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boningenさんのガラス姫と鏡の従者の長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
ガラス姫と鏡の従者
ブランド
戯画
得点
50
参照数
647

一言コメント

地雷という程ではないが面白いと感じられる瞬間は一度も訪れなかった。システムも一部難あり。OP曲は完全にバーチャルYouTuberに汚染されており、一部配役にも食い込んでくる始末。シナリオ以上にその他の酷さが目立つ。

長文感想

・シナリオ

プレイ時間は28時間と平均的だが、内容そのものに魅力が感じられなかったので全て読み終えるのに苦労させられた印象しか残っていない。

主人公の性格は考えの定まっていない子供のような甘い部分が多く、その行動には一貫性の感じられない部分が目立つ。
生理的に受け付けないという程ではないが、最後まで好感を覚える事は無かった。

文章そのものは読みやすく癖のないものとなっている。
共通パートと個別パートの配分も平均的なものとなっており、選択肢も平易なものとなっている点は良い。
内容そのものに関してはキャラゲーではなくシナリオゲーを目指しているようで、個別パートに突入すると物語が動き出す形となっているが、残念ながらシナリオゲーに必須となる物語性や謎といった部分の作りは甘い。
主人公もルート毎に活躍をする場面は用意されているが、なぜそういった活躍をする事が可能になったのかといった理由付けが弱いせいで今一つ盛り上がらない。
描かれているのは特訓をしたから強くなった、勉強をしたから成績が上がったという風にしごく単純なものに纏められてしまっており、その過程が何一つとして具体的に描かれていないのは大きな減点要素といえる。

詳細は音楽や声の項目で記すが、シナリオには一切関係のないバーチャルYoutuberがOPや声優に噛んでいる点にも疑問が残る。
選ばれるだけの実力を備えているのであれば文句は無いが、この実力が大きく欠けているのだから不思議でならない。
ここ最近の戯画は何故かバーチャルYoutuberを厚遇しているようなので、本作品でも予想通りの惨状ではあるが、それにしても酷い。
声優として配役されているものは新人特有の物だと思えばまだ我慢もできようが、OPに関しては許容値を大幅に超える酷いものとなっている。
戯画というブランド全体でごり押しているのか、一部の人間の手によって強引にキャスティングされているのかは不明だが、今後戯画の作品を検討するうえで戯画マイン以上にこの要素を確認する事が重要となってくるのではないかと思われる。
どちらにせよ今後はこれまで以上に警戒した方がよさそうです。

単純なキャラゲーではなくシナリオゲーを目指す気概だけは評価できるが、結果が伴っていないのでは意味がない。
シナリオ以外の要素も噛み合っていない部分や明らかに足を引っ張ってしまっている部分が多く、シナリオの弱い部分を補えていないという点でも低い評価となってしまっている大きな要因と言えるでしょう。

なお本作品の舞台設定は12月がメインとなっているが、1月29日という発売日とはどうにも合致していないような印象を受ける。
最低でも12月に発売するか、理想でいえば11月発売とすべきだったのではないだろうか。
発売延期はされていないので、コロナ渦の影響でリリース日告知前の早い段階から作業の遅れが見込まれていたのかもしれない。





・絵や背景

背景は新進気鋭のわいっしゅということもあり非常によく出来ている。
相変わらず3DCG臭さは抜けないが、嫌に匂うという程でもない。

絵については全く異なる絵柄の2名を起用し半分ずつメインヒロインを担当する形となっているのだが、これが非常によろしくない。
"アンリ=フランシス・ラ・ベルナールド"と"城釜奈緒美"を担当するSyrohに非があるわけではないが、残りを担当する有末つかさの可愛らしい絵柄と比較すると大幅に見劣りしてしまう。
これは偏にこのような組み合わせとしたブランド側に問題があるだろう。
何故これ程までに絵柄の異なる絵師を起用し、尚且つ一切絵柄を寄せようとしないのか。
理解に苦しむ。





・声

フレンダ・マーキュリー演じるDeepWeb Undergroundのみ演技に違和感あり。
明らかに場面にそぐわないと感じられる演技が散見される。

随分と傾いた名前であった為、演技に拘らず事前にどういった人物なのか調べていたのだが、どうやらバーチャルYouTuberを本業とされている方らしく、その演技力はお世辞にも良いとは言えない。
歌だけでなく配役までもがバーチャルYouTuberに浸食されていたとは。

本作品ではOP曲の歌唱力といった部分でもバーチャルYouTuberに対して非常に悪い印象を覚えていたため、演技力の問題以上に悪目立ちしてしまっているようにも感じられる。





・音楽

バーチャルYouTuberに最も浸食されている残念な部分。
OPが兎に角酷い。
曲自体は良いが歌われている方の歌唱力に大きな問題がある。
バーチャルYouTuberを採用すること自体は許容できるが、それは歌唱力に問題がないのであればという条件が付くのは至極当たり前の話だと思うのだが、何故この様な体たらくとなってしまったのか。
そも本作品のOP曲であるところの"キミだけのプリンセス"は歌唱力云々以前の問題であり、全く曲に合わせようという意識が微塵も感じられず音楽の体を成していない代物となっている。
歌われているバーチャルYouTuberは2名おり、片方は下手ではあるものの音程を合わせようとはしている。
EDの曲から察するにAZKiという方なのでしょう。
問題は残りの尾丸ポルカという方にあり、こちらは全く音程を合わせようとしておらず不協和音を生み出すのみの存在と化している。
尾丸ポルカというバーチャルYouTuberがどのような人物なのかは存じ上げないが、作品のOP曲であるという意識は毛頭なく、自らのキャラクターソングか何かと勘違いされている節がある。
本人の意思の介在する余地などある筈もないのでブランドや運営会社側の指示でこうなっているのだろうが、これでは戯画というブランドそのものや尾丸ポルカというバーチャルYouTuberに嫌悪感しか抱くことが出来そうにない。
これまでにも数々の電波ソングを聴いてきたが、聴くに堪えないという言葉をこうまで如実に体現している曲は初めてでした。
なまじ作曲だけは良いだけに猶更残念に感じられてならない。

ED曲は相変わらず歌唱力は足りていないものの、OP曲と比較すれば遥かに良いものとなっている。
特に作曲そのものは素晴らしい出来でした。
そういった意味ではOP曲以上に勿体ない。
やはりこういった素晴らしい曲はしっかりとした本業の方に歌ってもらいたい。

BGMに関しては"雷霆まつろわぬ神々の遊戯室にて"のみ良いと感じた。
出だしから暫くは平凡なBGMとなっているが、後半に近づくにつれて尻上がりに良くなっていく。
2分を過ぎた辺りから非常に良くなるので、もし時間があればしっかりと聴いてもらいたい。
私個人としては尻上がりに良くなってゆく曲はしっかりと頭から聴いてこそ良くなると思っているので頭から確認してもらいたいが、時間のない方は幸いにも本作品の音楽鑑賞画面にはシークバーが実装されているので2分辺りまで飛ばしてしまっても良いでしょう。





・システム

本作品でOP曲の次に足を引っ張ってしまっている問題の多いシステム。
記述すべき内容が多いため、不具合と仕様に対する不満をそれぞれに分けて記す事とする。

仕様

 ・フルスクリーン時にショートカットキーのAlt+Tabを使用すると出る画面が、アイコンのみが並ぶレガシースタイルになってしまう。
私はwindows7の頃はマウスのサイドボタンにAlt+Tabキーを割り当てた上で、開きたい画面までマウスホイールを回転させて選択を切り替えていた為、このレトロな画面ではマウスホイールが反応しないという仕様に強いもどかしさを感じさせられた。
windows10ではレトロ如何に関わらずマウスホイールでは選択を変更する事が不可となってしまっているので、windows10であれば気にすることも無いのでしょうが私個人としては致命的でした。

 ・一つの台詞の中に複数の句読点がある場合、句読点ごとに独立した文章となっているようでその回数分Enterキーを押さなければ次の文章へと進まない場合が存在する。
他ブランドでも稀に見かける仕様ではあるが、私には一切必要性の感じられない機能の筆頭と言えるものです。
読み進めるうえで手間が増えるだけだと思われるのだが、何故そういった仕様とするのか理解に苦しむ。
なお設定画面には"句読点ウェイト"という項目があり有効と無効の選択が可能となっているが、無効に設定してもこの症状が改善される事はありませんでした。

 ・選択肢を矢印キーのみで選択することが可能となっているが、色がほとんど誤差と言える程度しか変わらないので非常に使い難い。
よく見ると選択肢の枠色が変化するので判別が不可能という訳ではないが、矢印キーのみで操作する場合だと選択時の色がどちらなのかという根本的な部分から判断に迷う関係で使い難いことに変わりはない。
マウスやタッチ操作であれば問題ないが、キーボードでは致命的といえるデザインと言わざるを得ない。

 ・一風変わったオートロード機能。
これは所謂サスペンドと同等の機能となるが、前回終了時の場所ではなく最新のセーブデータが自動的に読み込まれるだけの擬似的なものとなっている。
頻繁にオートセーブされる仕様となっている為そこまでの弊害は無いが、一般的なオートロード機能だと過信していると既視感のある文章を再度読む羽目になり混乱する可能性が高い。
一般的なサスペンド機能と同等にするには、本作品を閉じる前に手動でクイックセーブをしておく必要があるが、大抵の場合はセーブし忘れてしまうことが多い。
かといって本作品では常に起動しているというのはリスクを伴う行為でもあるため、どうにも悩ましいところではある。
リスクについては不具合の項目にて記す。

 ・デフォルトのCtrlキー割り当てが未読スキップではなく既読スキップとなっている。
これは単純に使い慣れているショートカットとの相違によるものだが幸いにも設定変更が可能となっている為、大きな問題点という訳ではない。

不具合

 ・起動設定ツール(StartUpTool.exe)のサウンド再生方式を"自動"もしくは"XAudio2"に設定しているとcpu使用率が跳ね上がる。
残りの"DirectSound"へ変更すると解消される問題だが、無駄にCPU使用率が上がるというのは気持ちの良いものではない。
具体的な症状としては「家族計画」等の古い作品をwindows7以降の対応外OSで起動した際の物に酷似している。
つまりはCPUの複数コアの内の一つがフル稼働するというもので、コア数が多ければ多いほど全体としての稼働率の上昇量は軽微なものとなるが、CPU温度が上がってしまうのは避けらない。
夏場には特に注意すべき点だろう。

 ・本作品を起動したままスリープへ移行するとスリープ復帰後に特定の条件下でcpu使用率が最大となってしまう不具合が存在する。
特定の条件下とは、スリープ移行時に本作品が最前面に表示されているか否かである。
復帰後のCPU使用率が最大となってしまった場合は、再度本作品を最前面に表示する事で解消されるが、それに気づかず長時間放置しているとCPUに要らぬ負担を強いる結果となってしまう。
オーディオ関係といいどうにも本作品のシステムは隙あらばCPUを酷使しようとする傾向にあるようだ。
細かいことを気にしない性質ならば直接的な弊害の出るものではないので気にせずとも良いかもしれないが、私のような神経質な方ならば特に注意されたほうが良い問題と言えるでしょう。

仕様や不具合については以上となる。
その他の機能については問題なし。
特にフォントを細かく指定できる点は評価しています。
デフォルトのフォントでは読み辛いと感じていたので、丁度良い塩梅に変更できたのは大きい。
参考までに私の設定を以下に記しておくので、同様に読み辛いと感じられた方は試してみると改善されるかもしれません。
 ・フォントタイプ MSゴシック
 ・グラデーション 通常
 ・太文字     無効
 ・縁取り     強め
 ・影       弱め














・総評

シナリオそのものは凡庸ではあるものの、それ以外の必要性の一切感じられないバーチャルYoutuber要素や不具合の多いシステムにより更に評価が低くなってしまっている残念な作品と言える。
その他にも絵師の選択に問題があったりと全体的に失敗してしまっており、凡庸である筈のシナリオが感想を書いている内に相対的に良く思えてきてしまうほどに酷い。
より酷いものばかりを目にしていると平凡なものでも良く見えてくるという事なのでしょうが、こういった作品でそれを実感したくはなかった。

シナリオのみで判断するのであれば66~67点となるが、その他の項目で大幅減点せざるをえず、全体の評価としては50点となる。
余程のことが無い限りこういった減点方式で大幅に減点する事はないので、これは非常に稀な作品と言えるでしょう。