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boningenさんのSummer Pockets REFLECTION BLUEの長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
Summer Pockets REFLECTION BLUE
ブランド
Key
得点
100
参照数
420

一言コメント

理想の夏休みを絵に描いたような素晴らしい作品でした。泣ける要素の大半は使い古された設定が多く涙腺が緩むようなことは無かったが、それを補って余りある程に日常パートや作品の雰囲気は最高でした。前回不満を感じていた結末が補完されていた点にも満足しています。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

一応記しておくと、以前発売されたSummer Pocketsは全てのルートを一度クリアしています。
当初は追加分のみを読む腹積もりでいたが、どうせならと思い最初から全て読み直したため、全てを含めた上での採点となります。
前回のプレイから未だ2年しか経っていない事を考えると早すぎるような気もしたが、それぞれのルートの結末や謎は覚えていても細かい日常パート等での出来事は思いのほか忘れており、自らの記憶力の乏しさに呆れながらも予想以上に楽しむことが出来た。
やはりこの作品の肝は日常パートにこそある。









・シナリオ

プレイ時間は71時間と圧倒的。
これはレコードを100%にするために島モン集めに悪戦苦闘したり、無駄に卓球のパートナーをとっかえひっかえして未読文章を埋めたりしていた部分も含まれているので実際はそれよりも少し短いが、それでも圧倒的でした。
前回の「Summer Pockets」のプレイ時間は42時間だったので、29時間もボリュームが増えているのは素晴らしい。
フルプライス作品一本文を追加したとメーカーが豪語しているだけの事はあるなと感じた。

内容に関しては素晴らしいの一言。
こんな夏休みを過ごしてみたかったと誰もが思うような心躍る夏休みをよく表現出来ている。
シナリオの結末はいずれのルートも先に述べたように既視感の強いものが多く、ほとんど感動を覚えることは無かったが、それ以上に日常パートで素晴らしい夏休みをこれでもかと体験させてくれたので、その欠点を無視できるほど満足しています。
むしろ夏休みを楽しむという観点から見れば、物語の結末ではなく日常部分にこそ重きを置いているように感じられるこの作りは正解だったように思える。
いかに夏休みを楽しむかが重要なのであって、その物語に陰を射してしまいかねないシリアスな展開には力をいれず、さらっと流してしまうほうが良い。
重要なのは物語が綺麗に畳まれているかどうかの一点のみで、後は日常パートで楽しませてくれればいい。
前回はこの結末が消化不良に終わっており、まるで尻切れ蜻蛉のような後味の悪い終わり方となっていた。
それが綺麗に解消されており、さらには追加ルートがこれだけの量追加されているというのだから、前回の感想でも言及していた"95点は付けられた"という評価を軽く超え、私にしては珍しく久々に100点を付けられる素晴らしい作品となりました。

次に、おそらく大半の方が気にしているであろう肝心の追加ルートの出来に関してですが、これは特別悪くもないが良くもない。
基本は従来のルートと同じような評価となります。
前回のもので満足されているならば、今回も不満に思うようなことはないでしょう。

個人的には色々なキャラの絡む頻度の高かった水織静久ルートがお気に入りです。
共通ルートの延長上にあるかのような賑やかさがあり楽しめた。
逆に神山識ルートでは紬ヴェンダースや静久がほとんど絡んでこなかったので少し寂しく感じられた。
ただ神山識自体は水織静久よりも好みの外観と声質だったので、この点には満足しています。
普段18禁作品ばかりに触れているので新鮮な声だったというのもあるし、なにより声質が役柄とよく合っていた。
元々が自分好みの声質だったというのもありますが、そういった贔屓目を抜きにしたとしても、これ以上無いほど役柄に合っていたように思う。

少し話は逸れるが、私はいかにもな可愛らしい声質よりも中性的な声質のほうが好みであり、そういった声質の代表格とも言える花澤香菜などとは当然相性が悪い。端的に言えば好きではない。
にも関わらず何故か人気声優となっている関係で、否が応にも耳に入ってきてしまう。
本作品でもご多分に洩れず初めに再生されるモノローグの声がこの花澤香菜となっていたのには、思わず"またか"と辟易としてしまった。
よくよく思い返してみると"七海"の声優が花澤香菜となっているので当然の成り行きではあったのですが、前回登場したかと思えばあっという間に結末を迎えてしまっていたので、完全に"七海"の存在そのものが抜け落ちていた。

ちなみにこの七海という名前についてですが、これは加藤うみが七つの世界を渡ってきた事に由来している、といった考察が存在する。
ただそうすると初めからFDありきの設計となっていたのでは、という疑問にも繋がる。
単にFDを作るにあたって当初とは異なる意味合いを後付けただけといった可能性も存在しているので断言は出来ませんが。
ただ振り返って考えて見ると、本作品では鴎ルートでの七つの海や七影蝶といった、"七"という数字に纏わる物が多い事もまた事実ではあります。
これをただの偶然と片付けるかは受け取り手次第ですが、私個人の考えとしてはこうも"七"という数字が重用されているのであれば、やはり特別な意味の籠められた数字である可能性が高いように思われます。





・音楽や動画

追加音楽についてのみ記す。
既存の音楽については前回の感想を参照願います。

追加音楽については可もなく不可もなく。
挿入歌として以前発売されたキャラクターソングが随所で使用されているが、残念ながらGALLERYへの登録は無し。

OPは新規楽曲と共に映像ごと差し替えられている。
歌はこちらのほうが好みだが、映像は前回のほうが作品の開幕としては相応しい。
差し替えられているので前回のOPはシナリオ上では未使用となっているが、GALLERYに登録されるのはありがたい。
個人的にはやはり物語の始まりは前回のOPのままでいて欲しかった。
新しく用意されたOPはその後の別のタイミングで再生されるようにしておくだけでも良かったように思う。

以下に追加音楽とお気に入りを記す。

 ・追加音楽
  ・虹の蝶
  ・Splash Green
  ・Tender Purple
  ・Piece of Clear
  ・Run Red Run
  ・夏の紫苑
  ・潮騒の香り
  ・アスタロア -blue-
  ・アスタロア -reflect-
  ・Twinkle of Aster
  ・風は微かに、熱を残し・・・
  ・Lover Universe

 ・追加の歌
  ・アスタロア
  ・夏の砂時計
  ・青き彼方

 ・お気に入りの歌
  ・アスタロア





・声や演技

追加キャラクターの識は声質と演技共に文句無しの素晴らしい出来栄え。
主人公に一部ボイスが付いているのにも驚いた。特に違和感の無い良い配役だったとは思うが、しろはの声優を考えると、いつ照明のひも相手にシャドーボクシングを始めてもおかしくない組み合わせだなと思わずにはいられない。
その他の追加ルート等の既存キャラクター達も凡そは違和感のない演技となっているが、一部例外もある。
以下に不満点を記す。

演技に違和感を覚えたのは加藤うみのみ。
元々難しい役柄ではあるが、一部追加シーンでは明らかに声に違和感がある。
具体的な例を挙げると、1周目識ルートに入ってすぐのうみの演技等が顕著。
その他のうみの追加シーンは多少マシになるが、それでも前回の収録音声と比較すると違和感の残るものとなってしまっている。
鼻声になってしまっているだけなのか、演技を忘れてしまっているだけなのか、声変わりをしてしまっているだけなのかは定かではないが非常に残念。

次に、これはシステムの項目に記すべきか迷ったが、音声関係なのでこちらに記す。
追加ルートでの天善の音量が小さ過ぎるといった場面が多々ある。
他にも小鳩や良一も音量が小さいと感じられる場面が存在するが、天善は群を抜いて小さい上にその頻度が高い。
音量調整をしている形跡がほぼ感じられない残念なものとなっている。
バグを疑うレベルで酷いが、発売されて間もなく1ヶ月となるが未だに修正される気配は窺えない。
天善の具体例としては、識ルート入ってすぐや、静久とダブルスで出る場合の決勝直前の台詞等。
良一はのみきルート入ってすぐの場面が顕著。

全体的に追加ルートの音量が小さい。
本作品の唯一にして最大の欠点とも言えるこの問題には酷く落胆しています。
一体誰がこの部分を担当しているのかは存じ上げないが、やる気の感じられない杜撰な仕事であるとしか評しようが無い。
そもそも誰も調整していないのではとすら思える。
ありえないとは思うが、収録した音声を音量調整せずそのまま使用しているのだろうか。
自社スタジオで収録していても、これでは意味が無い。





・絵、背景、立ち絵

こちらも追加分についてのみ記す。

念の為補足しておくと、左側の数値は完全新規のイベントCGの枚数のみを、右側にはそれに付随する差分のみの数値を記しています。
よって単純な追加CG枚数のみを求める場合は、左右の数値同士を加算するような形となります。

差分含めず/差分のみ

 ・追加CG
  ・しろはルート 1枚    2枚
  ・蒼ルート   0枚    0枚
  ・鴎ルート   1枚    0枚
  ・紬ルート   1枚    2枚
  ・ALKAルート  2枚    1枚 うみとしろはが抱き合っている差分のみ2枚減少しているがカウントには含めず
  ・Poketルート  2枚    3枚

 ・追加ルート
  ・美希ルート  8枚    21枚
  ・静久ルート  10枚    87枚
  ・うみルート  6枚    21枚
  ・識ルート   12枚    40枚

 ・追加背景
  ・美希ルート  1枚    0枚
  ・静久ルート  2枚    9枚
  ・識ルート   1枚    3枚

予想通り外注の蒼ルートのみ新規CG無しという点以外は問題なし。





・システム

前回と全く同じものなので省略。
ちなみに本編では使用されずGALLERYにのみ登録されている前回のOPの音量も大きいままなので、音量を下げずに再生すると耳を傷める可能性あり。
せめてこの部分は修正して欲しかった。















・総評

素晴らしい名作です。
夏を題材にした名作は多いですが、こと夏休みに特化した作品においてこれを越えるものはないでしょう。
Summer Pockets自体は前回と今回で2作品発売されているが、後に発売された側が完全な上位互換となっているので、どちらを購入するべきか迷っている方はこちらを購入することをお勧めします。