ErogameScape -エロゲー批評空間-

boningenさんの千の刃濤、桃花染の皇姫 -花あかり-の長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
千の刃濤、桃花染の皇姫 -花あかり-
ブランド
AUGUST
得点
63
参照数
566

一言コメント

ソーシャルゲームの片手間に製作していた事がよく伝わってくる残念なFDでした。そもそもFDとしては発売時期を完全に逸してしまっているので内容の良し悪し以前の問題ですが。

長文感想



・シナリオ

文章や物語そのものは悪くない。
「千の刃濤、桃花染の皇姫」特有の古風でありながら現代の雰囲気も感じさせる独特な雰囲気は健在で、そういえばこんな作品だったなと懐かしい思いにさせてくれた。
本編発売から3年も経っているにも拘らず、この部分を維持できている点は流石。
恐らく本編とFDを纏めて連続で読まれる場合でも違和感なく読み進めることが出来るのでは。

内容としても本編で不足していた日常要素が主体となっているので概ね満足しているが、FDで初めて攻略対象となる人物の好意を抱いてゆく過程が強引で無理のあるものが多く、全体の評価としては厳しい目で見ざるをえないのが残念でならない。
特に今回のFDでは他の不満点も多いので、せめて内容では挽回して欲しかった。

プレイ時間は9時間とかなり短く、過去の同ブランドFDと同じ値段であることを考えると割高に感じられてしまう。
前回のFDである「大図書館の羊飼い -Dreaming Sheep-」でも少し短いと感じていたが、今回はそのさらに半分程の文章量となってしまっている。
10年前と比較すると市場規模が1/3となってしまっているので単純比較出来るものではないのですが。

致命的な問題点としては、やはり本編から3年経って発売されるFDという点にある。
3年も経ってしまうとかなりの部分を忘れてしまうのでFDを読み進める段階で設定を思い出すのに苦労した。
せめて本編での出来事をダイジェストで紹介するような場面があれば良かったのだが、そういった物は存在せずいきなりどの人物のストーリーを読むかの選択を迫られる仕様となっているのも残念でならない。

またこのFDでは根幹となる物語は存在せず、それぞれの登場人物のその後が短編として描かれているだけとなっており、小説で例えるならば非常に薄い短編集といった形となっている。
せめて根幹となる物語が存在すれば少ない文章量を多少は挽回出来たと思うのだが、この辺りが余計に短いと感じさせられる大きな要因となってしまっているように感じられた。
その関係かこのFDではOP映像というものが存在せず、音楽ギャラリーにPVのみが登録される形となっている。
主題歌が存在しながらOPの挿入がなされていない事には驚きを禁じえない。
挿入すべき根幹となるものが存在しないのだから当たり前ではあるが、なんとも勿体無い。
PVが収録されているのはせめてもの抵抗であるようにも感じられた。





・音楽

新規BGMは存在せず、全て使い回しとなっている。
音楽~劇中楽曲視聴~画面にも主題歌とエンディングしか登録されていない辺りはいっそ清清しい。
実際のところは予算の兼ね合いだとは思うが、辛辣な意見を述べると、短い作品なので新規楽曲を用意するまでもないといった所か。





・声

どの声も前作と同じ違和感の無い演技が出来ている。
特に素晴らしいと感じたのは"来嶌・マクスウェル・紫乃"演じる二郷あずささんの演技でした。
「ノラと皇女と野良猫ハート」の"ルーシア"の低過ぎる低音や、「大図書館の羊飼い」の"白崎さより"のような高過ぎる高音とも違う、丁度良い中間辺りの演技となっている。
現時点ではあまり出演作品は多くないようだが、今後の活躍に期待したい。
間違っても一般で売れ始めた途端に裏名義での仕事を蔑ろにするような水崎来夢のようにだけはなって欲しくないが。





・システム

特に不満はない。必要とされる機能は一通り揃っている。
手元に本編が残っていないので本編と同じシステムなのかは不明。
元々「千の刃濤、桃花染の皇姫」自体も売り文句であった「穢翼のユースティア」と同系統の作品であるという部分に過剰な期待を抱き、蓋を開けてみれば全く異なる作品であったと強く落胆しているクチなので、手元に残すという選択肢は存在しえなかった。












・総評

腐ってもAUGUSTという理由だけで購入したが、結果としてはソーシャルゲームに現を抜かし本業である筈の製品作りを蔑ろにする姿勢がより強く浮き彫りとなるだけでした。
この一本のみで判断するのは性急過ぎるとは思うが、今後AUGUSTに期待すべきではないように思われる。
AUGUSTというブランドに幻滅したくなければ、購入を控えたほうが身の為かと思われます。


相当に「千の刃濤、桃花染の皇姫」が好きだったという方ならば購入することをお勧めしますが、そういった方は当たり前のように早期予約されていると思われるので、この場は辛辣な意見で締めさせて頂きます。