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broadsnowさんのリトルバスターズ!エクスタシーの長文感想

ユーザー
broadsnow
ゲーム
リトルバスターズ!エクスタシー
ブランド
Key
得点
97
参照数
1654

一言コメント

Keyの集大成

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

警告!
最初からトップギアのネタバレなのでネタバレが嫌な方はお戻り下さい。




この作品は、主人公がヒロインの問題を解消するタイプの作品が本質的に抱える欠陥をループによって解消した。欠陥とは何か?ルートに入らなかった他のヒロインは問題を解消できずに苦しみ続けることである。読み手は、他のヒロインのことが気がかりで心の底からハッピーエンドと思えなくなってしまう。


<オリジナルヒロインについて>

理樹は強くなるための修業として順々に5人のヒロインたちの抱える問題と対峙し、自らの力で打ち破っていく。

兄の死を死そのものを否定し壊れた小毬
姉を家族を世界を全てを憎む葉瑠佳
母を故郷を見捨てたこと悔やみ断罪を望むクド
殺した妹のために犠牲になろうとする美魚
感情を持たないことで疎外感を持つ唯湖

彼女らの問題に気付いたとき、理樹はすぐに恭介に助けを求めた。しかし、どの話でも恭介は「俺にはわからない。自分で解決しろ。」としか言わない。理樹は自らの頭で考え、自らの足で歩き、自らの手で恋人を助けた。誰かに助けてもらってばかりの彼が成長の第一歩を歩み始めたのだ。

そして、充分強くなったと恭介が判断して鈴と次のステージに移行した時、予想外にも2人が弱いことが露呈した。信頼していた恭介が敵として立ちはだかった時、彼らは逃げるしかできなかったのだ。しかし、理樹は弱さを知ることができた。自分が如何に子供であるか、どれだけ恭介を依存していたか理解した。そして決意する「これからは強く生きる」と。本当の成長はここから始まった。


<Refrainについて>

他人を信じようとしない鈴。
自身の存在を証明するために暴れる真人。
諦観し過去の為に未来を殺す謙吾。
鈴を傷つけた所為で心を閉ざし、かつての理樹になった恭介。

弱いことすら知らなかった昔の理樹なら恭介に縋るしかできなかった。でも彼は誓った「これからは強く生きる」と。自身の弱さが鈴を傷つけたことを深く後悔したときに「これからは強く生きる」と誓った。だから歩んだ。かつて恭介が歩んだ道を。ヒーローとしか救ってくれる存在としか思っていなかった恭介を救うために。そして、その中で理樹は知っていく。友人たちの苦悩を。その中で理樹は成長する。仲間とともに。

存在意義に絶望する真人を優しく諭す「真人は僕の友達だ」と
未来を無視してきたことを悔やむ謙吾をただ誘う「これからは遊ぼう」と
仲間を守れないことに苦しむ恭介に告げる「助けに来た」と
そして最後の遊びをし、真実を知る。まだ自分は守られているのだと。みなが死を受け入れ自分たちを成長させるために礎になろうとしているのだと。

始め理樹は恭介が作った世界でみんなを見捨てる道を選ぶ。助ける意志を砕くために恭介が見せた残酷な夢。みんなを助けることなどできない夢。だから理樹は恭介に従うしかなかった。

そして恭介は問う。「これで良かっただろ」と。

だが理樹は恭介の問いに答える。「良くない。みんながいない」と。本当の世界ではみんなを救ってみせると誓った。

夢が終わり、真実を見せ付けられた。本当の痛み、本当の恐怖を味わった。だが理樹は戦った。みんなが死んでしまう夢を現実にしてしまわないように。その姿はいつか恭介が夢見た、成長した姿に他ならなかった。

みなが助かる大団円エンドを蛇足と捕らえる人もいるが、私はむしろこのルートがなければ意味がないと考える。2人で助かるルートは結局仲間に守られ続け、恭介の言いつけに従っただけだ。こんなもの成長などと言わない。みんなを救おうと決意し、絶対の信頼を寄せていた恭介の言い付けをあえて破る。この瞬間があったからこそ、この長い物語の終止符になりうるのだ。結局、理樹と鈴のために課した試練によってリトルバスターズ全員が救われることになった。

小毬は死を受け入れ、
葉瑠佳は家族の愛に気付き、
クドは自分を許し、
美魚は生きる価値を見出し、
唯湖は恋を知り、
鈴は仲間の大切さを理解し、
真人は己を肯定し、
謙吾は未来に目を向け、
恭介は独りで背負っていた荷を降ろした。


私はこの物語を表現する最適な言葉は以下のものと捉えている。

"All for two. Twe for all. Because they are Little Busters!"

彼らが彼らであるためには仲間全員が揃っていることが必要だった。


<小毬について>

作中で小毬は明らかに優遇されている。解放された他のヒロインは世界から去っていくのに対し、彼女は物語の最後まで世界に留まり続けていた。これは、彼女が鈴にとって「いちばんの仲良しさん」であり、また鈴と非常に似ていたからだろう。大好きだった兄の死を認められず、死そのものを否定した小毬。その痛々しさを恭介は鈴に重ねてしまったのだろう。恭介の鈴に対する愛情の一端を窺うことができる。




<追加シナリオについて>

追加ヒロインは3人。一言で表現するとすれば佳奈多は補足、佐々美は延長、沙耶は異質といった感じか。

佳奈多ルートは葉留佳の話を補足するようで、その実オリジナルヒロイン全員の気持ちを補足している。ループする世界で理樹は記憶がリセットされていくが解放されたヒロインは記憶を保持している。恋人だった理樹が別の人間と恋仲になる様子をみても彼女たちは静かである。なぜなら、「こんな自分を好きだと言ってくれた」そんな瞬間が確かに存在していた。とても大切にしてくれた、それだけで満足であると。絶対に死んでしまう自分が、死の間際そんな人の礎になれる、それだけで嬉しいのだと。

佐々美ルートはRefrainのあとの世界で再び同じ現象に見舞われる。成長した理樹が今度は両親との死別に向き合う。たとえ、一瞬であっても親に会いたい、どんな理由で独りにされたとしても恋しいのだ、と佐々美を諭す。非常にKeyらしいシナリオである。

沙耶ルートは異質。なぜなら彼女は招かれざる存在であったから。死して青春を求めて止まぬ少女が恭介の願望であったスクレボの「沙耶」として、この世界に介入してきたのだ。完全なイレギュラーである彼女と理樹の接触は好ましいものであるわけがない。それでも恭介は世界からの退場を彼女の決断に委ねた。死が運命付けられた恭介にとって彼女の懇願は他人事ではなかったのだろう。そして彼女は理樹と結ばれたら世界を去ることにした。ただ青春が欲しかっただけ、欲しいものはただそれだけだったから。

CLANNADが人生・家族・親子であるならリトルバスターズ!は青春・友情・兄弟の物語だったと思う。