俺をギャルゲーの世界に導いた最初の作品。この歳になってみて、ようやくこの主人公の気持ちが分かるようになってきた。彼はただ、時の流れに怯えていただけなのである。長文はおそらく過去最長。数少ない全てのメモオフファンに捧げます(笑)。
今でもコンシューマーの世界では高い人気を誇っているメモオフシリーズの記念すべき第一作。今ではエロゲーの世界にどっぷり浸かっている人でも、中学、高校生の頃にこの作品を楽しんでた人もいるんではないか。俺もその中の一人である。そしてこの作品は俺のギャルゲーの基礎となった大切な作品で、今でもそれは変わっていない。
とりあえずエロゲーの批評が主なこのサイトでこのようなバリバリの少年向けゲームを批評するのは心苦しいが、それだけこの作品に想いこみがあると思ってスルーしていただきたい。願わくば俺のように若き日にこの作品と出会い、ギャルゲーへの扉を開いた同志が、この長文を見ていてくれれば幸いだ。
この作品の主人公は高校2年生。過去に幼馴染を事故で亡くし、それを自分のせいだと思い込みながら日々を生きる、悲しい業を背負った少年である。
作品中には彼のもう一人の幼馴染(唯笑)が登場するのだが、彼女は主人公の中に絶えず死んだ幼馴染(彩花)の姿を見て、苦悩している。死んでしまった彩花は美化され、主人公の中では絶対の存在になってしまった訳だ。よく使われる設定だが、死んでしまった恋人に生きている他人が勝つのは難しい。特に主人公の場合自分のせいで死なせてしまったという思いが強いので、それに罪悪感も加わり序盤では本当に彩花の事しか考えていない。クラスメートに彩花を想い、夢の中で彩花を想う。
結局彩花の事故に関わっていた悪友の一言が彼を立ち直らせるのだが、正直主人公の彩花への想いは異常だと当時の俺は思っていた。その象徴が共通バッドエンド。どのヒロインのルートに入っても、攻略を失敗したら最後は「俺には彩花がいるんだ」みたいな感じで終了。
「パルフェ」で里伽子も言っていたが、遠くにいる大切な人より近くにいる人の方が大事だと俺は思う。「もしも明日が~」の明穂じゃあるまいし、死んだ人は決して自分に何もしてくれないし、自分も何もしてあげられない。そんな亡き人に対して、俺にはお前がいるよって言うのは正直異常。それが彼なりの逃げ場だったのかもしれないが、俺には理解不能だった。
そして、ここから先は当時の俺には分からなかったが、きっと主人公がそこまで彩花を想い続けるのにはもっとちゃんとした理由があったと思うのだ。
主人公はおそらく彩花を忘れる事に怯えていたのだと思う。時が流れ、彩花が生きていた当時は中学生だった主人公は今では高校生。人間は意外に薄情なもので、その時どれだけ悲しい思いをしても、どれだけその人を慕っていても、いつかはその思いは薄れていく。俺自身もそれは当てはまる。祖父が亡くなったときは凄く悲しかったが、今となっては亡くなってしまった事自体に関する悲しみはほとんどない。それは人間の防衛機能だろう。そしてそれを可能にするのが時の流れ、主人公はそれに怯えていたのである。
実際、後に発売されたメモオフの3作目、「想い出にかわる君」のファンブックに、この作品の後日談が載っている。
「智也君(主人公)に今大切なものは何?」
「・・・わからないんだ・・・俺が唯笑と付き合って、勉強して、大学受かって・・・・どんどん、どんどん変わっていく。俺だけじゃない、周りの皆もそうだ。信のバカなんて見た目別人だし、唯笑だっていつのまにか追い越していく・・・」
「それが怖いの?」
「そうだよ!だってさ、そんな風にみんな変わっていっちまったら、あいつは・・・あいつは・・彩花は変わらないのに・・・」
(想い出にかわる君~fast side~より)
この文章を読んで、俺はこの主人公を異常者だと思っていた昔の自分にマジ説教したくなった。この主人公の台詞にはこの作品の全てが詰まっているといっても過言ではない。主人公が唯笑を受け入れたがらなかった理由も、彩花の事を常に意識し続ける理由も、実は主人公の「優しさ」から来たものだったのである。
巷では2作目に比べて評価の低いこの作品。ただ、このファンブックを見てしまった俺としては、もう名作以外の評価は出来ない。このファンブックの後日談を書いたのはこの作品のライターである日暮茶坊氏であるが、まさかメモオフ1stが発売されて4年も経って、こんな文章を書かれるとは思わなかった。何と言うか、本当に感動してしまった。
ちなみに、上記の後日談は主人公と、本作品の攻略可能ヒロインの小夜美の会話なのだが、この会話には続きがある。それを紹介して、終わりとさせていただく。ここまで付き合ってくれた人がいたら、お礼を言いたい。もしまだこの作品をプレイしてないなら、是非お勧めです。ありがとうございました。
「本当に、そうかしら」
「え?」
「10年後の智也君のなかの彩花ちゃん。彼女が、もう10年後に同じ姿でいるかしら・・・想い出も、時と共に変わっていくのよ」
「でも、でも、それじゃあ今の彩花はただの俺の妄想だって言うのか!?」
「違うわ。彩花ちゃんを大切に思う気持ち、それは変わらないでしょ?その根っこの部分が変わらない限り・・・彩花ちゃんはあなたたちと一緒に生き続けるんだと思う。」
「・・・彩花も・・・俺達と・・・生きてる・・・」
「そう。だから、あなたが止まっていたら、彩花ちゃんも止まっちゃうわよ。それでいいの?それこそ、彩花ちゃんとの本当の別れじゃない?」
「彩花・・・・」
「それに、智也君には唯笑ちゃんがいる。唯笑ちゃんの中の彩花ちゃんと、智也君の中の彩花ちゃん・・・3人はいつも一緒だったって、智也君、昔言ってたじゃない」