希有の異世界体験ができる作品。文章、絵、背景、音楽、演出、効果音...あらゆるものがとても丁寧かつ最上級の贅沢さで提供されている。間違いなく最高峰のエロゲの1つ
舞台は夜霧の英国オックスフォード大学魔術学院。魔術士の女の子と相棒の黒猫が、重厚な大門を出て、いまひっそりと旅立とうとしている......。
冒頭から背景画が精緻にして重厚。音楽は生オーケストラとプロ奏者による演奏なので聴いていて非常に心地がいい。
私は100以上エロゲをやってきましたが、それでも冒頭から初めてのゲーム体験が満載だった。背景画の劇的な切換え効果もその一つ。また、登場人物の会話中に起こる視点転換は、画面が引力場に吸い寄せられるような不思議な切り替わり方をする。スピード感があって、効果音も同時にブワーンて鳴る。
地の文は少女の口を借りた形式で、洒脱。おしゃまな黒猫が出てきたシーンなんかは、ちょっと三谷幸喜の間を思い出しました。ライターの堀ノ内先生は、もともと女の子のセリフをとても素敵に描かれる方で、本作ではそれが遺憾無く発揮されていました。
たとえば、20歳くらい?のカッコイイ、あるいはカッコよくあろうとしてる女の子。黒猫一匹だけ連れて一人でやってきたような孤独な女の子。でも暗くならないよう、強気であろうとして頑張ってる子。内面がとても丁寧に描写されてる。しかも地の文による説明ではなく、独白、あるいは黒猫相手の会話や英国紳士との会話で自然とその性格が炙り出されていきます。
文章はとても味わい深かい。私はフェイトをまだやっていませんが、インガノックの桜井光先生の文章を思い出しました。あちらも行間豊饒にして味わい深く非常に面白かったのを覚えています。
効果音にも相当気合い入ってます。魔法使いの少女が箒に乗って上昇していくシーンがあるのですが、効果音がどれも豪華。夜の英国、北風が吹き、その風音が出来合いの効果音を持ってきましたというものではない。ちゃんと少女の心境に合わせて、いかにも寂しい風音になったりしている。芸が細かい。そして、飛び立つときには、これから始まる長く困難な冒険を暗示するかのように、嵐のような激しい風音に変化したりもする。それだけでなく、地上から上空へと風音が刻々と変化していく。一体、ワンシーンの風音だけで、どれだけの労力が投入されているのでしょうか。しかも、このシーンは動画。上昇して雲に上っていく様子が魔女視点で動画でみられる。まるで、自分が魔女になって空を上っていくような上昇体験!
バトルもよかった。これほどすごい動画演出はエロゲをやってきて初めてです。しかも一回のバトルに膨大な動画と演出とイラストが使われている。しかし、それだけではありません。魔法バトルって、演出だけじゃ絶対に限度がある。面白いバトルには、良い文章が必要不可欠。そして、「魔」であるにもかかわらず納得できる合理的理由が必要なんです。
本作ではそれがあった。英国を代表する魔法教授との卒業試験バトル。ただ魔術の動画演出があるだけじゃない。納得できるんですよ。魔法を使えない私のような読者が読んでも、魔術の技なのか、魔法量なのか、発動スピードなのか、肉体的物理的スピードなのか、そのどちらが上回っているか。魔法バトルの勝敗がすごく納得できるんです。その文章描写が素晴らしい!!!
魔法バトルって、もちろん演出もめちゃ大事ですが文章も大事。本作には、それが両方そろってる。
しかもバトルやりながら、英国紳士の老教授と跳ねっ返りの少女との10年間の愛憎劇まであぶり出してしまう。これが面白くない訳がない。間違いなく歴代最高に面白いエロゲの1つだと思いました!!!
『Deep One』
買って本当によかったです。ライターの堀ノ内先生や原画の夏彦先生、それからこれだけの音楽、効果音、演出、その他をされた皆さん、素晴らしい演技をしてくださった声優さん、素晴らしいゲームを届けてくれて本当にありがとうございます。