ErogameScape -エロゲー批評空間-

bosskingさんのCLANNAD FULL VOICEの長文感想

ユーザー
bossking
ゲーム
CLANNAD FULL VOICE
ブランド
Key
得点
100
参照数
0

一言コメント

もし笑えるゲ-ムが好きという人が避けているなら勿体ない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■信用
物語を楽しむために、作り手への信用は必要不可欠。
「この作り手なら信用できる」という考えが、物語を読み進める原動力となる。

先が気になるから読む、というケースが多いと思うけれど、
ただ伏線を散りばめただけの物語には、ちょっとついていけない。

読んでいる今まさにここ、という部分の面白さで出来上がる信用が、
伏線を魅力的な謎に変えていく。

クラナドの場合、序盤から「笑い」でその場その場の面白さを作り上げていく。
そこで生まれた作り手への信用が、「主人公の無気力さ」や「メインヒロインの留年」
といった伏線を魅力的なものに変え、物語が転がっていく。

ブランド過去作のカノンやエアでは、おかしみ/軽妙さレベルで制御されていたけれど、
クラナドはもう、明確に笑わせにきている。

始めてしばらくして「どこが泣きゲーなんだよ! ギャグゲーじゃねえか!」
と自分は感じたし、全体図として「泣き笑いゲー」だと思う。

悲劇と喜劇、どちらを好むかは人それぞれだろうけど、
クラナドは「喜劇」>「悲劇」>「喜劇」という流れな作品だと思う。
愉快なキャラに泣かされて、最後には笑える。
自分は、こういうのホントに好き。


■書かれていないこと
この作品では、主人公の本当にひどかった時代が描かれない。
この時代は2つあって、ゲーム開始前と、ゲーム終盤で一回ある。
そうした暗黒時代から、他人に救われつつ自ら救っていく部分だけが描かれる。

だから読み手は、行間を読むどころではなく、シーン間を読む必要がある。
作中にはない主人公の暗黒時代に思いを馳せなければ、楽しめない索引だと思う。

「あえて読み手の想像にまかせてみた」みたいな言葉を吐くクリエイターは大嫌いだ。
お前に言われなくても、やってるっつーの、まかせるんじゃなくて、利用しろよ、
と言いたくなる。

自分はそういう人間なので、丁寧に1から10まで説明しきるような作品は、
あんまり好きではない。
分かんないけど、まあ、こんな感じかなあ、と想像力を強要される勢いの作品の方が、
どちらかと言えば好き。

そんな自分に基本的には合ったのだけど、時に読み手の常識を捨て去って、
妄想世界にダイブしないとついていけないくらい無理からな展開もある。
不条理ギャグとかではなく、シリアスなクライマックスでそんなノリがある。

「馬鹿になれ」とまでは言わないけれど、それくらいの覚悟があったほうが、
この作品は楽しめると思う。


■秘密
「誰かを好きになったら、それはもう、何でも話せるもんだ」とか、
言う人がいるけれど、自分は全く逆だと思う。

誰かを好きになったと自覚した時点で、言葉で表したくない、あるいは、
絶対に言いたくない、秘密が生まれるのだと思う。
「誰か」を「何か」と言い換えても、これはおかしな事とは思わない。

その作品を好きであればあるほど、感想を書くのは本当に難しい。
ましてや18歳をとうに超えてしまったわけで、難しさがいや増している。
「多くの人にやって欲しい」みたいな使命感でドカドカ書けることもあるけれど、
それはマレ。

何というか、高得点作品のわりにロクな感想を書いてない自覚があるけれど、
どうか許してくださいということです。



■最後に
声がハンパなく良かった。笑いの四天王、春原、風子、秋生、早苗はパーフェクト。
ただでさえ長い物語が更に長くなる、という欠点を補って余りある。
「Full Voice」をオススメ。