プレイ時間は短いが濃縮された内容となっており、テキストも読み易く非常に面白い。テンポや緩急に絶妙なものがあり、設定も他には無い個性の強いものとなっている。時間を忘れてプレイ出来る素晴らしい作品でした。BGMの選曲も非常に良い。
・シナリオ
プレイ時間は正確には13時間と30分となっており、短めの作品となっている。
テキストは極力長文を排した短文の連続する物となっており、非常に読み進めやすいものとなっている。
小説とは真逆の構成なので、そういった物を苦手とする方でも問題なく読み進めることが出来るでしょう。
前半はコメディ色が強く、面白いと感じられる個所が随所に存在する。
いわゆるパロディネタや時事ネタに頼ることなく、単純に物言いや演出が面白いのでパロディ面での完成度は高い。
最初の選択肢を選ぶ場面にもギミックが仕込まれており、これが非常に良い味を出している。
主人公や登場する人物の設定が特に目を引くものとなっており、上記のものと合わせプレイ開始序盤から強く作品に引き込まれた。
後半はシナリオゲーとしての側面が強くなり、これまでに散りばめられていた謎や特異な設定といった物の辻褄が急速にあってゆく形となっている。
この行程も非常に完成度の高いものとなっている。
適度に散りばめられた謎や伏線、そして何気ない日常会話の一部としか思えていなかったものまでが後半には意味を持ってくるその様は圧巻というほかない。
全体的なテンポも丁度よい塩梅となっており、上記の謎や伏線といった物が置き去りにされることなく適度な間をもって開示される作りであり、作品を読み進める上での適度な刺激となっている。
作品によっては謎や伏線を長く放置し過ぎてしまい、腐ってしまうものも多いが、本作品にそういった要素は皆無となっている。
全て鮮度を保ったままそういった要素が生かされている。
攻略対象は1名と非常に少ないが、その他の立ち絵と声ありの登場人物は4名と充実しており、またその登場頻度も必要十分なものが用意されている。
どれも個性豊かに描かれており、読み進めてゆく毎に輪が広がってゆく構成は退屈さを感じさせにくい良い手法であると感じた。
シナリオ面では総じて商業作品でも中々お目にかかれない素晴らしい出来となっていると言えるでしょう。
・絵や背景
背景は実写をフィルターで加工したものとなっている。
手間が掛かっているとは言い難いが、同人作品では真っ先に予算を削られる個所なので致し方なし。
私個人としてはこういった実写背景は好きなので、この点に関して不満を覚える事は無かった。
絵については最低限といった物となっている。
CG枚数も極限まで切り詰めたものとなっており、非常に少ない。
絵柄に関しても可愛らしさが求められるキャラゲーではないのでこれで問題ないとは言え、もう少し魅力の感じられる物であった方が良かったように思われる。
立ち絵からしてかなりデフォルメ寄りの絵柄となっており、背景から浮いてしまっているような違和感をプレイ当初は強く抱いた。
プレイしていると自然と慣れる程度の違和感だが、絵柄か塗りのどちらかで良いのでもう少し背景に合わせた方が良かったように思われる。
・声
演技には少々つたない部分が散見されるが、声質は役柄に非常に良く合っている。
声優業界は非常に狭き門だと常々伺ってはいたが、これ程の声質を持つ方々が在野にはあふれているのだとすれば、それも頷ける。
そういった物を改めて実感させられる配役でもありました。
作者のあとがきによると当初は音声を付ける予定は無かったとの事だが、音声が付いていなかった場合はもう少し採点が厳しくなっていたことを考えると、付けたことは間違いなく正解であったように思われる。
ネタバレとなるので詳細は伏せるが、物語後半のギミックにも大きくかかわってくる要素なので、声がついたことでそのギミックがより一層活かされていた点を鑑みると、より一層そう思われてならない。
なお私個人としては音声がついていなくとも普段は特段気にしないが、上記の理由により本作品では音声のついていない状態では非常に勿体ないと判断した為、この様な形で評価している。
音声のついていない状態にはそれはそれで良い側面もあるという事は十分理解しているつもりです。
・音楽
ほぼ全てフリー音源でまかなわれているが、高い品質のものが揃っている。
採用されているサイトは多岐に渡っており、クリア後に開示されるクレジットにてサイト名のみ記載されている。
FLASH全盛期の時代、こういった個人サイトのmidi音源を漁っていた若かりし頃を思い起こさせる懐かしさを感じさせるサイトが多い。
フリー音源という理由から当然ではあるが音楽鑑賞機能は備わっておらず、またクレジットにはサイト名のみで曲名が記されていない為、感想を述べる上で非常に苦労させられた。
何故曲名を伏せているのかは不明だが、この点に関しては強く落胆しています。
以下に苦労して見つけ出した曲名を、お気に入りのみサイトURLと共に記す。
お気に入りのBGM
・火祭(かっさい)のテーマ
https://flower-prayer.com/wp-content/uploads/kassai.mp3
・つないだ手
https://ontama-m.com/midi/data/mp3_file/original/ontama_piano2_tsunaidate.mp3
・【BGM】33 黒い雨と青の情景
https://lushvalley-sound.com/1603/
・不明
最後の1曲に関しては、残念ながら私には発見することが出来ませんでした。
シリアスな場面で流れる曲なので、もしもお心当たりのある方はご教示願えますと幸いです。
その他に発見した物をサイト名毎に以下に纏めておきます。
なおCREDITに曲名まで記載されている3曲に関しては省きます。
・BGMの葉っぱ
・In the lake side
・Ramine
・southern cross
・ユーフルカ
・【日常】お嬢様の優雅な一日
・【ホラーBGM】振り向いてはいけない
・【メインテーマ】砂塵舞う荒野の花
・君の音。
・今日は曇り、
・眩い朝のこと
・火の棲む処に
・dova
・Sensory Nerve
・HURTRECORD
・萌葱色のワルツ
・369
・Marching orders
・myuu
・モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
・OtoLogic
・空白と静寂
・こんとどぅふぇ
・小人のダンス
・音楽の卵
・みずいろ
・てのひら
・SOUND AIRYLUVS
・Yours
・audiostock
・No.72102 幻想的なSoundtrack
・No.235082 サンジェルマンを楽しく散策
・No.829777 【YouTube】おしゃれなアコギの日常
未発見曲は7曲。
・システム
同人作品であるという事を差し引いても、良い出来とは言えない。
全画面化には問題ないが、その他の機能は必要最低限以下となっている。
全体音量管理不可、Alt+F4やAlt+Enterといった基本的なショートカットキー使用不可、バックログのスクロール量がOS設定に依存、一部ページでは右クリックによるバック不可等の問題が存在する。
その他にも細かい問題は多々あるが、作品を読み進めていくうえで大きな障害となる部分は上記のものとなる。
全画面化にも一部不備があり、タイトルへ戻ると全画面化が解除されてしまう不具合が存在する。
ショートカットキーに関しては基本中の基本とも言うべきものがほぼ動作しない中、何故かAlt+Space+Nによる最小化は全画面化状態でも有効であったりと不可思議な動作をする。
・総評
シナリオ面での出来は非常に素晴らしい作品でした。
bgmもフリー音源ながら非常に良い物が揃っている。
同人作品という事で知名度が今一つとなっているようですが、シナリオゲーが好きならば迷わず購入されることを強くお勧め致します。