あれ、おかしいな。更なるFDが欲しくてたまらない。Augustさん、お願いです。「夜明け前より瑠璃色な」の続編を作ってはくれませんか?
たくさんの作品をプレイした今、再度自分がエロゲーというジャンルに嵌った原因である作品「夜明け前より瑠璃色な」の世界に触れ、どれほど私がこの作品を好きであるかがわかった。私もそれなりの作品を嗜み、幾らかは目が肥えたとは思っている。そして久しぶりに触れたおかげで前回では気付かなかったことにも気付くようになった。
前回プレイ時ではフィーナの印象が強く、他ヒロインのことをあまり注視していなかったのかもしれない。本作をプレイして一番驚いたのは、ミアの魅力であった。私は所謂ロリというものにさほど興味はない。本来小柄な女性が好きなのだが、エロゲの場合、大抵ロリキャラは言動が幼いために妹や娘のような感覚に陥ってしまい、女性として見られないからだ。だが、ミアは幼い外見ながらもバイタリティ溢れ、何事にも努力する懸命さ、様々なことを考慮する聡明さと、恋人の達也といる時に発する女性としての色気を兼ね備えていた。ミアafter storyをプレイ時には本当に魅了されてしまった。
また朝霧達也という人物がどれだけ強い人間であるか、を理解した。前作のフィーナルート、ミアルートにおける別離を理解しながらも足掻き続ける強さ。気持ちを殺して穏便に済ますのではなく、傷つくことを前提に抗う。それは多くの人間が選択しないものだ。本作においても、リースafter story、シンシアルートでは彼は彼女たちの生き方を全肯定している。その道で一番傷付くのは彼であるのに。パートナーとして恋人として、彼女たちにとって唯一の特別な存在として、彼女たちが甘えてくることを受け容れている。
私が私であることを規定するのは歩んだ過去と歩むべき未来。前作そしてFDである本作はただそれを表現している。
<ミア>
今まで疑わずに歩んだ、そして歩むだろうはずだったフィーナのメイドとしての生き方を諦め、達也の恋人になったミア。道標を失った彼女は日常に満足できない。それに気付いた達也に勧められ、ミアは料理の勉強を始める。過去のメイドとしての経験を生かすことができる料理の勉強に充実感を得ることができるようになり、店に月料理を出すことを目標に生き始める。そしてそれはミアにしかできない地球と月の交流方法。諦めてしまったフィーナを手助けできる方法。ミアは捨ててしまった過去を、そして既に過去になってしまった選んだであろう未来を肯定できる新たな未来を見つけた。
<菜月>
幼い頃の夢を叶える為に進学したものの、現実を見たことで迷いが生まれた菜月。当たり前のように思っていた幼い頃の夢、それは過去であり未来。歩むべきか、そうでないのか?だが、彼女は夢に新たな意味を見つける。それは獣医になることで誰かを救えること、最愛の恋人に胸を張って会えるような立派な仕事であること。「獣医になる」それは幼い頃から変わらずとも、成長した今ではその意味は新たな未来を向いている。
<リース>
使命の為に生きるリースは誰かと共に生きる選択肢を持たない。使命を捨てることは彼女が自身の存在価値、生きる理由を棄てるに等しい。それはもはや死んでいると言っても過言ではない。だから達也とリースは両想いながらも別離を選ぶ。リースは使命の為に、達也は愛しているリースの「生きる」手助けをする為に、リースの過去も未来も認める為に。何度別離を繰り返しても彼らは同じ未来を選ぶだろう。
<翠>
強い夢を持ちながらも自分の気持ちに気付けない翠。孤独というトラウマを持つ弱い自分、進む道の見えない自分。劣等感を抱いて動けない翠は、達也の応援によってようやく夢に向けて歩き始めることができた。だが、彼女は夢の原点に心無い嘲笑を浴びせられて深く傷付き、弱い部分を達也に曝け出した。達也は自棄を起こした翠を優しく諭した、「弱くていい、甘えて欲しい」と「傷付いたのはそれだけ大切な夢」なのだと。過去と未来を肯定された翠は、やっと気付けた自分の気持ちを胸に夢へと走り出した。
<エステル>
エステルは孤児出身である過去を否定する為に努力し続けて生きてきた。生まれなど関係ない、実力さえあれば認められると。だが現実は彼女を打ちのめした。過去が彼女の足枷になっていた。そして更なる過去を知ってしまった。自分が忌み嫌っていた地球人とのハーフであることを。真実を知りエステルは何もかもを拒絶してしまった。だが達也に支えられ彼女は過去を受け容れた。これが前作までの話である。そして本作では、エステルは次に未来に目を向けた。それは達也と共にいる未来、地球人と月人の前例のない結婚。たとえ数多の障害があろうとも幸せな未来を夢見て。過去を否定する為に生きてきた彼女が、未来を渇望して生きる転換期に立ったのだ。
<シンシア(&フィアッカ)>
父の遺志、姉との誓い。科学者としての責任。過去選び取った選択肢を今さら否定することは彼女の人生を否定することと同義。彼女は過去に歩むべき未来を全て選択していたのだから。だから、どれだけ辛くても泣きたくても止めることはできない、してはいけない。だが、誓いを果たしつつも彼女は自己欺瞞をしていた。きっと達也と出会わなければ彼女は胸を張って言うことができなかっただろう。「シンシア・マルグリットはただの科学者だ」と。達也と出会えたことで彼女は選び取った過去と未来を間違いなく達成したのだ。
そしてそれはフィアッカも同じだろう。大切な妹であり、ともに戦うことを誓った盟友が生きていたことを知り、互いにボロボロの身でありながらも自分たちであり続けるために別離を選ぶことができたのだ。だから彼女は言う。「フィアッカ・マルグリットはただの科学者だ」と。自嘲的にではなく、堂々と。責任を背負う為に生にしがみくのではなく、責任を果たす為に生きていけるようになったのだ。
<フィーナ>
シナリオが一番短く非常に残念。彼女のシナリオに期待して買ったので、この点は期待外れと言わざるを得ない。しかし、タイトルはいい。「Moonlight & Earthlight」つまり「月と地球の光」。フィーナと達也が結ばれることで、2つの星の明るい未来が訪れることを示唆している。それはフィアッカ、シンシア、カレン、今は亡きセフィリアなど様々な人々のとっても幸福な世界である。そしてEarthlightはフィーナのファミリーネームでもある。これに気付いた時は一本取られたと思った。達也が地球の光に、フィーナが月の光になると同時に達也は地球人に月の光を伝え、フィーナは月人に地球の光を伝える。だから彼らは2人で1つの大きな光。だから彼らは「Moonlight & Earthlight」。