プレイ時間は少々物足りないが、しっかりとしたテーマ性が感じられ、読み応えのある素晴らしい作品でした。長台詞が多い作品でしたが非常に聴き取りやすく、またこれ以上ないほどに配役に合った方々が担当されていたので思いのほか読み進めやすかった。
・シナリオ
プレイ時間は15時間と物足りないが、重い内容や作風を考えるとこのぐらいが丁度よい塩梅のだったのかもしれない。
ライターが瀬戸口廉也という事でプレイ前から非常に高い期待を胸に抱いていたが、期待を裏切らない素晴らしいシナリオでした。
直近の前作といえば「BLACK SHEEP TOWN」ですが、あちらにも引けを取らない良い作品となっている。
本作でも主人公が2名存在し、視点が交互に行き来する点は同じだが、前作ほど頻繁な物ではなくこの点では本作の方が優れており、また非常に優れた配役の音声が付いている。
ただしその分プレイ時間は短くなっており前作の32時間に対して本作は15時間と半分以下となっている為、作風に合っているかどうかを抜きにするとコストパフォーマンスは悪い。
単純に比較するとプレイ時間の短さが大きな欠点のように感じられるが、冒頭でも述べたように作風を加味すればこのプレイ時間に問題がある訳ではないので、評価としてはほぼ同等のものとなるでしょう。
テキストは相変わらず小難しい話が多いにもかかわらず非常に読み易い点は変わらず、それでいて読み応えもある。
体感としては別ライター作品の「信天翁航海録」から強すぎる癖を抜き、読み応えはそのままに読み易さが大幅に改善された文章のように感じられた。
また主人公が2名存在する作品の場合、よくある問題点としてどちらか片方の主人公を気に入ってしまい、もう片方の主人公に愛着が持てずその影響で該当する主人公のシナリオが退屈に感じられてしまうといった問題点も本作には存在しない。
好感が持てる良い人物として主人公がそれぞれ描かれており、全く異なる立場の視点から風爛症という問題に真摯に向き合う様が非常に良く描けている。
登場する人物は女性よりも男性の方が圧倒的に多く、これまでのノベル作品とは一線を画す構成となっている。
作風を考えるならばこの構成以外には考えられず、以前からエロゲや美少女ゲームに深いシナリオを求めるのは間違いなのでは?というジレンマに陥っていた私には、まさに長年探し求めていた素晴らしい構成と言えるでしょう。
この点を非常に高く評価しています。
ただしこの一種冒険的ともいえる試みは、瀬戸口廉也というしっかりとした力量のあるライターあってこそという側面が非常に強い為、中々に真似をできるものではないでしょう。
最後に、本作は短い作品ながらも選択肢は多めとなっており、それによって結末や細かい展開の違い等が発生する。
注意点として、”誠也の部屋”という攻略サイトの攻略チャートでは幾つかの印象的なENDや中間の未読文章が省かれた最低限のチャートとなっている為、本作品をしっかりと味わいたいのであれば、”ポンコツゲーマーのプレイ記録”というサイトの攻略チャートを利用される事をお勧めする。
・絵や背景
いわゆる2次元的な要素は微塵もなく、現実に近い画風となっているが、本作の作風にはこれがよく合っている。
イベントCGの枚数は必要最低限となっており、立ち絵を省いた画面一杯に文章が展開される懐かしい作りとなっているが、この点にも違和感を覚える事は無かった。
・声
男性配役が充実しており、そのどれもがこれ以上ないほどに役柄に合っている。
特に本作では長台詞が多く、その内容も小難しいものが多いのも相まって、私としては珍しく最後まで音声の再生を待つほどの良い配役と演技力でした。
・音楽
平均よりも少し上といった印象。
シナリオが非常に良かっただけに、この点が少し力不足であったことが悔やまれる。
・システム
全画面化やマスターボリューム等の最低限のシステムは備わっているが一部不満点も存在する。
以下に不満点を記す。
前回もそうだったが、フォントサイズが小さすぎる。
フォントそのものも明朝体でより細くなってしまっている為、ディスプレイから離れた位置からプレイする事の多い私には非常に読み難いシステムでした。
作品の性質上、フォントを小説と同様に明朝体とする方向性は問題ないが、小説とは異なり背景が存在する形式である事を加味した可視性を考慮してほしかった。
この点に関しては最低限、フォントをゴシック体に変更可となっているが、フォントサイズそのものが小さすぎる為効果は薄い。
また上記のフォントサイズの件と同程度に不便に感じたのが、テンキー側のEnterキーでは改行できないという点でした。
どちらもUnityベースの作品ではよくある欠点だが、いつまでたっても改善される気配がない。
この辺りが改善されないのであれば、Unityという媒体はノベル形式の作品には致命的と言ってよいほどに合っていないように思われる。
最後のこれに関しては実害はなかったが、配役の多い作品であるにもかかわらず個別音声の音量調整が出来ないという点も気になった。
・総評
しっかりとした読み応えのあるシナリオと、それを台無しにしない作風に合った画風が上手く合わさった非常に珍しい作品と言えるでしょう。
システムとBGMが若干足を引っ張ってしまっているが、まさに私の求めていた素晴らしい作品でした。
私のようにこういった作品にシナリオを求めているのであれば、迷わず購入される事を強くお勧めいたします。