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boningenさんの潮風の消える海にの長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
潮風の消える海に
ブランド
light
得点
85
参照数
94

一言コメント

短いが独特なまでに強烈な雰囲気は目を見張るものがあり、寂れた沿線で青春を謳歌する様が非常に良く描けている。特に雰囲気が素晴らしく良い。昨今めっきり見かけることのなくなった正統派ノベル。

長文感想




・シナリオ

プレイ時間は5時間と短い為あっという間に読み終えてしまったが、内容には非常に満足しています。

鶴見線という実在する沿線が舞台となっており、その沿線を中心に一風変わった青春を謳歌するさまが非常に良く描かれている。
登場人物こそ少ないが、キャラクターどうしの掛け合いよりも内面描写に重点が置かれており、シナリオ全体の構成や、この内面の描写が非常に良く出来ていたので楽しみながら読むことが出来ました。

特筆すべきはその強烈なまでの良い雰囲気でした。
文字として表現するのは難しいが、どこか郷愁を思い起こさせるような独特なものを強く感じた。
そういった意味では雰囲気ゲーと評すべきなのでしょうが、一般的な意味での雰囲気しかないゲームとは異なり、しっかりとシナリオ面でもよく出来たものが用意されているので、この点は履き違えぬよう願います。

寂れた沿線で複雑な家庭環境に葛藤を抱えながら、仲間たちと共に無謀とも思える夢に向かってひたむきに走る。
そういった青春要素も強く、内面描写ばかりでは重くなり過ぎる作風を丁度よい塩梅で和らげてくれている。

また短い作品でありながらも、読後の余韻が素晴らしく良い作品でもありました。
短い作品ではどうしても読後に残るものが薄いという欠点を抱えがちだが、本作品ではこれ以上ないほどの完璧な終わり方をしていた。
これ程までに爽快感のある終わり方をしていた作品は初めてかもしれない。

「シルヴァリオ」シリーズ等で見る影もなくなってしまったlightだが、やはり往年のlightは非常に良いブランドであったと再実感させられる良い作品でした。





・絵や背景

グリザイアで有名な渡辺明夫が担当する作品となるが、この頃の絵柄が最も安定していたように思われる。
グリザイア以降は馬面のような伸びた顔を描くことが多く、可愛らしさというものを感じられない絵柄となってしまったが、本作品ではそのなる前のものを拝むことが出来る。

それにしても、年月が経とうとも色褪せることなく現在でも違和感なく通用する絵柄というのは素直に驚くほかない。
古い作品をプレイする際にありがちな、違和感のある絵柄と対峙することになる可能性は非常に低い。

背景は実在するものがモデルとなっているだけあり、非常に良くできている。






・声

文句なしの配役となる。
昨今ではめっきり聴く機会の少なくなってしまった安玖深音と佐本二厘の演技を聴くことが出来るというだけでも満足しているが、男性陣も木島宇太や杉崎和哉といった隙のない配役となっている。
主人公もフルボイスとなっていた点も評価しています。





・音楽

主題歌は非常に良くできている。
起動するとタイトル画面でこの主題歌のinstが流れる仕様となっているが、このinstが非常に作品の雰囲気と合っているので、作品の雰囲気を際立たせることに大いに貢献している。

BGMについては可もなく不可もなく。
音楽鑑賞画面は実装されていないので、もしも気に入ったBGMがあった場合はその場面のセーブデータを保存しておくことをお勧めします。





・システム

古いながらも最低限の機能は実装されている。
不便な部分は外部ツールにて解消可能なので、どうしても気になる場合はそちらを活用されるとよいでしょう。











・総評

郷愁と青春という二つの要素を強く感じられる素晴らしい作品でした。
内面描写も非常に丁寧に描かれており、話のテンポも良い。
昨今のエロゲではとんと見かけなくなってしまった、しっかりとしたノベルゲームと言えるでしょう。
こういったある意味でエロゲらしくない作品が増えてくれるとよいのですが。

読後の余韻も稀にみる非常に良い物でしたので、シナリオゲー好きならば迷わず購入されることを強くお勧め致します。