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boningenさんの我が姫君に栄冠をの長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
我が姫君に栄冠を
ブランド
みなとそふと
得点
90
参照数
521

一言コメント

「真剣で私に恋しなさい」を思い起こさせる軽快で面白い作品でした。サブ攻略対象のルートが短すぎる点や登場人物の掘り下げ不足が目立つが、テンポの良さや最近ではめっきり見かけなくなったファンタジー物かつ異能の絡む物語という点は欠点を補って余りある面白さでした。長文感想では主に細かい不満点等を記しています。ネタバレ有としていますが、シナリオの項目のみ多少のネタバレが存在する程度なので、総評やそれ以外の項目のみを読まれるのであればネタバレを回避する事も可能となります。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想




本作品においてはOSのクリーンインストールを間に挟んだ際に、プレイ時間を算出する為に用いているアプリケーションをインストールし忘れたまま数日プレイしてしまった為、正確なプレイ時間を算出することが出来ておりません。
ですので本作品でのみ思い出せる限りのプレイ時間と、実際に記録されていた残りのプレイ時間を合計した物を凡そをプレイ時間として記しています。









・シナリオ

プレイ時間は凡そ40時間となっており「真剣で私に恋しなさい!」とほぼ同等の文章量となっている。

基本的な作品のノリや構成は「真剣で私に恋しなさい!」と同等の物となっている為、あちらの作品が合うならば本作品も問題なく楽しむことが出来るでしょう。
「真剣で私に恋しなさい!」が学園物であったのに対し、本作品はファンタジー物且つ異能という組み合わせとなっており、単純に設定面だけで比較するならばこちらの方が魅力的であるとすら言える。
声優面でも似通ったものがあり、作品内の掛け合いではそれを意識した物も含まれている為、作品を十全に楽しむのであれば「真剣で私に恋しなさい!」を事前にプレイしておくとより楽しめるかと思われる。

シナリオライターであるタカヒロには「真剣で私に恋しなさい! A」での分割商法やシナリオ面での完成度の低さに辟易とさせられていたので期待していなかったのだが、未だにこれ程の作品を世に送り出せる力が残されていたのかと純粋に驚かされた。
楽に稼ぎたいという魂胆の見え透いた手抜き作品を量産していた人物とは思えない程に面白い。

本作品そのものの評価としては、非常に面白く止め時を見つけるのが難しい作品だが、登場人物の多さや設定の壮大さとは裏腹にキャラクター毎の掘り下げが非常に薄く、展開もお決まりの物やご都合主義のような物が多いため、気軽に読めるが故の薄さという部分も顕著に感じられた。
特にそれが顕著だったが帝国編以外の二つのルートで、なまじ帝国編がよく出来ていただけにそれと同等の物が後2つもあるのだと期待して読んでいるとひどい肩透かしを食う可能性が高い。
まだ連邦編はコルミージョといった連邦独自の立ち位置の者たちがよく描かれていたので許容出来るが、天魔編ではクロネ以外特に主人公と絡むことなく終わってしまうため、酷く落胆させられた。
これだけ大きく周囲の環境や主人公の立ち位置が変わるのだから、それぞれの立場に位置する者たちとの主人公への交流の変化を期待するのは当然だと思うのだが、この辺りは尺の関係からかほぼ全て切り捨てられてしまっている。
天魔編最後の決戦でも今一つ盛り上がりに欠けると感じた理由はこの辺りにあるのだと思われる。
一致団結するという展開は熱いものがあるが、その集まる人々がどういった人物なのかが語られていなければ、ただのモブキャラクターと変わらず、これでは盛り上がりようがない。
連邦では州長と主人公の間での掛け合いが足りず、天魔ではクロネ以外の全てにおいて不足している。
ナミートのような立ち位置の物が他ルートでは存在していない点も残念に感じている。
ルートごとに新規の登場人物を増やす程度の事はして欲しかった。

その他にもメイン攻略対象となるクロネとエリンとどのように知り合い、関係を深めてゆくのかを楽しみにしていたのだが、選択肢を選んだ直後に投げやりともいえる展開で簡単に繋がりが出来、好意を抱く程の出来事も大して描かれぬまま気が付くと恋仲になっているという始末。
帝国編での丁寧さは何処へ行ってしまったのだろうか。
全てのルートで帝国編と同等の密度があれば間違いなく傑作と評せた作品であっただけに非常に惜しい。
「真剣で私に恋しなさい!」と比較するとこの辺りは圧倒的に劣っている。
物語としてはしっかりと結末を迎えてはいるが描写不足が目立ちすぎている為、読後の余韻に何一つとして残る物がないのもいただけない。

またサブ攻略対象にしても同様の事が言える。
こちらは更に手の抜かれたものとなっており、濡れ場をスキップしていると僅か数分で読み終えてしまえる程の短さとなっています。
当然内容もとってつけたような物となっている。
1つのルートと呼べるようなものでは到底無く、ただのおまけであり主人公の妄想であったと言われた方がまだしっくり来る辺りは「真剣で私に恋しなさい!」から何一つとして進歩していないとも言えるか。





・絵や背景

女性は可愛らしく描けているが、男性や天魔族のような人外の絵は平凡であり、どうにも魅力が感じられない。
作品の趣旨を考えると役不足と言わざるを得ず、男性や人では無い物は別の絵師を用意し分担すべきであったのでは。
背景は平均的。





・声

本作品で特に評価しているのはマニエラ・グランスター演じる七瀬こより、クロネ演じる明羽杏子、エビータ・ベルナルド演じる夏空ひまわりの3名となります。

七瀬こよりの声質は花澤さくらのような癖の塊となっており、妙に耳に残る魅力を備えている。
これまであまり大きな作品には出演されていなかったようだが、間違いなく今後活躍される声優となるでしょう。

明羽杏子に関しては「どっちのiが好きですか?」の感想でも述べたが、予想通り素晴らしい演技力と声質により有名作品への出演が急激に増えている。
特にタカヒロのような姉が主体となりやすい作品との相性が良いので、このブランドの作品に出演するのも時間の問題だろうと思っていたが、やはり予想通りこれ以上ない程に役柄に声質が合っている。文句の付け所がない。

夏空ひまわりは声質に突出したものは無いが、声の幅が広くそれを上手く演技として落とし込めていた点を高く評価しています。
それによってエビータ・ベルナルドの魅力が数段引き上げられている。

その他の声優は相変わらず有名どころを揃えてきている。
「真剣で私に恋しなさい!」と比較すると少し弱いが、そもそも声優の豪華さといったものは作品の評価に何ら直結するものでは無いので、この部分が評価点に影響を与えるような事はありません。
役柄に声質が合っており、尚且つ演技力に問題が無いかが全てであると考えているからです。





・音楽

特別良いと感じる曲は無かったが、平均よりも上だと感じられる曲はいくつか存在していた。

お気に入りのBGM
 ・朝が来たりて
 ・姫君の富
 ・黒き侵攻・・・BGMの中では最も気に入っている。
 ・蒼穹の下で

お気に入りの歌
 ・Requiem for the soul

なお音楽鑑賞にはボーカル曲は登録されず、初回特典のオリジナルサウンドトラックにも収録されていないのでご注意ください。





・システム

幾つか残念な点は存在するが致命的な問題ではない。
以下に不満点を記す。

解像度の設定はデフォルトでは難がある。
デフォルトではスクリーンモードの解像度が1280x720となっており、そのままの状態でフルスクリーンにすると1280x720を疑似的にディスプレイ側の解像度である1920x1080に引き延ばす形となっている為、輪郭のぼやけた画質の悪いものとなってしまう。
かといってスクリーン解像度のみを1920x1080としてしまうと、ウィンドウモードでの解像度も1920x1080となってしまい本来の用途を成さない。
よってフルスクリーン時にのみ1920x1080としウィンドウでは1440や1280とする場合、ウィンドウサイズの"スクリーン解像度に合わせる"という項目のチェックを外し任意の解像度をそちらでまた別に設定しておく必要がある。
一般的な仕様であるならばこのチエックはデフォルトで外れているべき点であり、項目名も紛らわしい事からあまり親切な仕様とは言えない。
なお起動時に表示される最終確認画面での解像度変更だけではこの問題は回避できないため、事前にエンジン設定を確認しておくことをお勧めする。

起動後の設定画面に解像度を変更する機能が存在しない点も残念。

マスター音量を調整する機能は存在するが音量テストの項目が存在しないため細かく調節する場合も難有り。
致命的なのはムービー音量を個別設定することが出来ず、マスター音量を最大にしなければムービーのみ音量が小さくなってしまうという点にある。
先で述べたように音量テスト機能が存在しないので音量調整には難があるにも関わらず、上記の理由から必然的に微調整をする必要性に迫られる。
これではマスター音量が実装されている意味が無く、音量周りは非常に残念なシステムと言わざるを得ない。

マウスカーソルはセーブ確認や終了確認時に自動的に移動する仕様となっているが、"はい"でも"いいえ"でもない中間あたりに移動するだけであり、この辺りを"はい"で固定する等に設定を変更する事が出来ないため使い勝手は悪い。
これではカーソルを手動で移動させるのと掛かる手間は変わらず、むしろ中途半端に移動してしまうカーソルに対する違和感の方が強く、エンジン設定のシステムの項目にてカーソル設定の"自動移動"のチェックを外す事となった。

用語辞典が用意されている点は便利で良いと思うが、一度タイトル画面に戻る必要があるので実用性は低い。

チュートリアルにしても複雑なゲームシステムという訳でも無いので必要性を一切感じられない。
掛け合いと合わせてブランド独自の色を残したいのかもしれないが、不要な物は削りより必要とされる部分を補強される方が個人的には嬉しい。

不満点は以上。
サスペンド機能がきちんと機能しており、終了時にサスペンド終了とするか通常時の終了処理をするかを気軽に選択できる点も便利だと感じた。
前の選択肢まで戻るという機能もしっかりと機能しており、一度きりではなく更に一つ前の選択肢に戻るという事も可能となっている点は素晴らしい。


















・総評

とにかく掘り下げ不足な部分が目立つ事やサブ攻略対象の扱いが粗雑過ぎる事から、今後「我が姫君に栄冠を S」や「我が姫君に栄冠を A」等の題名で分割商法展開されそうな予感は強いが、内容そのものは非常に面白くよく出来ていたので満足しています。
物語そのものも結末まで描かれているので中途半端な消化不良を味わう事も無いのは良い。

非常に物語の展開も速く読んでいて疲れるような小難しい話も存在しない上にシリアスな展開もほぼ存在していないので、初心者から玄人まで分け隔てなく万人受けしやすい名作と言えるでしょう。
カロリー高めのしっかりとしたシナリオを楽しみたいという方には作風が軽すぎて物足りないと感じられるかもしれないが、頭を空っぽにしてこそ楽しめる作品なので、そういった作風だと割り切ることが出来れば十分楽しむことが出来るでしょう。