分割作品である為か特に盛り上がる場面もなく、淡々と前作同様の物が続くだけの作品。
・シナリオ
プレイ時間は16時間と予想よりは長めだが、ブランドの性質を鑑みれば物足りなさを強く感じる。
確かに前作は長すぎるという指摘もあったが、私個人としては長いが安定してそこそこのものを長く楽しめるという利点を評価していた口なので、このプレイ時間には落胆させられた。
正確にはプレイ時間というよりも分割商法という点について落胆させられたといった方が正しいか。
シナリオとしては、前作や過去作品同様の読みやすいテキストが主体となっており、作風は前作の物がそのまま続いていると思ってもらってよい。
ただし予算削減の為か、前作からの登場人物は大幅に制限されており、テキストで名前のみが挙がるだけでボイス収録の無い人物が多すぎる。
登場人物の多さが作品の大きな特徴でもあっただけに、この最大の特徴が殺されてしまっている点には不満が残る。
また分割作品でもあるため、特に大きな山場を超えるような事もなく淡々と物語が進行するため、前作同様に読後の余韻に残るようなものが皆無であったという点も残念でした。
幕間劇に関しても前作は明らかに多すぎたが、本作品では逆に少なすぎる。
ただ濡れ場を消化するだけの場と化しており、濡れ場の無い幕間劇は片手で数えられてしまうほど少ない。
これでは合間に日常場面を挿入し、それによってキャラクターを掘り下げるという重要な役割を全う出来ていない。
この調子で第二、第三の分割作品を制作するのであれば、それを一纏めにした作品を発売したとしても本作品の評価と大差ないものとなるでしょう。
それとこれは厳密にはシナリオの項目で言及すべきではないかもしれないが、鮭の読みが統一されていない点が気になった。
登場人物によって”しゃけ”や”さけ”となっており、確かにどちらも間違いではなく人によって呼び方が異なるというのは自然な事ではあるが、これが連続する会話のやり取りの中で入り乱れるというのはさすがに異常では。
別々に収録しているからこその弊害と言えるが、その辺りは収録を指揮する側がしっかりと工夫してしかるべき箇所かと。
・絵
SD絵は非常に素晴らしい。
特に食事シーンのコメディ要素の強い表情は、このブランドの作品を読んでいて初めて笑ってしまった場面かもしれない。
通常の絵は前作と比較すると絵柄の変化なのか、非常に違和感のあるものとなってしまっている。
なまじ立ち絵は前作の物を流用しているだけにこのイベントCGでの変化が顕著に現れており、前作に寄せられていないというのは致命的。
濡れ場のCGでは塗りにも問題があるのか、全体的に骨格ばかりが浮き出た歪なものとなってしまっている。
足の付け根などはデッサン人形をそのまま模写でもしたのかという言いたくなるような描かれ方をしているものもあり、これには辟易とさせられた。
その他にも一部濡れ場CGでは顔すら別人のようになってしまっている。
・声
佐竹鳳蝶義重演じる北大路ゆきの透き通るような声質は素晴らしく、片倉喜重景綱演じる明羽杏子も相変わらず非常に良い声質をしている。
ただし織田久遠信長演じる森永有栖のみ、前作と比較して声質に違和感を覚えた。
演技を忘れてしまっているのか、当時の声を再現できなくなってしまったのか定かではないが、声が低くなり過ぎている。
・音楽
新規楽曲はボーカル曲であるOP、ED、挿入歌の3曲のみ。
そのうち挿入歌は「戦国†恋姫X」のEDのリミックスバージョンとなる。
全て可もなく不可もなく。
・システム
前作とほぼ同じだが、バックログからのシーンジャンプ機能のみ新規実装されており、この点には改善が見られたため満足しています。
ただ残念ながら前作で不便だと感じたテキストの表示速度や幕間劇での操作性は改善されておらず、手放しで褒められるほどではない。
幕間劇はキーボードの上下キーで選択を変更出来る改善が見られ、またマウスカーソルの自動移動も”はい”や”いいえ”の選択可となっている点は素晴らしいが、やはり最後の決定ではマウスカーソルを物理的に該当する場所へ添えておかなければEnterキーによる決定がなされないという惜しい仕様となっている。
理想としてはやはり全てキーボードのみで操作可能とする形にあるため、あと一歩というところか。
また前作の批評では書き忘れていたが、音量テスト機能が存在しないのも地味に不便な点となる。
個別音声には存在するが、効果音や全体音声の項目にも欲しいところ。
解像度が大きくなった関係でフォントサイズが小さくなってしまっている点は非常に残念でした。
幸いにもフォントは変更可能となっているため、ある程度は改善可能となってはいるが、それでもやはり小さすぎる。
読み易さというのは作品をプレイする上で非常に重要な要素となってくるため、この点は改善されることを強く望む。
参考までに苦肉の策として変更したこちらのフォント設定を記す。
BIZ UDゴシック 縁取り、影のみON
こういった場合によく使用するHGゴシックEでは画数の多い漢字の場合潰れてしまいがちとなる為、今回は不使用。
Enterキーを押しっぱなしとすると未読スキップと同様の処理となってしまう点にも不満が残る。
誤って長く押しすぎた際にも反応してしまうため、この機能は選べるようにしていただきたい。
最後に、これは前作からの仕様ではあるが、デフォルトではスクリーンセーバーの抑制が有効となっている為、スクリーンセーバーはおろかディスプレイの電源を切るといった部分まで抑制されてしまう。
これは起動前の環境設定にて無効とする事が可能であるため、気になる方は変更しておくことをお勧め致します。
・総評
ここまで欠点ばかりあげつらってきたが、前作が好きなのであればその延長線上として楽しめることは間違いないので、購入してみてもよいかもしれない。
ただし3分割された内の1つであるため、強い思い入れでも無い限り、全て出そろった後に発売される完全版を購入されたほうが良いかと思われる。
特に最後に発売される予定の完全版では追加要素も存在すると明記されているため、なるべく安く済ませたい場合には断然そちらのほうがお得となるでしょう。