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boningenさんの白昼夢の青写真の長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
白昼夢の青写真
ブランド
Laplacian
得点
94
参照数
755

一言コメント

最後の部分は蛇足に感じたが、それ以外の全てにおいて満足のいく素晴らしい出来でした。会話文よりも地の文が多く、内面の描写が非常に良く出来ており小説に近い読み応えのある作品。細かい不満点については詳細へ。

長文感想

注意

公式サイト上の登場人物解説の文章の酷さによる悪評や点数工作疑惑が広まっているが、作品そのものは素晴らしいので悪評に惑わされず是非プレイされることをお勧めします。
何故あのような酷い紹介文となっているのかは理解に苦しむが、Laplacianの悪い部分が前面に出てしまっているだけのように思われる。





・シナリオ

プレイ時間は25時間と平均的だが、密度が高く読み応えのある文章が続くので体感としては遥かに長く感じた。
ただその長さは冗長なものではなく、強く作品に引き込まれる類のものでした。
全体的に重苦しい作風となっており、そういったものが苦手な人には合わないかもしれないが、純粋な読み物を期待している方なら合う作品です。
そういった方であれば、時間を忘れて読み進めてしまう感覚を味わうことが出来るでしょう。

冒頭で述べたように本作品には点数工作がなされているという噂が存在し、私自身も当初はそれを疑っていました。
ですのでプレイ当初は中央値が90点を超えるほどの作品なのかどうか、それを自身の目で確かめてやろうという斜に構えた姿勢で読み始めたのですが、あっという間に作品の素晴らしさに飲まれてしまった。
これは間違いなく中央値が90点を超える素晴らしい名作です。
確かに工作の有無そのものについては否定できない部分も存在するが、作品の価値を誤ったものではない事だけは確かです。

シナリオの詳細についてはネタバレを避けるため曖昧な表現となっている部分がありますが、どうかご了承ください。
本作品はまず三つの全く異なる短編を全て読む所から始まるが、そのどれもが非常に良く出来ており、それぞれで一本の作品と言えるほどの密度が存在する。
特にCASE-1は素晴らしく良い。
この短編の順番はプレイ開始時にランダムで選択されるので指定することは出来ないが、私の場合は最初に始まったのがこのCASE-1であり、その素晴らしい内面描写や、実に私好みの重苦しい作風も相まってあっという間に作品に惹きこまれていった。
勿論その他の2~3もよく出来ていたが、やはり優劣をつけるとするならば CASE-1 > CASE-2 > CASE-3 となるだろう。
CASE-1では息苦しさすら覚えるほどの重いシナリオを楽しむことが出来、CASE-2では陽気な酒場で繰り広げられるコメディを楽しみ、CASE-3ではオーソドックスな青春模様を堪能することが出来る。
ただ重苦しいだけではなくコメディや青春といった全く異なる要素を高い水準で纏めて楽しむことが出来るのは、それぞれが全く異なる設定の短編で構成されているからこそだと言える。
重苦しいだけでは息が詰まってしまいがちだが、異なるCASEでのコメディや青春といった要素が上手い具合にそれを中和してくれている。
勿論これはただ単純に短編を複数入れれば良いという訳ではなく、それぞれの短編がよく出来ているからこそ成せる芸当であり、今までにない全く新しいスタイルの作品と言えるのではないでしょうか。

最後に本題である"最後の部分"について記す。
こちらもネタバレを避けるため曖昧な表現となるが、私個人の考えとしては"最後の部分"は無いほうが良かったように思う。
最後の瞬間は遠まわしに、その兆しや可能性を匂わせるような、読み手の解釈に任せる形での曖昧なまま終えて欲しかった。
もしくは完全な" れ"の物語として締めて欲しかった。
これでは一貫していた作品のテーマそのものを否定してしまっており、結局何を伝えたかったのかわからなくなってしまった。
確かにああいった場面にも需要があり、大体においてその需要に応える方が正解ではあるのだが、本作品では大きな誤りであったと言わざるを得ない。
どうしてもそういった場面を入れたいのであれば、IFの物語として描くべきだったのでは。
この欠点が無ければより100点に近い評価となっていたでしょう。

また"彼"の行為を許容出来るかどうかという部分も評価に影響するのではないかと思われます。
主人公に感情移入し過ぎていると許容することは難しく、あの結末も納得のいかないものとなる可能性が高い。
私の場合、主人公への感情移入ではなく別の理由から到底許容できる類の問題ではなく、その贖罪も納得のいくものではなかったが、これを説明しようとするとネタバレの塊となってしまうため割愛する。
ただもし視点が逆の立場であったとしたなら、と考えると致し方なしとも思えてしまうのは事実であり、納得はいかないが理解は出来るという結論に達したため評価に影響するほどのものではありませんでした。

ちなみに全てを読み終えると"おまけシナリオ"が登録されるので読み逃しの無いようご注意ください。
内容は全てHシーンとなっているので大した価値は無いが、CASE-2の2つはHシーンでありながらも珍しく面白いものとなっているので、可能であればCtrlキーによる強制スキップを使用せず読むことをお勧めします。


ネタバレとなるため一部伏字としていますが、クリアした人ならばすぐにわかる単語かと思われます。






・絵や背景

立ち絵やイベントCGはどれも問題なし。
背景は膨大な枚数となっているが、CASE-1~3での背景は過去作品からの流用となっている模様。
残念ながら私は過去作品を一つもプレイしたことがないので具体的な枚数を比較することは出来ないが、少なくとも公式サイト上で確認出来る物が複数存在することは事実であり、この事からそのほとんどが流用されていると考えてよいのではないかと思われる。




・声

メインヒロイン4人の演じる声優が全て同じというとんでもない設計となっているが、しっかりと演じ分けがなされており一切違和感を覚えることは無い。
いかにベテラン声優と言えど、これだけ幅広い役柄をこなせるという事実には驚嘆するほか無い。

その他にも、女性声優とほぼ同数の男性声優が起用されているという点にも注目したい。
その男性声優のどれもが、これ以上無いほどに役柄に合っており物語の幅を広げる大きな一助となっている。
こちらも当たり前の様に複数の役を兼任しており、当たり前の様にどの役柄も違和感無く使い分けられている。
特に驚かされた役の演じ訳をされていたのは杉崎亮と牛蛙キタロウの両名で、エンドロールのクレジットで全く異なる性質の役が同一声優となっていた事を知り大層驚かされた。
この点は私のようにエンドロールを見ていなくとも、批評空間の声優欄をご覧になるとわかりやすいでしょう。
男性であれだけ声質を変えて演技出来るというのも珍しい。





・音楽

平均水準は高くどの曲も安定して良いが肝心の音楽鑑賞機能が存在しない為、肝心要の曲名が不明となっており評価のしようが無い。
しかも初回限定版に同梱されているオリジナルサウンドトラックにはボーカル曲のショート版しか収録されておらず、この点には酷く落胆させられた。
ただこの件に関しては公式サイト上の開発者コラムにて釈明されており、一応は納得のいくものではありました。

気になる方は下記アドレスを開くと良いでしょう。
公式サイト上の開発者コラムへのURLとなります。
https://laplacian.jp/yonagi/column_detail.php?id=174

お気に入りのBGMの中で一曲だけ曲名不明でも伝わりそうなものがあったので、その一曲のみ記す。

・お気に入りのBGM
 ・全てのルートを読み終えた後のタイトル画面で再生されるBGM

・お気に入りの歌
 ・夜明けの片隅で





・システム

全画面化やマスターボリューム等の必須機能は問題ないが、細かい不満点の多いシステムとなっている。
以下は細かい不満点のみを記す。

まず初めに、初回起動時限定で再生されるシナリオが存在するが、読み進めてタイトル画面に辿り着く前にセーブせず終了してしまうと、セーブデータを直接削除しない限り二度と読むことが出来ない。
私のように起動確認だけして一度落としたりするような方は要注意。
タイトル画面を経由せずシナリオが再生される類の作品なのは結構だが、後から読み返せる手段が用意されていない点には不満が残る。

次に、物語の序盤にOPの再生が始まるが、特にこれといった前触れもなく通常の暗転演出から始まる上にクリックで初回からスキップ出来てしまうので気付かぬうちにスキップしてしまうといった事故が発生しやすい作りとなっている。
幸いバックログから任意の場所へ遡ることが可能なので見直すことは容易だが、初回再生時からスキップ出来てしまう仕様には不満が残る。
暗転演出をクリックでスキップすることが慣例となっている方は、多少なりと違和感を覚えた際には面倒がらずバックログから遡り確認しなおすことをお勧めします。

他にも、メッセージウィンドウ内に表示されるテキストのフォントサイズが小さいといった問題も存在する。
テキストのフォントそのものを変更する機能は存在するが、根本的なサイズを変更することは出来ず、せいぜいが少し大きめのフォントへ変更したり、太字にしたりといった程度の悪足掻き以外に手立てが存在しない。
そもそもフォントサイズを変更できるシステムを見かけたことすらないので、そういった機能は初めから期待していなかったが、せめてもう少し見やすいサイズにして欲しかった。
ちなみに私は、最終的には"HGゴシックM"の太字設定へと落ち着きました。

その他のさらに細かい不満点は下記に纏める。
メッセージウィンドウの右端に存在するショートカットアイコンが判別しづらい。
このアイコンには色合いとデザインの双方に問題あり。
バックログでは会話文の横に"VOICE"と"RETURN"の二つのボタンが並んでいるが、音声再生は"VOICE"ボタンではなく直接会話文をクリックする仕様のほうが使いやすい。
一部音量不具合が存在し、画面上端に存在するゲーム環境設定画面内の音量設定のみ一切反映されない。



















・総評

2020年を代表する作品の一つであることは間違いないでしょう。
読み応えのある素晴らしい作品です。
ほんの僅かなりと興味を惹かれたのであれば、迷わず購入されることを強くお勧めします。

Laplacianといういまいちぱっとしない印象だったメーカーに対するイメージを一変させる作品でした。
これが偶然による産物なのかを確かめるといった意味でも、次回作が非常に楽しみです。

ただし次回作では公式サイト上の人物紹介文での悪ふざけを辞め、ブランドイメージがを一新されることを切に願います。



2020/12/15 あまりにも見苦しい文章に耐えられず一部文章を修正。