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boningenさんのLUNARiA -Virtualized Moonchild-の長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
LUNARiA -Virtualized Moonchild-
ブランド
Key
得点
80
参照数
144

一言コメント

短いなりにコンパクトに収まっており手軽に楽しむ事の出来る面白い作品でした。レース要素は突っ込み所が多いのでおまけのような物と捉えた方が良いでしょう。

長文感想

・シナリオ

プレイ時間は6時間となっており、2000円という値段を加味したとしても短い。
短いので当たり前ではあるが、テンポそのものは悪くしようがないため中弛みとは無縁でした。

シナリオとしては久しぶりに近未来かつレース物となっており、往年の名作である「CANNONBALL」や「フェイクアズール・アーコロジー」を想起させるが、これらと比較するとレース部分は非常にお粗末なものと言わざるを得ないのが残念なところ。

ポールポジションやサイドバイサイドといった単語が出てくるとF1が脳裏をちらつくのだが、ルールもマシンレギュレーションも全く異なるものとなっており粗ばかりが目立ってしまう。
何よりも仮想世界というネット上のみのレースというのが、やはり命のやり取りという緊迫感に欠ける最たる原因なのだと思われる。
仮想といえば「BALDRシリーズ」だが、あちらは電脳へのダメージによって死に至る可能性があるため緊迫感を維持できているが、こちらにはそういった要素が皆無となっている。
仮想とはいえやはり何かしらスリルを感じる要素が欲しかった。
これではFormula1 Eスポーツと何ら変わらない。

とまあこの様にレース要素に関してはお粗末なので期待しない方が良いが、その他のシナリオ部分に関しては満足しています。
プロットは非常に面白く、実際のテキストも余計なものをいれずシンプルにそれを作品に落とし込めている。
ライトノベル作家がシナリオライターを務めるとのことで少々心配していたが、ある程度はこの媒体に合わせた物となれていたように思う。
ただ一部ライトノベル特有なのか、主人公の前で明け透けに好意を感じさせる言動があったにも関わらず、それを一切主人公が理解できていないという場面が存在するのには違和感を覚えた。
一昔前の鈍感系主人公そのものであり、自意識過剰を抜きにしたとしても、あれを理解できないのでは少々頭の構造を疑いたくなってしまう。
これはライトノベルというよりも美少女ゲームという媒体を悪い意味でライターが解釈しているように思われてならない。

その他にもメインヒロインが所々で兎を連想させる鳴き声や擬音を台詞に混ぜてくるのにも当初は辟易とさせられたが、これには一定の納得はしています。





・絵

基本かわいらしい絵柄ではあるが、一部立ち絵の表情等に構図の乱れが見られた。
またレース中等の緊迫した場面であるにもかかわらず主人公の表情は緊迫感の欠ける物となっているものがほぼ全てとなっているのも非常に残念でした。

背景は非常に良く出来ている。





・声

主人公にも声がついており、聞き取りやすいよう音量も大きめに設定されているのは素晴らしい。

また百々咲こん演じる若井友希の声質は素晴らしく良かった。
山岡ゆりの声質に近いものがあり、あちらの尖り過ぎている部分を少しだけマイルドにしたような塩梅となっている。






・音楽

作品の雰囲気にはよくあっているが、可もなく不可もなくといったBGMが多い。
ボーカル曲も3曲と作品の規模にしては破格の量となっているが、これら3曲の出来は良くない。
特にEDは作品の出来に対して全くといってよいほど釣り合っていない為、飛ばせないEDクレジットという演出とも相まって非常に残念に感じられた。

お気に入りのBGM
 ・SUNSET SEA
この曲は非常に良く出来ている。





・システム

基本的に必要とされる機能は全て揃っており、使いやすいシステムとなっている。

唯一の欠点は、プレイ中たまに画面右側に青いテロップのようなものでチャット演出がなされるのだが、その文字が読み辛い点ぐらいか。
もう少し大きく表示するか、見やすい色へ変更してもらいたい。













・総評

短いながらも安定して面白い作品。
ブランドに恥じない良い作品でした。

ただやはり個人的にはフルプライスの長編こそを求めているので、現状に満足されてしまわないか、その一点だけに不安が残る。