者ができちゃったみたいな。

さて閑話休題。
この彩ルートには自我の芽生えのような描写がある(彩「わたしは、わたし」という台詞)、自我忘失や自我覚醒というドグラマグラにあったような感じの。
ここで閉塞した二人だけの世界が完成される。あまりにも歪んでる。愛や幸せは当事者にはあるだろう。対外的に見て、それが本当に幸せか、と問われたとき首をひねらざるを得ない。

どなたかがこのライターを奇才などと評していたが、これは間違いなくキ○ガイの類。
素晴らしい考察や答え、そして物語のオチを展開したのは何度も言うようにライターの腕力によるのだろう。

佳奈多や千春のライターは凡才だとしてもそれこそ萌えというレールの上でなら100点には届かないにしろ赤点を回避し、平均点ぐらいはとれる印象。
だがこっちを書いたライターはそういうレールを無視した挙げ句にゴールとは全く別の方向に走り出すという暴挙に出た。
本来予定していた終着点なんてクソ食らえと言わんばかりの攻撃性、「これから感動させるよ!いっぱい泣いてね!」ってなレールを敷きながらそれを嘲笑った上に某氏が言ったように殴りかかってくる。
せっかく楽しんで将棋を指していたのに盤面をひっくり返してきた。
それに考察や答えを提示したライターは、100パーセントの解を示したわけではない。テキストから、意図してこうしたものだと思われる。
ここが恐らくこの作品をレビューした方が言っていたようなユーザーライクではない、というところだろうと思われる。
売れりゃファンディスクと言っていたらしいが、攻略後のおまけなどを見る限り、その描写がされることは極めて低い。テキストの節々から、またオチのまとまり具合からライターもそのつもりはなさそうだ。

体験版部分のゆる~いスラップスティック的な展開を感じられない物語のどんでん返しは、成長劇にありがちなストーリーにせず、どこかノスタルジックでトラジック。
叙述トリックや、そういう小技ではなくボクサーのストレートやフックみたいなのを振り回し相手を倒すような信念が垣間見えた。
そしてその空気感のまま高度な切り口を見せてくれた。

萌えにある甘えのようなテイストを捨ててまで、キャラクタを叩き落とし絶望させ、それを乗り越えさせようとする人間の弱さと強さを、あるいは醜さのある描写で見せつけたのは、「楽を地でいく萌えゲーを否定する」メタ的な叫びに感じられた。

「当事者」になった主人公とヒロインは無能になり果て、気づけば「第三者」が関わり解決!もしくは奇跡発動!のような萌えゲーに対する皮肉ともとれ、徹底的に「第三者」による解決を避けるため排除し、たった二人しかいないかのような錯覚を覚えさせる(本当は他のキャラもそこそこ出る)あたり、萌えゲーへの挑戦状と見て間違いない。
ご都合主義、萌えの根本、ユーザーの認識に真っ向から立ち向かっただけでなく、「一つの問題を解決」させる際のテキスト描写に、価値を見いだした。
サガプラは鬱展開のようなものを設けこけた印象があったが(売り上げ的にはこっちのが大ごけだがw)、こちらは力尽くでさらにねじ伏せてきた。
ライターが構築したのかはわからないが、どうやら作品に対する疎通は内部でしっかりとれてないような微妙さも散見される。
どうもレビューされた方のように暴力的な表現になってしまったが、正直何度もプレイし直している。そのたびに多くの発見があるので、無論、シナリオの点は高い。

それと、たびたび彩ルートの後半で意味不明と言われる涼のことを忘れた千春や凪紗、逆パターンの描写についてだが、これは前向性健忘症の彼らは夢を見るか?という問いを書いただけだと思われる(そこまでかっこいいことではないけど)
白フラッシュを挟んで、そこが夢っぽい。
忘れるという描写と思い出すという過程に必要だったのだと思われる。
この作品にある健忘症は48時間しか記憶を保てない。
健忘症は自分の経験に則った比較ができないため、本物の記憶が区別できなくなってしまう。
その経験則上、テレビなどは見ないと書かれているところもあるが、どうしても見なくてはいけないものが1つだけ存在する。この作品でもねっとりとわけのわからないぐらい描かれた夢だ。
健忘症の方は夢の記憶と本物の記憶が混同してしまうと言われる。だって経験則を生かせないから。
そのための描写と思われ、忘れることに関しては最初の白フラッシュ(凪紗と千春等のキャラが主人公を覚えていない)、思い出す過程に関しては(凪紗と千春が主人公を覚えている)というように、あくまでヒロインたちを主人公の脳機能のガジェットとして機械的に利用したのだろうと思われる(あまりにもヒロイン愛がないライターだ)
彩という歪で主人公が忘れてしまっている形を除けば、何故か佳奈多だけが涼を覚えてる。
これがユーザーを極端に混乱させる。
佳奈多は当初、主人公の行動理由(桜空)になるほどの重要キャラであり、物語を構成する二大ヒロインの片割れ(佳奈多と彩)だった。
特性上、物語を二分した際、前半は佳奈多、後半は彩という支柱があったからこそ主人公は歩み続けた。
作中での登場回数はともかく、不安定な精神バランスを支えるための存在であったことは、シナリオ内で明記されている。
その存在を中心に主人公は物事を捉え続けていたので、記憶の有無を問わずに残り続けた可能性が高い。
佳奈多=主人公で結んだ場合、夢のテキストを俯瞰的に捉えることもできる。
この夢にある佳奈多は、作中で登場する桜乃佳奈多ではなく、主人公の鏡のようなポジションなのではないだろうかと。
この夢と現実を行き来する描写の中、彩との会話は数あれど、気味の悪さを引き立たせるのは佳奈多の存在だった。

怜那は1回しか出ないのでこの場合は除外されるが、怜那が覚えていることに関しては明記されず描写されていないので、あまり踏み込めない(というか漠然と理解を得たが上手に説明できないのは申し訳ない限りです)
どうして思い出したのか、という解は無論アイキャッチからアイキャッチの間(夢と現実のテキスト内)に書かれているので、読み解くのはさほど難しくないが、優しくないのもまた事実だった。


☆グラフィック
ありがちなみつみ絵的なもの。千春とみんとはつみき。その他のヒロインは月音。
ケロQ時代からしっかり引き継いだ異次元さは残るものの、立ち絵には動きが多いし満足。
画面所狭しと動きすぎwどんだけみんな騒がしいんだよwwモブキャラに溶け込んだかと思えば、後ろ姿で遠近感出すし、絵も勿論だが、スクリプト頑張ったねって感じなのかな。他社よりも抜きん出てる。今後ともこれは活用して欲しい。
ただ一枚絵は誰だかわからないぐらい崩れてる。怜那を突き放すシーンの一枚絵は酷かった。ちょっと笑っちゃったw
つみきも同様、一枚絵はかなり崩れる。
あと塗り。月染の枷鎖はどうにも下手くそな感じだったが、今作は淡い。
影が幾層かに分かれてるが彩度が高く淡い。どこか古くさい印象。金髪の影が赤みに飛びすぎてるのかな。月染の枷鎖にいた「なずな」もそうだけど。ちょっと個性的。
エロ絵のテキストボリュームに反して、のっぺりした絵がボンと出てきて抜けない。
エロにこだわりなさすぎ。おっぱいは固そうだし(千春の最初のエロのおっぱいは触りたい)、乳首適当だし、骨どこにあんのって感じになるし。
シーンにはこだわったけど絵はまあいいよねww的な。
あと立ち絵の背景使い回し過ぎ。引き延ばしてるから線は粗いし何なのwwって思ったww
佳奈多ルートにあった佳奈多が髪を切ったシーンなんかは、テキストの描写に反して明るめの効果が入りすぎてる。しっとりしたところに変な効果がある一枚絵がたびたびあったので、上で言ったように意思疎通がとれてないのかなって感じがした。ディレクター!仕事してー!
怜那とのキスシーンも同じような効果が入ってた。やけに目障りなタッチの効果。
ふわっとさせるならユニゾン的なの入れりゃいいのに。

佳奈多のアナルよかったけど、これは声優さんの印象が強い。佳奈多可愛いよ佳奈多。
それと、じじいに一枚絵使ってたのはクソ笑ったwwwラスボスみたいな雰囲気wまあ、実際ラスボス的立ち位置だったけど、ここまで凶悪にさせんなよ、そりゃ主人公もびびるわ。
男の絵は他の萌えゲーより上手だ。どっちが書いてるかしらないけど。
ただ一部では背景の流用が効いてるのか、立ち絵から滑らかに一枚絵に向かうので、立ち絵か一枚絵かわからないぐらいだった。これはすごかったなー。
テキストと同じように荒々しい言い方だけど、前作に比べたら大きく進歩してるし、月音もうまくなってた(一部では劣化したと言われてるが、これも個人的な所感)
つみきは線がシンプルで塗りのせいもあってちょっと薄い。複数原画にしなくてもよかったような気がする。
そういえばSDもちらほら出てきたけど、こっちは結構可愛かった。
SDはこの先ももっと見てたいかな。怜那の寝てるやつとかよかった。

☆システム
必要最低限。バグの残りカスあり。システム画面とメッセージのデザインはゴテゴテしてて2000年代初期の香り。以上。

☆その他
声優は豪華。ありきたりだがこうして集まって見ると素晴らしい。一色ヒカルの無駄遣いには笑ったが、しまりのさんの演技力は抜群だし、桜川シュトラッセさんの無口キャラは斬新だし。
歌も業界最高のアーティストを集め、最高の楽曲に当てはめた。
スタッフロールで見たがライター頑張りすぎww終末論のときの衣笠みたいにぶっ倒れないで欲しいw
しかしライターが作ってるためか、彩のDolce(歌:片霧烈火)はしんみりした。
歌詞の
『揺らぐ月の隣では
戸惑う鳥が見あげてる
涙を堪え続けて』
というところは彩なんだろうね。
アイキャッチのわけわからない羽には、そういう意味があったんだと気づいて震えた。
歌詞の一文一文が非常に練られてて、そして作品に思い切り絡めてるあたり、やはり萌えゲーで終わらせるつもりはなかった模様。
それにしてもキーの高い曲。
というかギターもベースもドラムもライター一人なんだろうか(歌詞カードには他の人書かれてないし)。どんだけ必死なのこの人。

☆総括
笑いあり、ちょっと涙ありで萌え萌えを期待したら、いい意味でも悪い意味でも大きく裏切られた。
何度も言うようにライターの手腕(筆致、構成など)は目をみはるものがあるし、広く薦めにくい出来ではあるものの、今後をさらに期待できる好印象。このテイストは捨てないでほしい。凡百に埋もれない腕っ節の強さがあると思われる。
グラフィックに関しては成長途中かもしれないので(特につみき)、これも次回、次々回と期待して待つ。
エロいテキストにあわせた塗りがあればなーと思う。カミカゼのように。
カミカゼは萌えにしては変態だったけど。
佳奈多は淫乱だがラブアナル先輩には遠い!
期待を込めて78点ということで。まだまだやれるよ、ひよこソフト。