日常を舞台にした雪国の童話。しかし、それは無色の日常ではなく、野暮な男が普通に暮らす分には一生触れることのないであろう特別な日常
雪の国の日常を舞台にしたおとぎ話。
日常系と評されることも多いと思うのですが、『しゅがてん!』の場合、それは無味乾燥で次々に忘れ去られていく日常ではなく、野暮な男が普通に暮らす分には一生触れることのないであろう、とびきり少女な日常ではないか、と思います。あくまでも、日常を舞台にした特別な夢だと思いました。
以下、基本的にネタバレはありません。長くなりすぎたので、今後少しずつ修正していくつもりです。
(シナリオについて)
物語冒頭の二人の少女の普通の会話。それは、あどけなく、童話的で。『しゅがてん!』の日常会話は、一言一言が磨き込まれて、詩みたいで、ずっと女の子達の会話に耳を澄ませていたい。そう思わせてくれる種類のものでした。
不思議なのは、日常会話が全く退屈にならない点です。
学園物の日常会話がつまらなくて(特に、読者置いてけぼりのボケとツッコミが続くなど)、全部は聞かずにクリックして先へ進んでしまったという経験は、エロゲ―マーなら大抵あると思います。しかし、『しゅがてん』の日常シーンには、そういうダレた会話、気の抜けた会話というものが、一文もありません。
日常を舞台にするということは、派手な出来事が起こらないだけに、読者を飽きさせずに書くのが難しいんじゃないかと素人ながら思います。さかき傘先生のシナリオを初めて読んだのですが、多忙な読者がともすれば飽きかねない日常会話を、これほどうまく書いてしまうなんて、すごい!と思いました。
なぜ一見平穏な日常シーンが続くにもかかわらず、退屈にならずに済んでいるのか(というか、読んでいてめっちゃ面白いです)。はっきりは分からないですが、たぶん、会話自体がとても少女的な感性で描かれていて、それを聴いていると少女の甘い香りに包まれ、心地よくなってしまうこと。あと、実は日常会話の中に、次から次へと何気なく小さな謎と大きな謎が隠されていて、常に気になってしまう事、とかに秘密があるのかもしれないなあ、と思いました。
順番とか緩急とかストーリーテイリングのうまさも全く脱帽なんですが、あと、複数キャラクターが同時に登場して議論するシーンなんかも、とても面白いんです。うまく言えないのですが、あの子なら、こういう言い方をするだろうとか、一人がわーっと熱くなった時の感情の受け方とか、その時に誰かが発するため息とか。セリフが、あるべきところにある感じで爽快です。
ときどき入るほのぼのしたギャグが面白い。お爺さんの哀愁&可愛さとか、さかき傘先生の暖かい視線が入りますね。
最初は、ごちうさと較べたりしてしまいがちですが、進めているうちに、こちらの世界に没頭してしまうので、あまり心配しないでもよいでしょう。
主人公の好感度がかなり高し。おそらく10歳以上年下と思われるヒロイン達に対しても、「ありがとうございます」、「いえ、自分はそのようなことを言える立場ではありませんので」的な言葉遣い。礼儀正しさの点では、『王様のレストラン』の伝説のギャルソン、千石さんを彷彿とさせます。
その後、個別ルートに入ったのですが、恋愛の過程がすごく丁寧に描かれていました。漫画『電影少女』のドキドキ感を久しぶりに想い出しました。個別に入って以降も、TVアニメ版のごちうさと全く同じようなほのぼのとした状況だったので、「これで本当にHシーンがあるんだろうか」と思いつつ心待ちにしていたのですが、とても自然なHシーンだったので、満足度高かったです。微塵も性欲を感じさせない、それこそごちうさのようなお話の中にHシーンが入るのは衝撃的でした。
(Hシーンについて)
Hシーンについてなのですが、エロゲのHシーンは、ヒロインが服を着たままアクロバティックなポーズでやることが多いですよね。その理由は、たぶんヒロインのお洋服も魅力の一つだし(毎回全裸だとアクセントを入れにくい)、体位も少しずつ変えていかなきゃ全部似た構図になってしまう、とかかもしれません。
ただ、自分は、Hシーン、特に初Hの時は、ベッドの上、全裸、正常位がいい。これは譲れない。タイツや靴下もできればやめてほしい(まあ、黒タイツ好きの方もいらっしゃいますからね)。もちろん、全てのヒロインの初Hが同じになったら、それはそれでお決まり感がでてしまうから問題かもしれませんが、せめて、一人のヒロインくらいは、その黄金律を踏襲してほしい。単に、個人的な好みなんですがね。
そして、『しゅがてん!』は、その黄金律のHシーンが、ありました!! これはすご~く満足度が高かったです。大人しい控えめな女の子だったら、やっぱり初Hはベッド、全裸、正常位がいいです。ヒロインを全裸にするというのは、服でアクセントをつけられず、ヒロインの素材だけで勝負しないといけないから、絵を描くのがすごく大変かもしれないですが、しらたま先生の絵は、感動に打ち震えるくらい美しかったです(表情差分も豊富。少女の繊細な表情の描き分け!)。まさに、しらたま先生だからこそ成せる技。あのHCGに変わった瞬間、自分の中では、エロゲが現実を凌駕しました。一糸まとわぬ、すっぽんぽんヒロインの美しさ。よっぽどヒロインそのものが可愛くなかったら、とても実現できない技だと思います。『しゅがてん!』のあるヒロインの初Hシーンは、自分がこれまでやったエロゲの中で、最も印象に残るものになりました。いや~、本当に美しかったです。
その後、別ヒロインのHシーンにも進んだのですが、自分の最も理想とする半脱ぎで、こちらも完璧でした。
文章も素晴らしかった。女心の変化が詳しく書いてあって、読み応えのある文章です。特に、ショコラ初回Hの2枚目のCGに変わる場面は圧巻。2枚目のCGに転換する直前に一呼吸おいて、セリフと同時に画面転換。その瞬間の演出…。最高すぎて、翌日まで引きずってしまいました。エロゲは一期一会の真剣勝負。一旦見落とせば、この最高の瞬間は永遠に失われる。前もってネット上でネタバレHCGを見てしまっていたら、この最高の驚きを得ることはできない。作品に没頭できず、集中力が足りなかったら、この最高の瞬間に気付かない。最高のシナリオ、最高の絵、最高の声優さんの演技、最高の演出、全てが合わさって、あの最高の一瞬が生まれたんだと思います。エロゲ生活で、最も強烈な一瞬の一つになりました。『しゅがてん!』は、間違いなく、こちらの感受性を全開にして没頭しても、汲めど尽きぬ井戸の水のように、次から次へと驚くような表情を見せてくれます。これは、根本的なことだと思います。
めるちゃんも、すばらしい。ヒロインの中では、もっとも現実世界の女の子に近いかもしれないですね。僕は大好きなタイプでした。
氷織ちゃんもよかった。Hシーンの文章もとても印象に残っています。ここだけは、ちょっとネタバレになるのですが、
(ここから一段落ネタバレ)
氷織ちゃんとの何度目かのHをした後(かといって、2人の間でセックスはまだまだ習慣化はしてない。おそらく彼らの間での数回目くらい)、お風呂であたたまりながら男女の戯れ事を始めるシーン。氷織の身体は、とにかく幼い。割れ目なんかも線みたいに閉じてるんですが、指を入れられているうちに、だんだん、切羽詰まったような甘い声で主人公の名前を呼ぶ。主人公は次のような独白を行う。
「~~~~~~氷織さんの顔は、肢体の幼さとは別に、はっきりと女性のそれだ。
セックスを知る女性の反応だった。」
氷織ちゃんは、全ヒロインの中で一番身体も未成熟で、歳もおそらく一番低いくらいで、性経験からも最も離れている方だと思うのですが(ショコラも同程度かも)、その氷織ちゃんが、自覚せずしてこういう反応をするように変わってきている。氷織はこの時点で、処女を失ってからまだ1,2週間のはずだから、当然、自分の身体の変化に気が付いてない。少なくとも、自分自身では処女のころと変わらないつもりのはず。でも、身体が変わってきてる。体からの情動で、表情が変わってきてる。男に対する姿勢が変わってきてる。何度か自分の身体せまい道の中に、指や男のアレを入れられていることで…。それは、性格の奥手さとか、清純さとか、まじめさとか、頭で考えることとは別の事。その幼い少女の心と体のズレというか、少女の中に兆す女体の性というか、こういうのが非常にていねいに筆致で描写されているんです。
エロゲは、作品の主題にもよるでしょうが、ヒロインが処女の頃と非処女の頃で、ほとんど性格も身体も変わらないパターンも多い。心理よりも体位とか場所の派手さに重きが置かれており、年頃の少女の心と体の微妙さが前面に出て来ないことが多い。でも、『しゅがてん!』は、それこそ日常系であって(私自身は、『しゅがてん!』は日常系という一言で語れるものではないと思っていますが)、こういう繊細微妙な処女と非処女の間の変化が、徹底的に詳細に描かれている。こういうのは、本当に面白くて、何度でも読んでしまいます。
文章がとにかくエロい。本当に完全にネタバレなので、まだやっていない人は以下は読まないでもらいたいのですが、氷織の実質的な初Hでは、こんなふうになっています。二人で男女の戯れ(69)をして、口内射精でびっくりして氷織が少し疲れたところ(一部抜粋)
(シックスナインのCGから、日常シーンの立ち絵に戻る)
「では……休憩しますか?」(注:もうこれ以上先へは進まないでおきますか、の意)
「ん……」
改めて聞いておく。無理をさせるわけにはいかないからな。
彼女はすぐに意図をくみとり、
「……いいえ」
(注:イベントCGに転換。氷織、ベッドの上で足を大きく開く)
ここまではあくまでお遊びだと確認した。ここからが本番だと。
「お願いします」
「はい」
足を広げる彼女の腰に手をやる。
「ん……っ」
めちゃくちゃエロくないですか? 氷織は同年代の女の子より大人しい性格。その氷織がいきなりシックスナインまでしてる。きっと、信じられないくらい気が動転しているだろう。しかし、それすらも「ここまではあくまで(子供の)お遊びだ」なのです。そして、生まれはじめて男の前で足を大きく広げて、「ここからが(男と女の)本番だ」なのです。フェラチオと口内射精ですら、単なる戯れ事でしかない。小さな身体の中に男のペニスを没入させることは、それまでのお遊びとは全く別次元の事。それまでの二人の関係性も根底から変えてしまう、それが性交。
ふんわりしたおとぎ話の中に、突如現れる男と女の本質。氷織の年齢はもはや関係ない。学校でどんな表情をしていようと、女の子同士でどんな子供らしい会話をしていようと、男と女になれば、それらの日常の綺麗ごとは一瞬で仮面をはぎとられてしまう。タテマエの世界を貫いて本質までえぐるのが男と女の世界。寓話なのに、いや寓話だからこそ、女そのもの、氷織は完全に女として扱われる…。
(ネタバレ終わり)
『しゅがてん!』のHシーンは、間違いなく自分がこれまでやった全部のエロゲの中でも最高のHシーンの1つになりました。
あと、余談になりますが、本作にハーレム√が無くて良かった。ホッとしました。物語世界的にも、クロウの人格的にも、ヒロイン達の真摯で常識的な性格からも、ハーレムはまず起こり得ないだろうし、逆に、あったらかなり不自然だったと思います。エロゲというジャンルの性質上、そういうファンからの要望は常にあると承知していますが、やっぱり今作のようなストーリー物では、この大切な物語世界を犠牲にしてまで入れるようなものではないと思いますのでね。
(絵について)
しらたま先生の絵は、本当に可愛い。おとぎの国のシナリオと先生のイラストがあいまって、圧倒的な少女世界が出来上がってるみたいです。
やはり、先生のイラストは、こういう夢の国の物語が合うとつくづく思いました。『Magical Charming!』の梱枝りこ先生のイラストの時も思ったのですが、絵師様の画風と物語がマッチした時のエロゲ世界の臨場感というのは、すごいですね。
しらたま先生の絵をエロゲで見るのは初めてです。
普通、絵師さんのイラストは、本や宣伝ビジュアルで見ることが多いから、静止画で見ることが多いと思います。そうすると、どうしてもそのキャラの「決めの表情」で見ることが多くなってしまうので、似てきてしまうこともあると思います。ですが、エロゲには、表情差分があって、そこで初めて、絵師さんがどれほど多彩な表情を描き分けているのか、分かるんですね。
しらたま先生が描き分ける繊細微妙な少女の表情。それが何十ものパターンで見られるなんて、最高の贅沢だと思いました。立ち絵にしろ、イベントCGにしろ、しばらく停止して見とれてしまうことも、多かったです。
絵のことは素人なので、ちょっと背伸びした物言いになりますが、イベントCGで通学中の氷織ちゃんとめるちゃんの絵があるのですが、満ち溢れる朝の光が氷織の顔にぱっと当たって、背景の雪国の冴えた青空ともあいまって、神々しいばかりに美しかったです。氷織は14、5歳だろうと想像するのですが、その年頃の少女と母性が混じりあったような、伸びゆく希望を感じさせるような、胸が痛むような光と影を感じさせるような、そんなエロゲの中でも傑作CGだと思いました。こんなCGと出会えるメディアって、エロゲ以外に何かあるのでしょうか…。
他にも、赤ちゃん視点になったところ。赤ちゃん、この世で最も祝福される存在が、生まれて初めてみた光景(それは同時に神の視点)。少女の明るい驚き、少女の中に住まう母性、少女の過去の清算と許しと魂の浄化。未プレイの方は何のことかさっぱりだと思いますが、この赤ちゃん視点のCGをみて、泣きそうになりました。しらたま先生、本当にすごいです。可愛いだけでなくて、凄みすら感じます。
『しゅがてん!』のCGは、Hシーンも非Hシーンも額縁に飾っておきたくなるような詩情豊かな一枚絵が多かったです。
クラシック音楽の華はオペラといいますが、美少女画にとって、エロゲはオペラにも似たものかな、と思ったりします。ただでさえ可愛い絵に、物語がついて、キャラクターがついて、表情差分がついて、声がついて、音楽がついて…。エロゲはまさに美少女画の総合芸術。美少女を楽しむための究極形態なのかもしれません…。
今回はミドルプライスでしたから何かと制約があったと思いますが、もし次に、しらたま先生単独原画でフルプライス作品が作られるとしたら、ぜひ『Magical Charming!』くらいの量の表情差分を作って、会話中もっとコロコロと表情を動かしてくだされば、非常にありがたいなあと思いました(実際の『マジチャ』の表情差分が何枚くらいあったのかは明確に覚えていませんが、主観的には『Magical Charming!』のヒロイン(特にオリエッタ)の表情の豊富さが全エロゲの中の理想になっています。ただ、もしかしたら、しゅがてん!も同じくらいの差分があったかもしれません)
シナリオは物語を動かす心臓でしょうが、立ち絵の表情差分(圧倒的多さ&会話中にコロコロ表情が動く)もまた、物語に魂を吹き込む第二の心臓と思います。とくに、しらたま先生や梱枝りこ先生のような、微妙な少女の表情を描き分けてくださる方の表情差分には、表面上の文字を超えたパワーがあると思います。それと、今回のような素晴らしいシナリオが合わされば、その異世界構築は圧倒的なものになると思いました。
(Hシーンの効果音について)
Hシーンの効果音は、初めて聴く種類で興味を惹かれました。新しい挑戦だし、もし好評なら続ければいいし、不評であれば改良してもっといい効果音にすればいいと思います。エロゲは製作者とファンの距離が割と近いジャンルだと思います。なので、ファンとして積極的に新しい挑戦を支持したいと思います。いずれにしても、Hシーンの効果音で、新しい挑戦をしてくださったことは、とてもよかったです。
個人的な感想を申しますと、今回の音は、しらたま先生の絵や作品全体の雰囲気にちょっと合っていない気もしました。指或いはナニの挿入時のぴちゃぴちゃ音があること自体は非常にありがたいです。ただ、音がオナホにローションを含ませてプラスチックの棒で音を出しているような、無機質あるいはシリコンやプラスチックの出す音みたいに聴こえてしまうんです。
女の子の湯気だった、甘くて匂い立つような粘液が出す、肉と体温のある音……という風には聴こえませんでした。そこは、できればもう一工夫していただければと思いました。でも、もしかしたら、生々しくなりすぎないように等、素人にはわからない専門家としてのお考えが合ってのことかもしれません。いずれにしましても、新しい効果音を試して下さった姿勢が、とても有難かったです。
OPの甘い歌も、EDも最高。EDはグランドフィナーレの時だけボーカルが入るのですが、これを聴いていると、「ああ、ついに大作が終わったんだな」という寂しいような、不意に寒くなった秋の青空を見上げたような気分になりました。しゅがてん(特に氷織√)は、人間性の根源に迫るようなところがありました。
背景もよかった。フォルクロールもよかったし、ヨーロッパ風の街並みもよかった。ショコラが橋の上に立っているシーンは、ドストエフスキーの『罪と罰』あたりをエロゲ化したら、きっとこんな絵になるんじゃないか、とか思ったりしてしまいました。
『装甲悪鬼村正』が、よく「これぞ、いろんな人の技を結集させたプロの仕事だ」と評されたりしますが、自分はこの言葉を『しゅがてん!』に贈りたいです。物語の面白さも、文章も、キャラ達の個性も、イラストの可愛さも、暖かな世界も、少女の甘い雰囲気も、演出も、声優さんたちも、パッケージの箱も、テーマソングも、ミドルプライスというお値段設定も、何もかもがかっちりと丁寧に作り上げられた、まさにプロの仕事だと思いました。『しゅがてん!』風の言い方をすれば、このパッケージの箱そのものが、絶品のケーキだと思いました。
『月影のシミュラクル』の時も思ったのですが、もし『しゅがてん!』がフルプライスだったら、どうなっていたでしょうね。
Recetteさんの第1作ということですが、大満足です。早くも、次回作が楽しみになってきました。『しゅがてん!』を作ってくださった先生方、スタッフの方々に、ありがとうございますと言いたいです。