ひたすら日常を謳歌するシナリオ。個別ルートのボリュームがそこそこあるので、趣向と合わないと苦痛かも。
世界観が丁寧に作り込まれており全体の雰囲気も良く、退屈なんだけど、つい読み進めてしまうという心地よさがあります。主人公が鈍すぎる事以外は優秀な主夫をやっていてなかなか好感の持てる人物だったのも雰囲気作りに一役買っていますね。まあ、たまに「何だこいつは」と主人公そのものを否定しかねない程やきもきしてしまうぐらい鈍すぎる場面があるので、そこは大目に見れないときついかもしれません。
誰もが突っ込むであろう点、4人中3人がツンデレというバランスの悪さは擁護しにくいですが、キャラの魅力は各々及第点だと思います。
以下、かなりネタバレ注意。
■ライカルート
ライカのシルフィードとしての成長日誌といった体裁。このシナリオが一番ひたすら日常といった感想を抱きました。日常系というのは共通ルートのように各キャラが絡んでこそ面白いのであって、個別ルートに入ってライカに焦点が絞られてくると少々辛いものがあります。ただ、感動といった点ではこのルートが一番かもしれません。
■クラウルート
家出してきたクラウと店を切り盛りするというお話。粗筋は悪くはないのですが、布石が足りずパンチもないので終盤で一気に纏めたようにしか見えず残念。また、主人公が鈍いのもありますが、それ以上に女の子の空気読め感が強すぎて不条理に感じてしまいました。クラウの性格が難儀過ぎます。
■リミアルート
帝王学を学んできたリミアらしく経営者としての手腕を存分に発揮し、インク空運が超大手にまでにのし上がるという、最も店が大成したサクセスストーリー。わがまま娘のリミアが人間的に成長してハッピーエンド、その後を少し付け加えて終わりかなと思わせておいて意外に最後まで丁寧に長く綴られています。
■エイミルート
今回、一番の伏兵。ルート序盤でシルフィードとして覚醒していくような臭いをさせつつ、一連の流れをあっさり挫折としての位置づけにしています。その上で無能感にうちひしがれるエイミに隠れされた能力が徐々に明らかにされ、店にも貢献していくことになるという展開にはびっくりです。もちろん、良い意味で。また、何故ドジばかりで何も出来ないエイミをクラウが手元に置いていたかを友情以外で補強している点にも注目したいです。さらに言えば、この主従関係が能力の伏線にもなっているというおまけつきです。
□総評
この作品に求められるのは、結局のところ店の興隆だと思うんですよね。メインに置くかスパイスとして置くかは別として。平穏な日常がテーマにしろ、目的が無いと先に進めたいという欲求はなかなか生まれてきませんから。その意味で、エイミルートが一番お手本と言えるものではないでしょうか。話の中核に店の経営が据えられ、また同時に妊娠、出産もその中に組み込まれているので物語に厚みが増していました。文句なく、ダントツに面白かったです。
お気に入りルートは
エイミ>>>リミア=ライカ>クラウ
ちょっと逸れますが、個人的に気になること。
よくよく考えると今までロッド一つで空を飛べる力を持っていたのに20代後半から力を失っていくって怖すぎます。もし自分がそんな力を持っていたとして、と想像すると発狂してもおかしくない恐怖ですよ、これ。寂しいとか悲しいなんてレベルじゃないです。