とても綺麗な物語でした。世界の終末を予感させる適度に退廃した世界観やロボットとの関係性等が特によく描けており素晴らしい作品でした。プレイ時間は短めですが値段を考慮するならば十分と言えるでしょう。
・シナリオ
プレイ時間は10時間と短めだが、2200円という低価格を考慮すれば十分な文章量があると言える。
とてもよく出来た素晴らしい作品であったからこそ、早く読み終えてしまうのが強く惜しいと感じられる作品でした。
短いという意見が散見される理由もここにあるのでしょう。
主人公の性格は少し我の強い物に設定されているが、物語が進むことによってそれに変化が生まれ、とても良い主人公像となってゆく辺りは成長を感じさせる作品とも言えるかもしれません。
メインヒロインのアトリはとても可愛らしく、外見と内面ともに文句の付けようがない。
その他のサブキャラクターも充実しており、きちんと男性も起用されている辺りは素晴らしい。
シナリオそのものとしては、短い作品ということもありテンポよく物語が進むため退屈に感じられる点は皆無。
特に序盤から他の作品では中々味わうことの出来ない独特な世界観がこれでもかと押し寄せてくるため、読み始めて直にその面白さに飲まれてしまった。
ロボットとの関係性についてもよく考えられており、昨今のロボット物の作品に欠落している重要な部分がよく描けていた。
非18禁となっている点は賛否両論あるかもしれないが、私は一切そのことは気になりませんでした。
むしろ非18禁だからこそ選べる声優陣という点を勘案すれば、こちらの方が良かったとさえ思える。
またそういった生々しい描写がなかったからこそ、アトリという少女の無邪気さがより際立つ形となっており、だからこそ純粋で綺麗な作品だと強く感じたのかもしれません。
改めて思い返してみると、低価格にありがちな低予算を匂わせる要素が皆無だったことに驚いた。
以前プレイした低価格帯の作品では、背景が手抜きであったりBGMがブランド過去作品からの流用であったり、もしくは台詞の収録環境が劣悪であったために台詞の音質がFMラジオの様になっていたりと酷い例を挙げ始めると枚挙に暇が無かったので余計にそう感じさせられた。
・絵や背景
絵は文句の付けようがない程に綺麗でした。
立ち絵の種類や枚数は必要最低限となっているが問題となる程ではない。
イベントCGでも特に構図に違和感を覚えるようなことはなかった。
背景はとてもよく出来ていた。
低価格帯の作品ではよく犠牲にされる部分なのですが、本作品では特に力が入れられているように感じられた。
朽ちかけた建物は上手く表現出来ており、CGでありながらも全体的に非常に細かく書き込まれているので違和感なく2次元の絵と調和している。
CGを上手く活用しているからこそ低価格でありながらこれだけの品質を保てているのでしょう。
ただし水面の表現はCG臭さが抜けておらず、どうにも違和感の残るものとなっていた点だけが残念。
そうする技術が無かったのではなく、そこまでのリソースが無かったのだとは思うが。
・声
全体的に役柄と声質がよく合っていたが、特にアトリ演じる赤尾ひかるの声質が素晴らしく役柄に合っていた。
アトリの魅力を最大限に活かせている。
・音楽
ピアノを主体とした落ち着いた曲調のものが多い。
枕の「サクラノ詩」に近いものを感じるが、あちらとは違い特別良いと感じられる曲は無かった。
全体的に作品の雰囲気には良くあっており、高い水準で纏まっているだけに残念です。
ED曲の"Dear Moments"については、曲調も好みで良い曲だとは思うが、歌っている声優の歌唱力に難がある。
勿論きちんと本人が歌っている点は大いに評価しているし、作品演出上の一部として捉えれば歌唱力の拙さもアトリらしさが出ていて問題とはならないのだろうが、本項目では純粋に音楽としての価値を評するものとしているため、今一つと評価する他無い。
繰り返すが作品演出上の一部として見なすのであれば、とても良い演出であったようには思う。
ただその場合はピアノ以外の楽器は不要であったようにも思われる。
主人公と"アトリ"二人の物語の終着点なのだから、主人公の演奏するピアノとアトリの歌声だけの静かなEDの方が演出としては良かったのではないだろうか。
・システム
必要とされる機能はほぼ揃っている。
システムは「グリザイア ファントムトリガー」とほぼ同一のものが使用されていると思われる。
一点だけ残念だったのはノイズの音量。
演出で度々ブラウン管特有の砂嵐のような映像が流れるが、その際の"ザー"という音が大きすぎる。
イヤホンやヘットフォンを使用される場合は事前にSE音量を40程度まで下げておくことをお勧めします。
それとこれは些細な不満点だが、システムボイスにランダムという設定項目が無い事が多少残念ではある。
おそらく大半の方がデフォルトの"アトリ"固定のまま作品を終えてしまうのではないかと思われるが、それではその他のキャラクターのシステムボイスが勿体無い。
短い作品であり、尚且つ一本道であるのだからこそ、ランダムという設定値に需要が生まれるのではないだろうか。。
・総評
低価格とは思えないほどに完成度の高く素晴らしい作品でした。
設定も面白く、考えさせられる内容でもあるのでシナリオを重視される方には特におすすめの作品となります。
また読後の余韻も非常に深いものがあるので、多少なりと興味を惹かれたのであれば、迷わず購入されることを強くお勧めします。