読ませるシナリオ。読者は、長年自分を縛ってきたロリ美少女の重力圏を脱出し、独り物語そのものの旋律に耳を澄ますことになるだろう…
私がやったのは、オリジナルの18禁版です。1100円前後で手に入るのが信じられないくらい、壮大で感動的なシナリオ。
短文でテンポのよい文章によって世界観が浮かび上がってくるのは、お見事としかいいようがない。セリフが一言一言、読ませる。平凡な「青年の主張」みたいなのがなく、読んでいて全く飽きない。
イラストは実に可愛い美少女風ですが、ストーリーは不気味で、そこはかとない恐ろしさが常に顔を覗かせている。死や血が見え隠れしているのです。
ヒロインによって、物語が神話的に変わってくるので(ちょっと大げさな言い方ですが、でも神話には、悲劇があったり、大恋愛があったり、大団円があったり、冒険活劇があったりしますね)、3人全てのヒロインをやったほうがいいでしょう。
ほんとうにオススメできる、すごい作品。ここまでくると、もはやメーカー品か同人かという枠は関係ありません。
豊富な音楽もすごくいいですし、使われ方も効果的です。繰り返し馴染みのテーマ曲が出てくることで、設定説明を省略し、そのシーンの基調色を効率的に誘導している。「この曲が流れるってことは、ほのぼのしたシーンか」とか「ここはそう簡単なシーンにはならないだろう」とか、読者に効率よく染みこんできます。
美少女ゲームって、萌えイラスト、美少女キャラクターの魅力に助けられて成り立ってる部分もあると思いますが、『ひまわり』を紐解いた読者は、やがて新しい自分に気づくことがあるやもしれません。萌え美少女の重力圏を脱し、孤独に物語そのものの旋律を聴く自分に。
(蛇足で言い足しますと、『ひまわり』のヒロイン達はどの娘も最高に可愛らしいです。が、『ひまわり』の不思議な魅力は、その先です。つまり、「ヒロインが可愛い…」と一通り愛でて読者の情念が燃え尽きる、というエロゲにありがちなパターンでは済まない。『ひまわり』の物語そのものから読者に注ぎ込まれるエネルギーが強大なので、読者は更にブースターを得て、美少女の限界を突破した、その先のエロゲ境地へと進んでいけるわけです)
点数としては、
(1)ストーリー、シナリオ、全体の雰囲気は、間違いなくフルプライス含めた全作品中で最高ランクに入ると思いました。
(2)CGや演出は、美少女ゲームという分野にあってストーリーと並んで最重要項目であり、フルプライスの商業作品は、ここに並々ならぬ心血を注いでいるはずです。この点については、『ひまわり』はどうしても不利になります。ただ、それは絵が可愛くないということでは決してなく(むしろ、どのヒロインもとても可愛い)、CG数が少なく、画面が小さく、美麗な塗りやまばたきや演出がないというだけです。もともと、シナリオの圧倒的な文章力を主軸にして立ち上がっている作品なので、絵が美麗すぎると却って全体のバランスを崩したかもしれません。また、なんといっても、この作品はフルプライスではなく1000円なのです。したがって、CGについても、点数的にマイナスになることはありません。
(3)H描写は、少ないですが非常に印象的でした。文字力一本でこれほど読ませるHシーンを描くとは…。この文章があるにもかかわらず絵がぬるぬる動く動画だったりしたら、読者の注意が分散して却ってバランスが崩れたでしょう。
以上の要素を考慮して、90点を付けたいと思います(その後95点に変更)。
(追記 2016.3.12)
『ひまわり -Pebble in the Sky-』(PC版)を、500円キャンペーンでもう一度プレイしました。
二度プレイした作品は、『ひまわり』がはじめてです。やはり、『ひまわり』 は普通のエロゲではありませんでした。
エロゲに点数をつけるときは、シナリオ○点、キャラ○点、絵○点、効果音○点というように分解して点数をつけることが多いのですが、ひまわりを正当に評価するには、「第6感」ではないけど、通常のエロゲ評価ポイントを超えた「第6の評価ポイント」が必要だと思いました。あえていえば、「エロゲ構造○点」というイメージが近いかもしれません。
『ひまわり』は、エロゲ構造をフルに使っています。ストーリーの並び方にもとても創意工夫があります。(3部構造+数多くのTips(小編))。第一部から第二部への移行の仕方も、漫画や小説ではできない見せ方の工夫がされていました。
それから大事な評価ポイントとして、『ひまわり』のキャラの魅せ方があります。
といっても、キャラが立っているとか、セリフがいいとか、個性が際立っているとか、絵が可愛いとか、そういう事ではありません。『ひまわり』のキャラはもちろん、それら全てを高いレベルで満たしていますが、そういう「通常のエロゲのヒロイン達」とはもっと違う何か、が『ひまわり』のヒロインにあるのです。
自分は、同人版プレイ時からそれがずっと不思議でした。「一体、ひまわりのキャラ(男性キャラ含む)たちの魅力はどっから来ているのか?」
少し考えてみたのですが、『ひまわり』は、キャラの登場の仕方にすごく工夫があります。「登場が派手である」とか「個性が立ってる」というのではありません。そういう言語化されたキャラ設定ではなくって、登場の順番とか、第何部から登場するのかとか、登場人物達の話題に上っているものの登場しないとか、そういう、絵やセリフ以前に、ストーリー全体構造そのものから、キャラに力が与えられている。途中で解放されるTips(小編)も、キャラクターに魂を注いでいます。それがあるから、キャラ自身の口からでるセリフ以上のもっと大きな何か、が可愛らしいヒロインの向こうに不気味に横たわっているのを、読者は感じることができるんです。
例えば、『ひまわり』とは関係のない具体例ですが、入学式のシーンで幼いヒロインがはしゃいでいるセリフがあるとして、もし読者が、その子がそのあとで事故死するのを知った上で読んでいるのであれば、ヒロインのセリフが明るければ明るいほど、読者にとっては痛々しさが増すということがありますよね。『ひまわり』は、そういう構造上の工夫をいくつも使ってキャラクタに魂を吹き込んでいるのです。だから、キャラクターのパワーがすごく大きいのです。
ですから、ひまわりのヒロインは、キャラ絵○点、セリフ○点とかでは測れない。+アルファで「物語構造そのものの工夫点」みたいなものが10点くらいあっていいと思いました。
とはいえ、エロゲ構造うんぬんを抜きにして、本作をガチのキャラ描写だけでみても、非常に秀逸でした。(アリエスは不思議な子なのであえて内面描写とか独白とかはありませんが)、アクアの章では、アクアの内面が繊細に描写されていて読んでいて本当に心地よかったです。詳しくは書けませんが、幸せはとっくに諦めいつも冷笑を浮かべている少女。でも、本当は誰かに助けてほしくて仕方ない、甘えたくて仕方がない。その身には誰よりも熱い血がくすぶっている。そんな心境が、淡々と、或いは血沸き肉踊る筆致で描写されています。すばらしい!
それから、典型的に面白いエロゲの一つの特徴でありますが、男性キャラが実にいい。強烈な個性と背景をもつ男性キャラは、ひまわり最大の魅力の一つです。
エロゲが衰退していると言われる昨今ですが、こういう作品がある限り、絶対にエロゲは滅びない。不滅だと思います。
そこで、今回(オリジナル同人版も本作も)、自分の中の最高得点にしました。
それから、私個人の好みでしかないのですが、3人のヒロインは本当にどの子も可愛くて、誰か1人を選べと言われても、選べません。ルートが変わる度にそのお話のメインヒロインが一番好きになってしまいました。ただ、物語の最初に出てきたのがアリエスであるし、この壮大な物語を閉じたのも見方によってはアリエスかもしれず、アリエスが一番不思議な気がしました。22歳くらいになったアリエスのお話なんかも見てみたいし、アリエスのお話の続きを見てみたいですね…。後日談があるとすれば(アクアについては同人版でアクア・アフターがある)、やはりアリエスの物語が最も長くなるんじゃないか、と勝手に予想してます。『アリエス・アフター』があれば、絶対に読んでみたい。
とはいえ、アクアルートをやればアクアが、明香ルートをやれば、明香が一番好きになってしまう。でも、やっぱり明香かなあ。いや、…選べませんです。はい。