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boningenさんの星空鉄道とシロの旅の長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
星空鉄道とシロの旅
ブランド
しらたまこ
得点
90
参照数
235

一言コメント

短いながらも強く引き込まれる素晴らしい作品でした。システムには欠陥が多いがそれを補って余りあるほどの魅力がある。

長文感想


・シナリオ

シナリオの出来は素晴らしいの一言でした。
序盤からその面白さに惹かれ、にも関わらず短い作品だと言うのだから早く読み終えてしまうのは惜しいと思い、ゆっくりと噛みしめるように楽しませて頂きました。
あくまでも個人の体感での話となるが、いわゆる涙腺を強く刺激する類の物語と言えるでしょう。
歳の所為で単純に涙腺そのものが緩くなっているだけという可能性も考えられるが、最後の場面では年甲斐も無く涙してしまった。
ライター本人が自身のブログで"同人は気楽でいい もう今後はこっちメインにするかな"と豪語するだけの物はありました。
同人でありながらこれだけの名作を生み出せるのであれば、ブランドや企業に拘る必要はもはや存在しないのかもしれない。

プレイ時間は11時間と短いながらもテーマ性の強い作品となっており、若かりし頃の大人に対する憧れや社会人としての初心のような物を思い出させてくれるものとなっていました。
特にこのご時勢、仕事や人生に疲れてしまったと感じる方も多いかとは思うが、そういった方にこそ読んでもらいたい作品でした。

テキストは相変わらず読みやすくテンポも良いため止め時を見つけるのが難しい。
設定や作品の雰囲気も素晴らしい物があり、コメディパートではしっかりと笑いを誘う面白い物となっている。
所々に謎も散りばめられており、ただ優しいだけの世界が続いてゆくわけではない点も素晴らしい。
このおかげで中弛みすることなく読み進められたといっても過言ではない。

絵柄は癖の強いものとなっており私自身の趣向とは少しずれていたのだが、実際にプレイしてみると優しい世界とでも言うべき作品の雰囲気に非常によく合っていた。
非18禁となっていた点もこの絵柄を考えれば正解であったように思う。
こういった絵柄や世界観であれば、18禁要素は百害あって一理なしだと断言出来る。

メインヒロインは一人だけとなっており、シナリオそのものも選択肢は存在するが一本道となっている。
選択肢そのものもシナリオに影響を及ぼすものではないので、深く考えずに好みのものを選択すると良いでしょう。





・絵や背景

絵柄についてはシナリオの項目で既に述べているので基本的な所感は割愛するが、一点だけ残念だと感じた部分が存在したためこの場にて記す。
残念だと感じたのは最後のイベントCGの主人公についてであり、公式サイト上ではしっかりと表情まで書き込まれているにも拘らず、このCGではモブキャラのように表情の書き込まれていないのっぺらぼうのようになってしまっている。
非常に重要な場面でのCGなので、せめてこの場面ではしっかりと表情を描いて欲しかった。

背景は同人作品とは思えないほどによく出来ている。
「さくら、もゆ。」や「ATRI」に近い物となっており、多少CG臭くはあるがよく出来ている。
というよりも担当されている方を調べて見ると同一であったので、これは当然というべきか。





・声や配役

こちらも「ATRI」と同じく非18禁である事を十二分に活かした良い配役となっている。
登場人物が少ないながらもしっかりと男性が存在している点も高く評価しています。





・音楽

BGMは作品の雰囲気によく合っているだけでなく、曲そのものの出来も高い水準で纏まっている。
ただ残念ながら音楽鑑賞機能が存在しないため、好みのBGMの曲名が不明であり、この場で記すことが難しい。
とりあえず言えるのは、タイトル画面で流れるBGMが一番のお気に入りだということだけです。

ボーカル曲であるOPとEDに関しては、曲自体は平均的な出来だが歌手の高過ぎる声質には問題がある。
短い作品であるという事は相対的にOPとEDの重要性が高まるという事なので、もう少し万人受けする歌手にすべきだったのではないでしょうか。




・システム

本作品で唯一、足を引っ張ってしまっている部分です。
以下に酷いと感じる部分を記す。

 ・メッセージウィンドウの透明度が高過ぎる。濃度を最大値にしても尚薄い。

 ・立ち絵や画面が動くのは結構だが、その動作が完了するまで改行不可となっているシステムには強い不満が残る。
大抵の場合動作が完了する前に文章を読み終えてしまっているので、かなりの頻度で一時停止を強いられる事となる可能性が高い。
数歩ごとに足踏みを強要されるジョギングとでも言えばいいのか、非常に煩わしいシステムと言わざるをえない。

 ・テンキー側のEnterキーで改行できないのも地味に不便。
Enterキーで改行出来るようにショートカットキー設定されているのだから、こちらも同様に設定しておいて欲しかった。
どうにも片手落ちといった印象の強いシステム。

 ・ただの場面転換でなくアイキャッチが挟まる場合Enterキーで次の場面へ移動する事が出来ない。
それどころかマウスの左クリックをしない限り次へ進むことが出来ないという致命的な欠陥も存在する。

 ・フルスクリーンからウィンドウモードへ設定変更すると元の小さな画面サイズではなくフルスクリーン時の解像度のまま形だけウィンドウモードになる不具合が存在する。
窓枠をドラッグすることは不可となっている為、実質もとの解像度に戻すことは不可能。

 ・これは個人的な環境による問題だが、"Win7DSFilterTweaker"で動画再生に関する設定を変更しているとOPとEDが再生できない不具合が発生する。
Media Foundation内の32-bit側の設定をoffにする事で解消されるので些細な問題ではあるが、当初はいつまで経ってもOPが再生されず困惑させられた。

これだけ書き連ねていれば、どれだけ酷いシステムであるかはおわかり頂けると思うが、やはり特に酷いと感じたのは改行に関する部分でした。
これ程までにストレスの溜まるシステムというのも珍しい。
一応の解像度を変更することなく全画面化することや、マスター音量管理、次の台詞まで継続といった基本機能は備わっているだけに惜しい。
もし次回作があるのであれば、このシステムは根本的な部分から改修されることを強く望みます。



















・総評

同人作品という事もあり知名度が今一つ低いように思われるが、埋もれさせるには惜しいと感じる素晴らしい作品です。
絵柄が好みではなくとも、ライターであるさかき傘の名に多少なりと惹かれるものを感じたのであれば迷わず購入される事を強くお勧めします。
そうでなくともシナリオを重視される方であれば自信を持ってお勧め出来る作品となっていました。