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boningenさんのこの青空に約束を―の長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
この青空に約束を―
ブランド
戯画
得点
93
参照数
326

一言コメント

全てが高水準で纏まっている素晴らしい作品でした。つぐみ寮を中心に描かれる青春学園物となっており、この手の作品につきものの中弛みといったものが一切感じられない。特に主人公の性格には妙な味があり、どうにも憎めない良い性格をしている。

長文感想

・シナリオ

プレイ時間は27時間となっており平均よりもやや長めとなっているが、一言コメントでも述べた通り中弛みとは無縁の代物となっているので退屈さを感じる場面は皆無でした。

実際にプレイしたのは「戯画ロイヤルスウィートコレクション」に含まれている物だが、対応OSが最新のものに修正されているだけで、作品そのものの機能性は古いままとなっている。
よって起動そのものは苦労しなかったが、その他の部分で多少苦労させられたので、この辺りの詳細と回避策についてはシステムの項目にて記す。

ちなみに「戯画ロイヤルスウィートコレクション」にはPSP版「この青空に約束を― てのひらのらくえん」の新ヒロイン久藤ちひろルートも収録されているが、プレイ順に注意が必要となっている。
このルートの本体とも呼べるものは”ジュエルボックスコレクション”内の「リコレクションストーリーズ」に収録されている”手のひらの学園”となっており、「この青空に約束を特典ADV」はその本体を補完する物となっている。
プレイ時間は合計で3時間20分程であり、これは27時間には含めていません。

シナリオとしては、さすがこの手のジャンルの代表作とまで呼ばれるだけあり、非の打ち所のない非常に安定した素晴らしい作品となっていました。

登場人物が多く、メインの攻略対象だけでも6名、登場頻度の高いサブに至っては6名、更に登場頻度は低いが立ち絵と声が用意されているサブが役8名と古い作品にはありがちとはいえ非常に多い。
それでいてそれぞれが個性豊かに描かれており、特に攻略対象は濃く、魅力的に描かれている。
これほどまでにキャラが立っている作品も珍しい。

主人公はプレイボーイの側面の強い、いわゆる普段からモテるタイプとなっており、学園物にしては珍しい設定となっているが、不思議とそれが鼻につく事が無く、妙な愛着を沸かせる良い性格をしている。
普段はお茶らけているが、締める所では締め、それでいて弱い部分も垣間見せる。

シナリオはつぐみ寮という少数の生徒のみが暮らす学生寮を中心に回る事となるが、このつぐみ寮での空気が特に良い。
生徒数が少なく、お互い助け合いながら生活する様は疑似的な家族にも見える和気藹々とした雰囲気となっており、この点では「家族計画」に少し近いものを感じた。
この点を特に評価しています。

テキストも読み易く、コメディ要素もふんだんに盛り込まれており、パロディに頼らない純粋な面白さを感じられた。
所々に先を気にさせる謎も用意されており、この点も中弛みを感じさせない要素の一つとなっていた。

唯一残念だったのは最後の終わり方だが、これは珍しく終わってほしくないとまで思わせる良い作品であったからこその不満と言えるかもしれない。
詳細はネタバレとなるので伏せるが、作品そのものは必ず最後までプレイしなければその良さが伝わらない設計となっているので、兎にも角にもプレイされるのであれば、必ず最後までプレイされる事を強くお勧めする。

これは余談となるが、タイトルやジャケットから夏を舞台とした作品だと私は思い込んでいたが、夏を感じさせる要素は薄く、特段プレイ時期を夏に合わせる必要はない。
これを意識しすぎた結果、タイミングが上手く合わず発売からかれこれ17年も寝かせてしまっていたことを思うと、少々複雑なものがよぎる。





・絵や背景

絵については古さを感じさせない。
時が経った今でも十分に通用する類のものとなっている。
また立ち絵での衣服のバリエーションが豊富であり、昨今の作品群ではありえない程の量となっている。
古き良き時代とは言いたくないが、いかに昨今の作品がこの辺りを犠牲にしているのか、といった事をまざまざと見せつけられるような思いでした。

背景の枚数も非常に多く、一度しか使用されないような特殊な場面にもしっかりと背景が用意されている。
その他にも細かい部分までテキストとの整合性がしっかりと取られている辺り、非常に丁寧に作られていることが窺える。





・声

発売当時はこの辺りに拘りが無かったので気にしていなかったが、今になって見返してみると異色な配役となっていたように思われる。

勿論どの配役も演技力に問題はないが、浅倉奈緒子演じる篠崎双葉と桐島沙衣里演じる紫苑みやび辺りなどは、キャラクターの方向性が全く異なる役のイメージが既に定着してしまっていたので、当初は違和感の方が強かった。
ただ先にも述べたように演技力そのものは申し分ないので、この辺りはすぐに慣れるでしょう。

声質を生かした良い演技という意味では、河合春華演じる沢城凛奈が頭一つ抜けていたように思う。
地声に近いのだろうか、幅の広い演技を見せてくれる。

また古い作品なので致し方ない所ではあるが、音声の音質はあまり良くない。





・音楽

BGMは平均的で唯一本作品では特別良い部分が無い要素となるが、OP曲の”allegretto ~そらときみ~”の出来は素晴らしい。
その他のボーカル曲に関しては平均的。

お気に入りのBGM
 ・5月のミルキー・ウェイ





・システム

古いシステムのままなので当然ではあるが、快適とは言い難い。

全画面化ではディスプレイ側の解像度を小さい物へ変更するタイプである為、マルチモニター環境では起動していた他の窓がセカンドディスプレイへ押しやられてしまう致命的な問題があり、全体音量管理機能も存在しない。

ただし最低限必須となる次の台詞まで音声を継続する機能と、マウスホイールによる改行は存在しているので、古いとはいえ先に述べた2点さえなんとかする事が出来れば、プレイに支障をきたす事は無くなる。

本作品では全画面化の問題を回避する上で、これまで使用していた”SandBurst”では動画の再生に問題が発生した為、別のツールを導入する事となりました。
動画再生に関する問題の詳細としては、拡大処理に問題があるのか、何故か動画では拡大され過ぎてしまい、そのほとんどが画面外に飛んでしまい動画の一部しか視聴できない状態になってしまうという症状となる。
そのため新しく”Magpie”というツールを導入したが、これが思いのほか使い勝手が良く、”SandBurst”の完全上位互換と呼ぶに相応しいツールとなっていた。
AI技術によるアップコンバートによる拡大処理である為、画質が非常に良く、当初危惧していたAI補正が余計な修正をしてしまうといったこともありませんでした。
その上”SandBurst”では拡大する上で窓が増える上に適切な手順を踏まなければ別アプリへ移動する際に窓が最前面に残ってしまう問題点が存在したが、それらの問題が”Magpie”には存在しない。

以下に設定方法を記しておく。
1.Magpieダウンロード
2.Magpie起動
3.新しいプロファイル
4.対象のゲームを選択
5.作成
6.スケーリングモードをAnime4Kへ変更
7.最前面時自動スケーリングをオン
以上となります。

インストールを要求される類のものではなく、ダウンロードしたものを解凍するだけで使用できる上、日本語にも対応しているので、使いやすいように設定を変更する事も容易となっている。
基本的には常駐させておいた方が使い勝手が良いので、私の場合は設定にて”システムトレイにアプリを表示”をオンにしています。
こうする事で、Magpieのメインウィンドウを閉じていてもシステムトレイに常駐する形となり、邪魔になる事が無くなります。

このツールの導入により、古い作品につきものであった全画面化の問題が一挙に解決されたといっても過言ではない。

また本作品は戯画製である為、起動時にディスクを挿入しておかなければプロテクトにより弾かれてしまう仕様となっている。
「戯画ロイヤルスウィートコレクション」では特典やサイドストーリーが収録されている”ジュエルボックスコレクションディスク”が収録されている作品全ての鍵となっているが、私の環境ではうまく動作せずプロテクトに阻まれてしまった為、これに関する回避方法も記しておく。

この問題は戯画が解散する上で容易に想像できる結果だったようで、解散間際に戯画はプロテクトを解除した作品ごとの実行ファイルそのものを配布しており、そちらを使用する事で容易に回避する事が可能となっている。
私の場合はこうなることを予想し事前にファイルを確保していたので苦労する事は無かったが、今現在それを新たに入手するとなると、非常に苦労させられる可能性が高い。
私が探した限りでは、かなり以前からインターネット上のデータをアーカイブしているサイトにかろうじて残っていた程度で、その他には存在していないようでした。
ただしこのサイトも絶対に安全という訳ではなく、トロイの木馬等が仕込まれている場合が稀にある為、こちらから入手される方はこの点を留意頂きたい。
以下に直リンクを載せるが、ご利用は自己責任でお願いいたします。
https://web.archive.org/web/20230330054617/http://caras.rassyai.com/~giga/support/down/Royalsweet.zip

なお戯画恒例のF9キーは本作品でも健在。










・総評

素晴らしい作品なので、まだプレイされていない方は迷わずプレイされる事をお勧め致します。
システム面での不安に関してはシステムの項目をご覧ください。