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boningenさんの終のステラの長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
終のステラ
ブランド
Key
得点
90
参照数
194

一言コメント

短い点を除けば素晴らしい作品でした。全体的に緊張感のある殺伐とした場面が連続し、プレイ時間以上にテンポ良く物語が進むため、中弛みとは無縁の代物となっている。

長文感想



・シナリオ

プレイ時間は8時間と値段相応ではあるが、やはり短い。
特に作品の世界観や展開は十分に大作たりえるものであり、むしろ尺を用意した上でじっくりと描いた方が良かったと思えるものの方が多い。
とはいえ短すぎるからと不完全なものに成り下がっているという事は一切なく、短いながらもよく纏められており、非常に良い作品となっている。
プレイ時間が10時間未満となる短い作品にこれほどの高得点を付ける未来が来るとは、思いもよりませんでした。

この短さに対する不満は、良かったからこその、そして物語の性質から短くする必要性を感じないが故の思いとなる。
「夏ノ終熄」のように短いことに意味を持たせることが出来ていれば、この様な不満を感じることもなかったが、あの様な特殊な例と比較するのは酷というものか。

内容としては文明の崩壊しかけた殺伐とした未来が舞台となっており、街の外では銃を携帯していなければならない程の危険地帯と化している。
この殺伐とした環境に生きる男性が主人公となっており、現実主義者で合理性を好む見た目以上に成熟した男性だと感じた。
私自身は主人公に自己を投影するような感情移入をする事はないが、しっかりとした自己のある主人公が登場する作品を好む傾向が強い為、そういった意味でも非常に楽しむことが出来た。

テキストは読み易く、田中ロミオにしては珍しくテーマ性も「最果てのイマ」や「CROSS†CHANNEL」とは異なり単純明快なものとなっているが、薄い訳ではなくしっかりとしたテーマを感じられた。
またその描き方も非常に良い。

テンポは早すぎるきらいがあり、よりじっくりと二人の関係性を描くべきであったように思われる。
必要最低限の物に収められており、本来なら描けていたであろう場面がいくつも抜け落ちているように感じられた。
大作に相応しい尺さえ用意出来ていれば、更に高い得点をつけられていたと思うと実に惜しい。
本作品の唯一の欠点といえるでしょう。

複数の類似点がある事から、「planetarian」に似た系統と言えるかもしれない。
この種の作品は非常に私の好みとするものであったので、またこういった作品が世に出たことを非常に嬉しく思っています。
内容もさることながら、世界観や雰囲気は素晴らしく良い。
短いという欠点を除けば非常に素晴らしい作品である為、どうか今後もこういった作品を世に送り出してほしいと強く願う。

また同ブランドが直近で発売した「LUNARiA」と比較すると、全ての面において本作品が上回っている。
あちらの作品も悪い出来ではないが、本作品と比較すると全てが薄く感じられる。





・絵や背景

どちらも非常に良くできている。
独特な塗り方となっているが、作風にはよく合っている。





・声

配役の数そのものは少ないが声質と配役はよく合っている。
特に主人公がフルボイスとなっている点を高く評価しています。





・音楽

作風にはよく合っているが、出来そのものは平均的。





・システム

必須とされる機能は一通り揃っており、不便に感じられる箇所はほとんど存在しない。

一点だけ残念であったのはウィンドウモードでは文字の色が薄くなり、輪郭もぼやけてしまうという点となる。
1920x1080の解像度で全画面化すると明瞭になる為、小さな画面でプレイすることを前提としていないシステムだと感じた。
基本的には全画面化した上でプレイする為、ほとんどプレイに支障をきたす事は無いが、あまり見ないタイプの問題であったため、記憶に残っている。









・総評

短いという一点を除けば素晴らしい作品と言えるでしょう。
ただしその短さは良い作品だからこその不満という側面が強く、本作品そのものの出来が決して悪い訳ではない。
いわゆる高望みとでも言うべき評価である為、本心としてはより長くした物を望んではいるが、それが難しいようであれば短い作品でも素晴らしいものを生み出してくれた事にこそ感謝すべきかもしれない。

少なくとも発売される見通しの薄い長編よりは、確実に発売される短編の方が遥かに良い。

どちらにせよ、非常に素晴らしい作品なので、多少なりと興味を惹かれたようならば迷わず購入されることを強くお勧め致します。