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buuchanさんのスイートロビンガール -Sweet Robin Girl-の長文感想

ユーザー
buuchan
ゲーム
スイートロビンガール -Sweet Robin Girl-
ブランド
Chuablesoft
得点
80
参照数
782

一言コメント

これは年の差純愛ADVであって、ロリゲではない。しかし、意図せずしてなった最高のロリゲでもある。「チュアブルソフト最高傑作」(ホームページ)の文字に偽りなし。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

チュアブルソフトさんの『スイートロビンガール』のHPを見ると、「年の差純愛ADV」「チュアブルソフト最高傑作」の文字が躍る。その言葉に偽りはありませんでした。


(なぜ、「歳の差恋愛ADV」であってロリゲではないのか)
「歳の差純愛ADV」と言ったって、エロゲには数多くのロリゲーがある。それらと『スイートロビンガール』の違いはどこにあるのか。あえて「歳の差純愛」を豪語した狙いはどこにあるのか。プレイ前は、それが気になっていました。

しかし、その答えは、本作を開始してすぐに分かりました。本作はまず、普通のロリゲと主人公の立ち位置が全く違います。主人公はおそらく35歳前後と思われるオジサン。莫大な借金を抱え、不幸の連続から日々の淡々とした生活を続ける気力を失い、酒場で飲んだくれる毎日。シビアな大人の事情を抱えている。もっとも、それだけなら紙の上の設定にすぎない。

本作では更に、主人公と同じく中年の域に達した幼馴染の友人が二人存在する。一人は貸金業者の女社長。もう一人は雑誌記者。これらの友人と主人公のシドの関係が非常に色濃く描かれている。女社長は、友であるシドに貸した金を回収するために、シドの命の次に大切ともいえる喫茶店を差し押さえようとしたりする、友であると同時に大人世界のシビアな関係でもある。雑誌記者の良き友とは、新作コーヒー豆を試しながら新聞片手に政治談義をしたりする仲でもある。
彼らは、主人公がどれほど落ちぶれようと、またロリータヒロインに置いてけぼりを喰らおうと、無様なおじさんになろうと、常に良き友人であり続ける。『スイートロビンガール』は、大人同士の友情が、全体の4分の1を占めるほど詳細に描かれていて、歳の差恋愛だけでなく、大人同士の友情物語でもある。(大人の女性との恋愛は一切ない。恋愛要素は、少女ヒロインが一手に引き受ける)

また、彼ら3人が度々訪れるパブの壮年マスターも、更に上の世代として厳然と存在して、大人世界を固める。

「主人公が大人であること」これは、本作にあって決してブレない絶対軸。このような、他のエロゲでは見られないほど強固な大人世界が、「歳の差純愛ADV」たる本作の最大の特徴です。


一方、少女達は、おそらく小学3年生~中学2年生くらいまでの年齢の4人組。彼女たちは、あくまでも子供世界の住人。世界名作劇場のように少女同士の幼くも可愛らしい会話、少女同士の深い友情物語が進行する。少女達自身も、物語開始時は、まだお互いに知り合って数週間~数ヶ月ですが、主人公の喫茶店に身を寄せるようになってから、更にお互いに思いやり、少女同士の友情を深め、成長していく。それ様子がとても微笑ましい。


このように、『スイートロビンガール』は、主人公の属する強固な大人世界と、可愛いヒロイン達の子供世界の間に、厳然と境界線が引かれている。その大前提は、最後まで崩れない。そんな絶対軸が存在し、本来決して交わらない二つの世界の住人、すなわちオジサンと少女の間に恋愛が起こるからこそ、本作は「歳の差純愛」なのであり、これが最大の特徴だと思いました。


通常の多くのロリゲは、大人であるはずの主人公が、あまりにも簡単に子供世界の住人に成り下がってしまう。そうなると、もはや大人と子供の恋愛でもなんでもなく、紙の上の設定が大人というだけで、その実、精神的には子供の男が、ロリヒロインと性交しているだけになってしまう。これでは、ロリ絵というだけで、絵にストーリーのパワーが乗らないし、面白くない。

また、通常のロリゲヒロインは、あまりにも簡単に大人達の餌食になってしまう。「エロゲのお決まりと言うことで」という甘えの世界では通用するかもしれないけれど、エロゲの枠をとっぱらった物語そのものとしては通用しない、という状況も出てくると思います。

一方、本作では、子供の側の大人に対する警戒心もしっかり描かれている。たとえば、少女4人がその日の宿に困って冷たい雨の下で震えていた時、主人公は一夜の宿の提供を申し出た。最年少の女の子は無邪気に喜んだが、年長組の少女達は、わりと露骨に警戒心を示し、最年少の少女をたしなめ「だまされちゃだめよ」と言った。年長組の少女たちは、大人の男から親切にされる見返りとして、自分達の身体を要求されうることに気づいているのである。本作は、こう言う部分が丁寧に描かれている。



『スイートロビンガール』は、決してロリゲとして製作されたわけではないと思います。しかし、このように確固とした大人世界のオジサンと、子供世界の少女との間に純愛が発生する本作は、かえって真のロリゲではないかとすら、個人的には思います。


そんな大人と子供の間の「歳の差恋愛」が可能なのか。それが楽しみでしたが、本作ではとても自然で上手く描かれていました。子供とは言っても、現代日本の中高生ではなく、戦前~1970年代くらいのヨーロッパのような雰囲気で、流浪の民みたいな子供もいるし、実際ヒロイン4人全員が学校に通っていない。なので、妙にしっかりしてるところもあって、大人の主人公と付き合うことに違和感はありませんでした。とはいえ、冷めているという意味では全然なく、子供だからこその純粋な一途さがあって、こんなにまっすぐに好かれたら、そりゃオジサンでも恋に落ちるだろうなあと思っていました。





(Hシーンについて)
18禁ですから、全ヒロインとの性愛シーンがあります。本作でヒロイン達が置かれている状況は、数十年前のヨーロッパみたいなところで、マフィアによる人身売買もあるような危険な街を、少女達は保護者も無く子供だけで旅している。なので、現代日本の学園生みたく、親や教師や社会による目に見えない保護網で守られているわけではない。油断すれば一瞬にして悪い大人の餌食にされてしまうような危険な状況にある。このような世界では、少女達はいかに10代前半であろうとも、「学園生」としてでなく「女」として扱われる。
なので、大人の主人公とヒロイン達との間の性愛は、むしろ寓話的にして、本質的な男と女の関係に近いと言え、かなりリアルで生々しいものでした。かといって、少女が熟練の女になっているという意味では決して無く、少女の可憐で控えめなキスはそのままに、胸もふくらみはじめのままに、「女」として扱われている。このような性愛シーンは、現代日本の学園を舞台にした作品では、なかなか出会えないですね。
『スイートロビンガール』はロリゲではなく、大人と子供の間の純愛による性愛。子供を子供のまま「女」として認めた上で抱く性愛です。なので、現代日本を舞台にしたロリゲの性交とは、何か本質的に異なるように感じました。
Hシーンの文章も素晴らしかったです。擬音中心だった『はれたか』とは違い、文章の表現がとてもエロかった。また、相手は10代前半ゆえ、子供の身体を相手にしていることが強烈に伝わってくる文章とCGが多く、とても生々しかったです。





(絵について)
背景が非常に丁寧に描かれていて、四季、朝、昼、晩、月夜、雪、落ち葉、ヨーロッパの石畳の街、クリスマスのイリュミネーションの差分などとても丁寧でした。本当に晩秋~冬のヨーロッパに住んでいるような気分になりました。

ヒロインや魅力的な大人キャラは、人気漫画家の関谷あさみ先生の原画です。第一線で活躍されている漫画家さんの描写力は凄まじいものがあります。男の性器を初めて触る少女の細い指だとか、初めてのキスで遠慮がちに舌先を絡め合う少女とか、見たことがないような絵が次々と登場します。

表情差分も、まさに関谷あさみ先生の本領発揮。関谷先生にしか出せない表情が満載でした。幼い少女の身体の描き方も、漫画そのままの素晴らしさでした。

絵のことは素人なので、間違っているかもしれないのですが、通常のエロゲCGは、静止画を前提に描かれていて、どれも決めポーズのように見えることが多い気がします。だから、どのエロゲのCGも似てしまう。でも、漫画表現は少し違うかもしれません。漫画家である関谷あさみ先生の原画は、最初から静止画として描かれてたCG、とは見えないんです。時間の流れや身体の動きや、そこに至るストーリーがあって、そのCGの前にも後にも無数の絵があって、その中からその瞬間を切り取りましたみたいな感じを受けるんです。これは、コマが連続して時間が進行していく漫画家さんの絵の特徴なのでしょうか。だから、とてもダイナミックで生き生きしたCGでした。

なので、他のエロゲCGではあまり感じたことのない印象を受けました。すばらしかったです!

また、関谷あさみ先生原画のヨーロッパもの新作が読みたいですね。




(音)
音楽も素晴らしいです。sweet robin girlも世界観に合っているし、最後のクリスマスキャロルもとってもよかったです。
効果音も素晴らしかった。外国の街の雑踏音、カラスの鳴き声、こまどりの鳴き声、風の音、コーヒーを入れる音、コーヒーカップを机に置く音、とにかく豊富でした。とても繊細なところまで磨き込まれていると思いました。



(攻略順)
「攻略順は、好きな順に」が自分のいつもの考えなのですが、本作は、主人公が喫茶店で仕事中に4人の少女の名前を呼ぶ順番、すなわちフィオナ→エレン→メグ→プリスが良いと思います。

フィオナ√は、大人世界と子供世界の隔離、その大人と子供との間の純愛など、本作の根幹となるストーリーですので、これを最初にやった方が物語の特徴をつかみやすいです。

また、メグ√は、すれっからしの非行少女メグが、主人公との歳の差純愛で変わっていくストーリー。いきなりメグ√からやってしまうと、メグの元々のすれっからしの性格がつかめないうちに、メグの性格が変わってしまうから、印象が弱くなる。なので、他の√を2つくらいやって、メグの元々の性格イメージを固めた上で、メグ√をやる方がインパクトが強いです。

シナリオは、全√最高でした。普通、メインヒロインの中にも自ずと優劣があって、メインヒロインの中でもサブ的なヒロインがいたりするものですが、本作のヒロインは4人が全員センターヒロインといっても過言でないほど、全く手抜き無しのストーリーでした。それはエロゲの中でも希有なことだと思いました。








褒めてばかりではあれなので、更に贅沢な注文をさせていただけるとすれば、本作の核心である「歳の差純愛」の部分について少し。
本作は、確固とした大人世界と確固とした子供世界があって、しっかり区別されています。そして、その二つの世界が隔絶すればするほど、リアルになっていきます。現実世界の35歳の一般会社員は、普通14歳の少女に恋しません。なので、本作も大人同士の付き合いが丁寧に描かれれば描かれるほど、中年という設定が強固なものになり、子供との間で歳の差純愛を成立させるのは難しくなるはず。オジサンが、どうして14歳の少女と歳の差純愛をすることができるのか。その、大人世界と子供世界の橋渡しこそが、ストーリーの中核になると思います。もっとも描くのが難しいかもしれません。本作では、そこの橋渡しがちょっと弱かった気がします。確かに、書くのが難しいかもしれない。また、(レオンとかみたいな)通常の映画や小説なら、1ヒロインのところを4ヒロイン描かなければならないから、更に大変だと思います。でも、そこの描き込みこそを、もっと読みたかった。中年のシドが、どうして中学生や小学生の子供を好きになるのか。その描くのがともて難しい味付けこそ、プロの技で読ませていただきたかったです

あと、シナリオは上述の通り最高でしたし、サブキャラの大人達の友情や、少女同士の友情物語も素晴らしく、心温まるものでしたし、画家崩れのひどい父親などの描写も素晴らしく、ここは大満足しています。ただ、これは本当になぜかよく分からないのですが、2度、3度読み直したテキストが、あまりありませんでした。本作は、間違いなく読みやすいし内容も素晴らしいのです。セリフも可愛いかったし、大人達のセリフも時に重厚、時に洒脱で素晴らしかったです。
ただ、自分は、そういうエロゲ(インガノック、マジカルチャーミングのオリエッタ√、しゅがてん、すみれなど)に出会った場合、テキストを2度、3度読んでから、クリックして進む事が多かったです。でも、本作のテキストは、なぜか2度、3度と読み直す部分はあまりなかった。なぜかはわかりません。これは単なる個人的な事情かもしれません。まして、本作を1日10時間×3日で終わらせたので、駆け足だったから、落ち着いて読めなかっただけなのかもしれません。少女達の会話が中心ゆえ、地の文が少なく、子供子供した可愛らしく簡単なセリフゆえ、読み直さなかったのかもしれません。その辺の原因は、自分でもよく分かりません。いつもは、地の文の豊饒な行間などがあれば、何度も読み返してしまうことが多いのですが………。これがあったら(もう少し、行間に豊饒な含みを持たせてくれたら)、本作は90点以上にしたと思います。ただ、この注文は、的外れだったかもしれません。本来、この一段落は、主観的に過ぎ、書くべきでなかったかもしれません。ただ、自分は『スイートロビンガール』を非常に気に入ったので、今後更に素晴らしい作品が出ることを期待して、試しにこの一段落も付け加えさせていただいた次第です。的外れだったらすいません。


いずれにしても、本作は素晴らしかったです。最高の日々をありがとうございました!自分は、同じチュアブルソフトさんの『はれたか』より、『スイートロビンガール』の方が好みに合っていました。