ErogameScape -エロゲー批評空間-

boningenさんのさくらの雲*スカアレットの恋の長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
さくらの雲*スカアレットの恋
ブランド
きゃべつそふと
得点
93
参照数
396

一言コメント

このライターは相変わらず死角を突くのが非常に上手い。読み手の無意識や思い込みを誘導するのが上手いとでも言うべきか、謎が明かされる瞬間の興奮は中々味わうことの出来ない得難いものがあるのは間違いない。元々高い期待を寄せてはいたが、その期待を上回る素晴らしい作品でした。この読後の余韻の素晴らしさは私の貧弱な語彙では到底表せそうにもないことだけが口惜しい。

長文感想

注意点
ネタバレとなる部分のみ一番最後の総評のさらに下、数十行改行した先に隔離しています。
重大なネタバレとなりますのでご注意ください。
これはどうしても納得のいかなかった謎の部分を追求する上で避けることの出来ない部分であった為、やむをえず隔離するような形で記す事となりました。
もしプレイ済みの方でこの疑問の答えをお持ちの方がいらっしゃいましたら、どのような形でも構いませんのでご教示いただけると幸いです。


・シナリオ

プレイ時間は33時間と少し長めの作品となっている。
全体を通して安定した面白さがあり、退屈に感じられる場面は皆無でした。
物語の謎や伏線が回収されてゆく後半パートは特に素晴らしい出来となっており、時間を忘れて読みふけるほど。

ブランド前作の名作「アメイジング・グレイス」と比較すると、謎が明かされる際の衝撃の強さでは少し劣る。
これに関しては単純に「アメイジング・グレイス」の出来が良過ぎたという見方も出来るのですが、やはり少し弱かった。
またその他にも、物語の大まかな構成の一部が似通っているという点も要因の一つのように思われる。
よってこの点に関してはどちらの作品を先に読まれるかで評価が明確に分かれる部分となるでしょう。
どちらを先に読むかで迷われている方は、どちらも非常に良く出来た名作なので単純に作品の雰囲気として西洋文化と大正文化のどちらを味わいたいのかを基準に選ぶとよいのではないかと思われます。

それ以外の要素は全てにおいて同等か、より優れていると言えるでしょう。
特筆すべきは読後の余韻の素晴らしさで、これは「アメイジング・グレイス」を圧倒的に上回る素晴らしいものがありました。
こうまですっきりとした余韻を味わわせてくれる作品は中々存在しない。

次にミステリー要素に関してですが、物語の核心に迫る要素をを除けば、比較的簡単に予想の付く易しい部類のものとなっている。
少なくとも読み手を置き去りにして主人公のみがとんでもない洞察力を発揮するような類のものでは無いので、自らも推理を楽しみながら読み進めることが出来る。
これは核心に迫る重要な謎についても同様のことが言え、感の良い人やミステリー作品に慣れている方ならば解くことも可能でしょう。

また舞台が大正時代となっている点に関してですが、大正時代のことをしっかりと調べ上げた上で書かれていることがよく伝わってくる素晴らしいものとなっていました。
なんちゃって大正時代のような、ガワだけ大正時代を模しているだけの紛い物ではないように感じられた。
この点に関しては私自身そこまで大正時代にあかるい訳ではなく、大正時代といえば1978年放送の「はいからさんが通る」ぐらいでしか経験が無いので断言するのも憚られるのですが。
ただ作中に登場する大正時代ならではの大量に詰め込まれた雑学に関しては、その都度詳細を調べながら読み進めていたのですが、ほとんど間違っているものは存在しませんでした。
このほとんどという表現については一部誤りがあるという訳ではなく、あまりにもマイナー過ぎるが故にネット上にその情報がなく正否を判断しかねるほどの物も含まれていたため、この様な表現としています。
そういった観点から、私には作者が大正時代をしっかりと調べられているように感じられたため、大した知識が無いにも拘らず断定するような表現を使用させていただきました。
今思えば、こういった媒体で大正時代に焦点を当てたものは初めてかもしれない。
そういった意味でも、貴重な大正時代の雑学を大量に吸収することの出来る素晴らしい作品とも言える。
これだけでも雑学好きならばプレイ価値はあるといえるのではないでしょうか。

物語の流れとしては基本的に一本道のシナリオとなっており、攻略順も固定となっているため推奨順などは存在しない。
攻略対象はそのどれもが魅力的で、攻略順が固定されている場合にありがちな、魅力的な攻略対象までの道程が遠いといった事態になる事はなかった。
むしろ甲乙付けがたいものがあったので、攻略順が固定されていたおかげで攻略順で迷わずに済んだとも言える。
最も魅力を感じた人物は所長。
外見と内面のどちらにも惹かれるもの強く感じた。
特に立ち絵の表情豊かな様は素晴らしい。
普段立ち絵鑑賞モードはさして必要と感じない性質だが、本作品ではその機能が存在しないことが悔やまれるほど。

最後に残念だと感じた点を述べるが、これに関しては珍しくほとんど存在しない。
強いてあげるなら3点のみ。

一つ目は攻略対象が5人ではないという点であり、つまりは"アララギ"が攻略対象外となっている事に対する不満。
4人でも昨今の主流としては平均的ではあるのだが、どうせならば桜の花弁の枚数とかけた5人としたほうが作品にも合っていたように思う。
その根拠としては、やはり作品のタイトルに使用されているというのもあるが、実際に作品内でも重要な鍵となっていたり、何よりもOP映像での演出がその根拠として挙げられる。
OP映像の序盤には虫眼鏡が円を描くように重なり合い、その重なり合った部分に色とデフォルメされた攻略対象が1枚につき1人ずつ描かれる事で桜の花弁を模すという演出が存在しているのだが、攻略対象が1人足りないため右下の花弁のみキャラクターが描かれておらず空白のようになってしまっておりどうにもバランスが悪い。
主人公を含めた5人という解釈も出来なくは無いが、やはりそれは少し無理があるように思われる。
なんだかんだと難癖をつけてはいるが、実際のところ冒頭で述べたように"アララギ"が攻略対象ではないことに対する不満でしかないのですが。
このブランドでは今の所FDが発売されたことは無いので望み薄だとは思うが、それでも"アララギ"を攻略対象に加えたFDないし続編を願わずにはいられない。

二つ目は物語終盤に存在する矛盾点。
詳細はネタバレの塊となるのでこの場では控えるが、どう考えても矛盾してしまう点が一箇所存在する。
これは私の読解力や理解力に難があるだけなのかもしれませんが、どうにも違和感が残る。
この感想文の最後に記す総評の更に下、10行ほど改行した先にこの点の詳細は記しておくので、作品をプレイ済みの方のみご覧ください。
それ以外の方はネタバレとなりますので決して覗かぬよう願います。

三つ目は個別ルート終盤に纏めて放り込まれている濡れ場。
シーン数自体は平均的であり、なければ無いで不満に感じるが、ほとんど間を置かずに連続で来るのでテンポを悪くしてしまっている。
なまじシナリオそのものが面白いだけにその落差が目立つ。
かといっておまけシナリオとしてクリア後に別の場所で読む形となるのも時系列を追うといった意味で煩雑になってしまう為、どうにも扱いが難しい部分ではあるように思われる。





・絵や背景

どちらもよく出来ているが、特に背景がよく出来ていた。
絵に関しては蓮の私服姿だけ一部難有り。
いわゆる乳袋と称されるものがこの衣装でだけ強調され過ぎており、明らかにこの服装のみ浮いてしまっている。
その他の絵に関しては問題なく、シナリオの項目でも触れているが所長の外見が特に素晴らしい。

また所長の寝間着にしてもデザインは申し分ないが、初対面で得体の知れない主人公を泊めるにも拘らず何の遠慮や羞恥もなくあの薄着で夜を明かすというのは、無用心というよりも違和感が強く残るものではあった。
特にこの場面は一枚絵のイベントCGではっきりと描写されており、初心な主人公が一人慌てふためくといった描写がありそうな場面であったにも関わらず、実際にはどちらも落ち着き払った態度で何事もなく朝を迎えてしまうので強く印象に残っている。





・声

相変わらずこのブランドは珍しい声優を引っ張ってくる。
メインどころでは相模恋以外の全てが初めて聴く声質のものであった様に思うが、そのどれもがとても良い声質である上に役柄にも合っていた。
サブでも月白まひると野々宮小鞠に同様の感想を抱いた。
願わくば今後もこの業界で声優活動を続けて頂きたいと強く思うが、月白まひるの前例があるようにあまり積極的にはこの類の仕事は受けてもらえないような気がしてならないのが残念でならない。

また名作には付き物の男性声優の数は6名と多く、そのどれもが役柄によく合っており台詞も多い点には大変満足しています。





・音楽

平均水準は高め。
特筆して素晴らしいと感じたのは桜爛ロマンシア (オフボーカル版)で、作中で使用されるタイミングが素晴らしく良かった。
あの展開には驚かされた。読んでいて最も興奮を覚えた部分でもあります。

・お気に入りのBGM
 ・桜爛ロマンシア (オフボーカル版)・・・ボーカル付きよりもオフボーカルのほうが好み。
 ・Modern Romanesque
 ・ゑだわたり
 ・JUGGERNAUT

・お気に入りの歌
 ・桜爛ロマンシア・・・OPが良かったので。相乗効果により。
 ・雨露とビードロ





・映像

OP映像はオーソドックスなエロゲらしいOPとなっているが、非常によく出来ている。
映像は「いただきじゃんがりあんR」系統に近い物となっており、カラフルな色が忙しなく移動していくタイプだがよく出来ている。
初見ではテンポと映像が合っていないように感じられたが、繰り返し見ていると不思議と馴染んでくる飽きさせない魅力がある。
エロゲーやギャルゲーにありがちなイベントCGをただ順番に表示するだけの何の工夫も無い動画とは大きく異なっており、イベントCG以外の作品に合わせた小物が非常に多く、演出そのものもお洒落なものとなっている。
特に所長の立ち絵が虫眼鏡越しの部分のみ別の服装に変わる際の恥らう表情が素晴らしい。

ED映像は通常のクレジットが流れる演出とは別に重要な情報が多く含まれている作りとなっているが、鑑賞モードに登録されないのでEDの手前でセーブしておくことを強くお勧めします。





・システム

全画面化、全体音量、次の台詞まで継続などの必須機能は全て備わっているが、残念な点も幾つか存在する。
本作品で唯一手放しでは褒められない点となってしまっている。
以下に不満点を記す。

BGM音量とOP音量で大きな開きがあるにも関わらずどちらもBGM音量で一括管理されている為、BGMを基準に調整しているとOP音量が大変小さなものとなってしまう。
折角の良いOP映像を活かせておらず、大変残念に思う。
一括管理するのは結構だが、ならば尚の事この映像とBGM間の調整はしっかりとして頂きたい。

物語の合間に逐次挿入されるサブタイトル演出では題名が読み上げられるものとそうでないものが混在しており、この演出はボイスごとスキップ出来てしまう為システムとの相性が悪い。
何度か読み上げられないサブタイトルがあると、間違えてボイスをスキップしてしまったのかと焦り、バックログから遡って確かめる羽目になった。

一部会話文の音声が途切れている。
正確には出だしの部分が欠けているものが数箇所存在する。
音声の終端をカットし忘れて無音が続いていたり、咳払いが混じっていたりする事は過去にも他作品で経験しているが、出だしが欠けている編集ミスというのは珍しい。
編集ではどうにもならない収録時のミスであった可能性も考えられる。
かもしれない。

一部半分映像のような台詞演出が存在するが、この部分の音量管理も不可思議なものとなっている。
具体的にはエンターキーを押さずとも音声と連動して改行されたり画面一杯に文字が表示されたりする部分の事を指す。
この台詞音量は何故かボイスでもBGMでもなく、効果音で管理されている。
その為、効果音の音量を少しでも下げていると特殊演出の際に流れる音声の音量が相応に小さなものになってしまう。


不満点は以上だが、総じて音量に関するものが大半を占めている。
この音量周りは作品の評価にも影響する重要な部分でもあるので、もう少ししっかりとした管理をお願いしたい。













・総評

冒頭から中盤までの内容も安定して面白いが、中盤から後半にかけての面白さは群を抜いて素晴らしい。
一部矛盾しているような気がするのだけが残念ですが、それも深く考えなければ気にならない程度の問題です。
同日に発売された「白昼夢の青写真」も素晴らしかったが、こちらも一切引けをとらない名作と言えるでしょう。
やって損は無い、どころかやらなければ損とも言えるほどの名作ですので、迷わず購入されることを強くお勧めします。

まさかここまで甲乙付けがたい名作が同日に発売される事になろうとは。
嬉しい自体ではあるのですが、少々勿体無いような気もしてしまう。
個人的には何一つとして魅力を感じない月が最近では当たり前のようになってきており、発売を心待ちにする独特な感覚を味わえないため残念に感じていたので、少しでもこういった名作は分散させて欲しいと感じる。




























・ネタバレ注意

最後の大勝負、子孫が途絶えることで加藤が消滅するのであれば、タイムマシンの開発といった事柄も消滅してしまうのでは?
であれば主人公も消滅はせずとも元の時代へ送り返されるような強制力がその場で発生しない点には疑問が残る。