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bosskingさんのAliveZの長文感想

ユーザー
bossking
ゲーム
AliveZ
ブランド
ALICESOFT
得点
55
参照数
0

一言コメント

突き抜けた妄想ノベル。その割に熱がない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

・妄想
フィクションは、1にも2にも想像力。
作り手の想像力に読み手の想像力が刺激され、フィクションは楽しく読める。

『AliveZ』で提示される想像力は、客観性がカケラもない。
「書きたいことを、書きたいように書く」という姿勢で一貫している。
なので、この作品の想像力は、妄想といった方がしっくりくる。


・熱
個人的には、妄想は妄想で面白いものだと思う。
けれど、この作品には妄想特有の熱がない。
熱をもって狂わせる、熱狂状態に読み手を引き込むほどには強い妄想ではない。

だから、客観性をもたせて、想像力の範囲に収めた方が良かったのでは、と感じた。

人間が「黒」という殺戮マシーンになってしまう異常な世界でこの物語は進む。
突拍子も無い設定ではあるけれど、作中リアリティくらいはいくらでも構築できると思う。

事態はどう進展しているのか、自治体はどう動いたのか、政府はどんな対策を取ったのか。

そういう客観性を、豪快に捨て去っている。
なのに、それによって産まれる開放感を、作り手は活かそうとしていない。
物語は伸びやかさのない、狭い展開に終始する。


・テキスト
視点が、2種類の表示形式ごとに変化する。

テキストウィンドを使った普通のノベルゲーム画面は三人称。
Fate/ひぐらしタイプの全画面テキストは一人称。
この二つが、目まぐるしく変化する。

そんなプログラムの工夫をする前に、
なるべく三人称か一人称で統一する工夫をするべきだった。

効果的に表示形式が使い分けられているならともかく、
読んでいて、三人称や一人称でまとめる努力を感じない。

作り手の脳内イメージを、そのまま出力したテキスト。
まさに「妄想の垂れ流し」で、あまりに工夫が無くて読み解きづらい。


・キャラ
誰も彼も極端な思考の持ち主。オール・オア・ナッシング。
ギャグならいいけど、シリアスでそんなキャラばかりでは、物語は安くなる。

あなたのためなら、わたしは死ねる。
そう思うのは勝手だけど、言うタイミングを計って欲しい。

思ったとおりにいかないから、もう死ぬ。
そう思うのは勝手だけど、だったら独りで死んで欲しい。

そんな危険物みたいなキャラに爆弾アタックを繰り返される主人公が哀れに思えた。

一番キツいのは、最初からオール・オア・ナッシングなこと。
物語の中でイベントが起こり、それによって思考・感情が変化していく、という部分が少ない。
特に恋愛・エロという意味では、少ないというか、無い。

主人公とアクシデントで、あるいは義務的にHするキャラがいる。
でも、その結果主人公ラブになったり、嫌悪状態になったりしない。

最初から主人公ラブのキャラは、最後まで主人公ラブ。
どうでもいいと思っているキャラは、何があっても「どうでもいい」のまま変化しない。

エロゲ的な醍醐味が、とても少ない作品だと思う。


・癒し系
後半は、それなりに面白く読めた。
いばらがいばらとして(?)主人公の元に顕在した辺りから。

オール・オア・ナッシングなキャラばかりと書いたけれど、
見せ場やクライマックスならば、そんな思考にも違和感がなくなる。

ただ、そうした物語的面白さよりも、ノベルゲーム的面白さの方が遥かに大きかった。
この作品の場合は、声。

前半で疲れきった頭に、いばらの声が心地よく、強烈な癒しになった。
声買いという意味では、おススメかもしれない。


・エロ
回想は5~10という感じ。純然たるエロシーンはとても少ない。
短いオナニーシーンだけだったり、他の場面が挿入されてブツ切りだったりするのが多い。
純然たるエロシーンにしても、とても短い。

主人公が「セックスしないとヤバい体」という設定。
エロなしでは成り立たない作品ではあるけれど、エロ描写そのものは物足りなかった。