ErogameScape -エロゲー批評空間-

boningenさんのBLACK SHEEP TOWNの長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
BLACK SHEEP TOWN
ブランド
BA-KU
得点
92
参照数
386

一言コメント

UIや全体的なデザインはライアーソフトに、内容はハードボイルド路線のニトロプラスを彷彿とさせ、それに瀬戸口廉也の濃厚なテキストで群像劇が描かれている。音楽やシステムはいまひとつでしたが、それを補って余りあるほどに読み応えのある素晴らしい作品でした。

長文感想

・シナリオ

プレイ時間は39時間とかなり長い部類となる。
価格も2800円と安価であるため、それを加味するとこの長さは異様とすら言える。
ボイスが付いていない分の予算を全てシナリオに回したのだろうか。
どちらにせよこの長さは嬉しい誤算でした。

一歩路地裏へ踏み込めば当たり前のように死体が転がっていたり、精神異常者や異形の者が跋扈する非常に治安の悪い街が舞台となっており、この非常に独特な舞台を生きる様々な立場の人物がそれぞれの視点からしっかりと描かれている。
そういった様々な人物の行動が複雑に絡まりあい、一つの終局へと繋がってゆく様は圧巻と評する他ない。
群像劇という手法を非常に上手く活用できている。

ギャングの抗争や異能者達による血生臭い物語という側面が強く、バトル物につきものの戦闘描写がしっかりとテキストで表現できている辺りも素晴らしい。

一つのシナリオを読み終えると次に読む事の可能なシナリオが複数開示され、その内から自分で選ぶ形となっており、時系列順に読むのも良し、一つの視点を連続して読むのも良しと、ある程度自由度のあるシステムとなっているのも良い。
頻繁に視点移動するのが苦手な方でも楽しめるでしょう。
重要な局面のシナリオにはロックがかかっており、前提となるシナリオを全て読んでいなければ開示されない仕様となっているので、一つの視点に集中しすぎて物語を台無しにするといった心配をする必要もない。

テキストは瀬戸口廉也らしいテイストの詰まったものとなっており、地の文が主体となる上に会話文の付近に誰が喋っているのかを補助する発言者の名前も表示されないので、小説に近い作りとなっている。

主人公は非常に優秀な人物として描かれており、冷徹であるという部分も私の好みに合致している。
その他の登場人物も数は多いが、しっかりと内面描写がされており、個性豊かに描き分けがなされている。
その人物の過去を含めたものが描かれてもいるので、突拍子のない行動であったり、不可解な行動をとる場面があったとしても、その行動に矛盾を感じる事がない。
それぞれにしっかりとした個性が感じられ、キャラクターが生きていると感じられた。

テンポも非常に良く、中弛みを感じさせるような場面は皆無でした。
緊迫感のある物騒な場面が多く、予想外の展開や先を気にさせる謎といった物も多い。
純粋に読み物として、強く引き込まれる素晴らしい内容でした。

2017年に発表された当初は18+となっていたようだが、この内容であれば他人に進めやすくなる分全年齢への変更は正解であったように思われる。





・絵や背景

作風に合った絵柄ではあるが、技量としては今一つ。
女性陣よりも男性陣の表情の方が上手く描けている。

背景に関しては良くできている。





・システム

本作で最も足を引っ張ってしまっている部分。
機能は必要最低限の物しか実装されていない。
”マウスホイールで文字送り”がデフォルトでオフとなっている辺り、このシステムを構築した方はノベルゲームに疎いのではないだろうか。
私にはこの必須機能を選択制とする意味を見出すことが出来ず、デフォルトでオフとなっている点には更に疑問符が付く。

はっきり言って足りない機能を述べるよりも、実装されている機能を述べたほうが遥かに短い文章で済む程に酷い。
システム面は同人ゲームと同等のレベルと言えるでしょう。

特に酷いのはUI全般のデザインで、全てのUIのフォントサイズが小さすぎて非常に読み難い。
相当な大画面でプレイする事を前提としているかのようなデザインとなっている。

バックログから任意の地点へ遡る機能が存在し、tipを選択し損ねた際に活用する事が可能だが、それをするとそれ以前のバックログが消失してしまう不具合が存在する為、遡る際は要注意。

またこれは忘備録として記しておくが、全画面化した状態で裏画面へ移動すると強制的に最小化されてしまう上に強制ミュートとなってしまう。
ウィンドウモードでは画面のふちをドラッグする事でサイズを自由に変更する事が可能となっているが、サイズを小さくした状態で全画面化すると画質が大幅に低下する。
どうやら全画面化すると解像度を変えずに小さい画面を引き延ばしているだけのようだ。
図面サイズ関係のシステムは特にお粗末な出来と言えるでしょう。








・総評

シナリオ面は素晴らしい出来だが、それ以外の絵やシステムで損をしている作品。
特にシステムの出来は2022年発売のシステムとは思えないほどに機能が少ない。

なんにせよシナリオゲーが好きな方ならば間違いなく引き込まれる作品なので、迷わず購入されることを強くお勧め致します。

昨今めっきりと見かけなくなってしまったハード路線の作品なので、今後は昔のようにこういった作品が増えることを願っています。