このゲームこそが百合ゲームの指向するべき方向を示している。
1. 総論
この作品は「百合」が最も大切にしたいものが詰まっている。舞台設定、周囲の世界の描写、そして何より登場人物の精神性はただただ美しく繊細で女性的である。物語は完全に精神的営みによって占められ、彼女たちの情思は深く心に浸透していくように感じられた。
FLOWERSの世界観は一見使い古されたもののようにも感じる。このような世界観の作品では登場人物は綺麗に装飾された空っぽの器のようになりがちだ。しかし実際は耽美主義的表現に終始することなく、登場人物一人ひとりの内面に抱えた痛みを掘り下げていくことで、彼女たちの人間的な精神性を浮かび上がらせることに成功していると感じた。
2. 百合ゲームとして
このゲームを全年齢対象ゲームにしたのは実に賢明な選択だと思う。人と人との心の触れ合いをとても大切に描写しているこのゲームで、GALLERYにエロシーンだけがずらずらずらと並ぶのは興ざめであるし、せっかく春夏秋冬とあるのだからそこまで急がなくてもいいだろう。一つ一つ大切に物語を紡いでいけば佳いと思うのだ。
今までの百合ゲームでは登場人物たちのマインドは単純化されすぎていた。彼女たちがお互いに発する「好き」という言葉は萌えの「記号」に感じられて、プレイ中も「ああ今日もコンテンツを消費してるぞ~」という気分になるわけだ。やはりキャラクターの内面の描写に真剣に向き合ってこそずっと大切にしたいと思える作品たり得ると、この作品をプレイして感じた。
一方で単純に推理ゲームとしてみると、プレイヤーが答えを自力で導き出すのはかなり無理があると思う。選択肢を選ぶだけでも難しいが、真相を選択肢前までのテキストから知ることはまず不可能だ。次回作はもうすこしプレイヤーにやさしい難易度にしてほしい。
また、キャラクターたちの幸せそうな描写がちょっと少ないと感じる。彼女たちは作中で常に思い悩んでおり鬱屈とした表情をしているときが多くて、もうすこし幸せそうな彼女たちを見たかったのが本音。でもエピローグから考えるに無理そうだな。
3. ストーリーについて
細かいところで気になる点はいくつかある。まず1つ目は沙沙貴林檎の失踪について。双子の入れ替えトリックを使っていたが、二人が入れ替わる必要がどこにあったのか。また、親元に帰りたいならそもそも最初から食品搬入車に乗り込んで脱走すればいいだけではないか。自分の失踪の理由が七不思議であると生徒たちに印象付ける動機が無い気がする。
二つ目は蘇芳と別れた立花の気持ちだ。結局蘇芳の苦しみを二人で背負おうと思うほどには彼女のことを想っていなかったのだろうか。お茶会で彼女が言った「思っていた人と違ったから振った」というのは本当にそう思っているようにさえ感じられた。立花ルートの最後「Thank you for accepting me as a friend」という言葉の真意も正直よくわからない。結局彼女は蘇芳に何を求めていたのだろうか。