大きな愛の物語。頭ではなく、心で読む作品
・アンリミテッド編の回答として
投げっぱなしの伏線が山盛りの前作。
その回答編としてオルタをプレイする人は多いと思う。
細かい疑問はさておき、根本的な疑問は、おそらく、以下の2つ。
・世界の始まり、つまり、BETAが地球にやってきた理由。
・物語の始まり、つまり、白銀武がオルタ世界に飛ばされた理由。
上にSF的な回答を期待すると、おそらくガッカリすると思う。
下には明確な回答がある。
スケールは大きく、世界の作り込みもハンパない。
けれど、結局のところ、設定は物語のテンションを上げる道具にすぎない。
そのテンションが尋常じゃなく高いから、錯覚しそうになるけれど、
マブラヴ・オルタネイティブは、オルタ世界の物語ではなく、あくまで白銀武の物語として始まって終わる。
・人類vs宇宙人
前作では口に上るだけの存在だった宇宙生物「BETA」がついに登場する。
「人類vs宇宙人」という戦争のド真ん中で、オルタのストーリーは展開していくことになる。
で、『スターシップ・トルーパー』というSF映画がある。原作「宇宙の戦士」。
オルタのスタッフはパクったは言いすぎだけど、見ていないと言っらウソだ、というくらいには影響を受けていると感じた。
この映画は「人類vs宇宙人」という馬鹿設定を、馬鹿設定のまま表現したエキサイティングな作品。
少年期に戦争を体験した監督が、皮肉を交えて戦争を架空のエンターテイメントとして描ききることで、
「戦争って、こんなに馬鹿馬鹿しいんだな」という考えを引き出す反戦映画にもなっている。
オルタも「人類vs宇宙人」を、馬鹿設定のまま表現することに変わりはない。
「BETAが地球に何しに来たのか分かんねー」という状態で読み進めることになる。
ただ、オルタの戦争は架空のエンターテイメントとしては描かれない。
起こってしまった現実として、歴史やら、現状やら、全てが淡々とリアリズムで表現される。
なので、説明が多い。
馬鹿馬鹿しい設定を現実に変更する努力が、これでもかと続く。
アンリミテッド編は下地にすぎない、という勢いで、更に世界を強固なものにしていく。
そうした説明を乗り越えて、現実として描かれた「人類vs宇宙人」は、エキサイティングというよりはスリリング。
10代の若者が宇宙人と最前線で戦う、という途方もなく馬鹿げた世界を、作中では緊張感の中で見ることが出来た。
反戦でも戦争賛歌でもない、という印象。その手のメッセージ性に力点のあるシーンはなかった気がする。
勿論、戦争モノなので悲惨なシーンもある。ただ、キャラクターたちには前向きな覚悟がある。
大阪夏の陣で淀君はともかく、幸村を悲惨と言ってくれるなという人なら、オルタの悲惨さは別のモノに変わると思う。
・長くて速い物語
説明文は長いけどサジ加減は適度なので、やたらと長い、という印象はない。
「18禁なんだし、それくらいのこと説明いらねー」と言いたくなるシーンは少ない。
読み手の情報が無駄なく確実に増えていくから、ある種のスピード感がある。
説明魔人の香月司令と武が話し込むシーンは、それでも長い。
だけど基本的には、場面が目まぐるしく変わる、速い物語だと思う。
キャラクターたちの心の準備とか関係なく、物語は非情なまでに前へ前へと進んでいく。
「はやすぎだって、ちょっと待って」と言いたくなる展開が連続する。
かといって、荒っぽい作品なのかというと、それは違うと思う。
戦時下なのだから、ロクな準備が出来ないのはむしろ当たり前。
それでも覚悟を見せる、それがオルタのキャラクター。
で、オルタは前作同様、基本的にセリフだけで進行していく。
警報の効果音が鳴るだけで、「その時、警報が鳴り響いた」みたいなテキストはない。
立ち絵が移動するだけで、「彼女は部屋から出て行った」というテキストもない。
絵の動きと音だけで極力全てを表現しようとした意欲作。
一言で言えば、演出のデキがハンパない。
もっとも、人によっては「アニメで作れ」と言いたくなるだろうし、コレは良し悪しなのかもしれない。
大作ではあるけれど、とっつき易い工夫に溢れた作品だと思う。
・主人公
長い長い物語で、何人も何人もキャラクターが出てくる。
彼らの人生で最大の見せ場、という濃いシーンがそれぞれに用意される。
力強いセリフが積み重ねられ、物語は厚みを増しながら進行していく。
そうした強い人ばかり出てくる物語の中で、武は「すげえ」と他人に感心してばかり。
肝心の自分はなかなか安定しない。
何を目指して戦っているのか、何のために戦うのか、その結論が定まっているようでブレまくる。
ただ一人のアウトサイダ-である彼は、なかなかオルタ世界に馴染まない。
平和な世界から戦時下の世界に放り出された哀れな犠牲者であり続ける。
『戦争オルタ世界 = 戦争白銀武』 とはならず、
『戦争オルタ世界 vs 平和白銀武』 という描き方。
この差が、平和な世界でPCの前に座る「読み手」が絡んでくることで、更に大きな差になる。
『戦争オルタ世界 = 戦争白銀武 = 平和読み手』 は、ありえない。
『戦争作品世界 vs 平和読み手』 となって、画面のこちらと向こうで接点がなくなる。
せっかく作り込まれた世界が、あまりに遠い世界になってしまって思い入れが難しくなる。
『戦争オルタ世界 vs 平和白銀武 = 平和読み手』 が、この作品。
当然ながら、平和を引きずった武の甘さにイライラする場面も出てくる。
戦争と平和のギャップに叩きのめされるシーンも多い。
ヘタれた姿を成長過程としてだけでなく、「仕方ないよ」という共感を呼ぶ姿としても描いている。
目を背けたくなる場面もあるけど、読み手は武の言動を通して、世界にまで届いて、作品とシンクロしていける。
一方で、前作同様、彼は超一流の衛士であり、特別な存在であり続ける。
胸がすくような活躍も見せてくれるので、バトル物主人公としても勿論楽しめる。
・戦闘
大半を占めるのは「人類vs宇宙人」で、侵略に対する必然の戦闘として描かれる。
そこには「武蔵対小次郎」や「ラオウ対ケンシロウ」のようなドラマ性は当然ない。
その代わりに、主人公たちには絶対的な大義名分がある。
宇宙人を倒さなければ人類が滅んでしまうのだから、もうやるしかない。
「BETAがかわいそう」と思うような人は、プランクトンからやり直すしかない。
撃ちまくって、斬りまくって、殺しまくっても、そこにあるのは100%の正義。
こんなに分かり易いバトルはないわけで、最高にノレた。
「どっちが正義だ」みたいな戦闘もある。
それを踏まえて、乗り越えて、彼らは戦っていく。
・戦闘シーン
アンリミテッド編から、更にスタイリッシュに、更に作り込まれている印象。
「フォックスワン!」とか「アローヘッドワンに移行」とか、FPSゲームのような通信のやり取りが実にノレる。
ワラワラと迫るBETAは「よくぞここまで作ったなあ」と感心する。
戦術機の動きは、紙芝居感が強いシーンもあるけど、それは音でカバーされる。
何より、たった一回の竪穴ダイブシーンだけのために、空中制御姿勢の機体絵を用意する作り込みに頭が下がる。
戦闘前のブリーフィングも見もの。知らないうちに「やっぱり面制圧だよな」とか思えてくる。
そして作戦のたびに新しいパネル画面がご丁寧にも用意される。
アニメでやれという意見は分かるのだけど、変質的なまでの作り込みにA型民族の血がどうしても共感してしまう。
何と言うか、このスタッフは頭がおかしい(褒め言葉)。
・ストーリー
SFとか、ミリタリー性とか、政治思想とか、いろいろな要素が山盛りで、いろいろな楽しみ方が出来る。
戦争映画として、あるいはロボットアニメとして、場面場面で読み方、盛り上がり方が大きく変化する。
これはアンリミテッド編と変わらない。
で、オルタの中心にあるものは何か、というと、愛だ。
我ながら引くけれど、他に言いようがない。
大きな愛の物語、それがマブラヴ・オルタネイティブだと思う。
「愛の力で勝利だー」とか、そういう話ではなくて、むしろ真逆。
でも、マブラヴ+マブラヴ・オルタネイティブは愛の物語だ、と確信を持って言える。
・補足とか
個別ルートはない。一本道。
エロはとても少ないし、回想すらない。
プレイ経験はないけれど、全年齢版でもこの作品を余すことなく楽しめると予想。
オルタをプレイして、他の作品を軽く感じることが増えた。
じゃあつまらないか、というと、そんなことはなくて、むしろその軽さが心地いい。
逆もまたしかりで、軽い作品があってこそ、オルタのような作品の大作臭が心地よくなるのだと思う。
そもそも、マブラヴ内でエクストラ編とオルタという強烈な対比が存在している。
エロゲに飽きた、あるいは、刺激が欲しい、という人に、超おススメの一本。