素晴らしい作品でした。展開に少々強引な部分があり、ぬきたし程の燃える展開が薄いのは玉に瑕だが、それを補って余りあるほどにその他のシナリオ面は非常によく出来ていました。
・シナリオ
プレイ時間は60時間と圧倒的な文章量を誇っているにも拘らず、読み終えてしまうのが惜しいと強く感じられる稀有な作品でした。
ちなみにこのプレイ時間は濡れ場を可能な限り読み飛ばしたうえでの数値となる。
シナリオ面ではこれまでの過去作品と同様にメッセージ性の強い作品となっており、非常に考えさせられる内容でもありました。
それでいてテキストも非常に読みやすくテンポも丁度よいため、中弛みとは無縁の代物となっている。
特に掛け合いでは過去作品同様に非常に面白いものが多く、過去作がまぐれ当たりではないということを強く感じさせる出来でした。
パロディネタがほとんど全てわからない私でも面白いと感じられたので、そういった部分に疎い方でも楽しむことができるでしょう。
前作で唯一不足していた味のある男友達もしっかりと用意されている上、その他の立ち絵と声ありのサブの量に至っては圧倒的に増えている。
作風も過去作の常夏を前面に出したカラフルな物とは真逆の年中日の当たらない薄暗い監獄が主体となっており、そのどちらでも成功しているというのだから驚くほかない。
過去作は設定が奇抜過ぎてエロゲーという媒体に慣れている方以外には勧めにくいという欠点が存在したが、本作品ではそういった部分も適度に奇抜な設定に留まっているため、人に勧めやすい形へと変化した点も大きな進歩と言える。
突飛な淫語が飛び交うことも無く、日常的にBGVで喘ぎ声が流れるということもないため、スピーカーでプレイすることも可能となっている。
このように過去作品で足りていなかった部分がしっかりと改善されている辺りは素晴らしい姿勢だと言えよう。
これが出来ずいつまでも欠点を抱えたままズルズルと作品をリリースし続け評価を失っていったメーカーのなんと多いことか。
中にはそれが特徴と揶揄されるメーカーまで存在する始末であるため、しっかりと改善されるケースは珍しい。
一応は本作品のみで完結している物語なので、本作品からいきなりプレイされても支障はないが、過去作品のぬきたしと繋がっている部分がそこかしこにあるため、作品を十全に楽しみたいのであれば、「抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?」を事前にプレイしておくことをお勧めいたします。
非の打ちどころのない素晴らしい作品であるため、粗を探すほうが難しいのだが、強いて欠点を上げるとするならば物語後半の流れが少々強引に感じられてしまった点や、前作のような熱く燃える展開が少々薄かったように感じられる点となる。
ただその欠点を補って余りあるほどにその他のシナリオが素晴らしいため、この部分まで求めるのは酷というものかもしれない。
またこれは粗ではないが、これだけの長さの作品なのだから、物語の転換時にはセカンドOPを用意してほしかったようにも思う。
本来であれば作風そのものが変わるほどの転換時に使用されてこその物だが、これだけ長く、また素晴らしい作品であるならばしっかりとしたセカンドOPで更に盛り上げたほうが良かったように思われる。
最後に、前作のぬきたし同様に本作品でも公式ツイッターやyoutubeにてボツシナリオの公開が行われているので、是非とも視聴しておくことをお勧めする。
カウントダウンムービーも存在し、特に3日前のものはプレイ前に視聴しておくことを強くお勧めいたします。
・絵や背景
原画陣は過去作品から変化していないが、作風に合った塗りとなっているので違和感を感じるようなことはなかった。
背景は非常によくできており、過去作品から順当に進歩しているという印象を受けた。
ただし後半は少々無理のあるイベントCGの使いまわしが見られた為、その点のみ残念に感じられた。
・声
シナリオの次に評価している点。
文句のつけようのない素晴らしい配役となっている。
ヒロイン勢の中でのお気に入りは紅林ノア演じる文月弌。
別名義なのか、これがデビュー作なのかは判然としないが、どちらにせよこの業界でもっと多くの作品に参加していただけると非常に嬉しく思う。
波多江妙花演じる桜舞じゅりあも良い声質をしていたが、少々組長のドスにしては迫力に欠けていたようにも思われるためお気に入りに載ることはなかった。
院出華真衣と非常に近い声質となっている。
サブ勢では以下の三名がお気に入りの声質となる。
・上履きの妖精演じる双葉愛子
・山岸姫瑠演じる夏樹柑菜
・逆茂木真城演じるこぐま朱音
最後に最も評価している配役として、櫛森日和子演じる犬神ひなたが挙げられる。
これは声質が好みというわけではないのだが、演技や声質がこれ以上ないほどに役柄に合っていた。
次点で役柄に合っていた声質と演技は我妻樹里亜演じるみたかりんと釘谷譲二演じる松濤エルザとなる。
・音楽
唯一残念だった点。
作風にはよく合っていたが、過去作品のように素晴らしいBGMというものが無かった。
シナリオが素晴らしく良かっただけに、それをより引き立てることのかなわなかった音楽面が非常に悔やまれてならない。
・システム
残念ながらあまり良くはない。
過去作品と比較すると劣っているとすら言える。
まずは改善されていた部分を記す。
解像度を1600x900に設定していると過去作品ではcpu使用率が高くなってしまっていたが、本作品では問題なし。
バックログにジャンプ機能が追加されていたのは素晴らしい。
音量設定の初期値が素晴らしく丁度よい。
一切手を加える必要が無かったのは本作品が初めてでした。
基本的にはほぼ全ての作品でまずは全体音量やBGMを下げるところから始まるのだが、それが不要であったというのは驚きでした。
次に残念に感じた点を記す。
過去作品でも全画面に難があったが、本作品では更に酷くなっている。
念のため過去作品での全画面に関する欠点を記すと、全画面化している最中に別のディスプレイの画面をクリックすると最小化してしまうといったものでした。
その他にもAlt+Tabキーを押すと表示される起動アプリ一覧にて過去作品の位置が左上に固定されてしまうといった問題も存在したが、この問題のみwindows10となった現在のPCでは発生しないためwindows7特有の問題か、私のPC特有の問題だったのかもしれません。
肝心の本作品の全画面に関してですが、全画面外のサブディスプレイをクリックしても最小化されなくなったのは良いが、その代わりに全画面化すると強制最前面となり、Alt+Tabキーによる裏画面への移動が不可となっている。
裏画面に移動するには一度全画面を解除するほかなく、これは致命的な問題と言える。
更に本作品を再起動すると変更したはずの画面サイズや設定がおかしなことになることがある。
このおかしな挙動の詳細としては、画面をAlt+Enterキーのショートカットのみで全画面やウィンドウモードへ切り替えていると再起動時の挙動に必ず異常が出るというものとなる。
設定画面にて変更した場合のみ再起動しても挙動が乱れないようだが、欠陥にも程がある。
症状の具体例を以下に記す。
Alt+Enterで全画面とした場合に再起動すると、ウィンドウモードで起動してしまう上に解像度が1920x1080へ変更されてしまう。
逆に全画面からウィンドウモードへ変更した状態で再起動をすると、今度は全画面の状態で固定されてしまう。
過去作品で指摘していた個別音量設定画面にテストボタンが存在しない点も改善されておらず、非常に残念です。
その他に過去作品と比較しない残念な点としては、タイトル画面に遷移時、”NEWGAME”や”LOAD”といったアイコンにカーソルを合わせてもすぐには反応せず、いったんマウスカーソルを対象から離さなければ反応しないという地味に不便に感じる箇所も存在する。
また本作品では過去作品以上に掛け合いの最中にメッセージウィンドウには表示されない後ろの部分で別の人物が会話や発言をする場面が非常に多いのだが、メインのメッセージウィンドウ側で音声付きの台詞が流れていても関係なくそれに被せて再生されることが多々あり、音量も裏側ということで相応に小さくなっているため非常に聴き取りづらいという問題点が存在する。
幸いバックログにもこの後ろの会話は残るため、そちらから確認することで補完可能だが、毎度これが発生する度にバックログで確認する羽目に陥ったため、作品のテンポを著しく害してしまっている。
こういったギミックそのものは素晴らしいと思うのだが、会話文をトリガーにするのは辞めていただきたい。
地の文をトリガーにしたほうが良かったのでは。
マウスカーソルも消えることがないため理想としては5秒もしくは10秒後に消えるよう設定変更可だとなおよし。
一度のEnterやホイールスクロールでは次の文章へ移行しない事が多々あり、せっかくのテンポを阻害してしまっている。
おそらく台詞の途中で表情差分や立ち絵差分が変化する場合、その度につっかえているのだろうが、不便で仕方がない。
また便利ではあるが先々の事を考えると問題のありそうな点として、アップデート機能があげられる。
公式サイトから探してくる手間は省けるが、現状ではアップデートの手段がこれ以外に存在しないため、アップデートサーバーのサービスが終了した後の為に公式サイト側にも修正パッチを用意しておいてもらいたいと強く願う。
・総評
改めて振り返ってみると、過去作品よりも音楽とシステムで劣っており、単純比較するならば過去作品と同等かそれ以下の評価となりそうだが、シナリオがそれを覆すほどの素晴らしい出来でした。
数少ない手放しでほめられる素晴らしい傑作と言えるでしょう。
もしも多少なりと興味を惹かれたのであれば、是非ともプレイされることを強くお勧めいたします。