在りし日の夏休みに焦点を当てた作品。最後以外はkeyの過去作品にも劣らない素晴らしい出来だった。後半の出来が良ければ95点は付けられたのだが。
全体的な流れとしてはkeyの過去作品の要素が散りばめられている。
「AIR」、「CLANNAD」、「リトルバスターズ」のそれぞれの特徴が感じられるつくりとなっている。
この要素を懐かしいと感じるか、既視感と捕らえるかで評価は大きく変わる。
既視感とは悪く言えば二番煎じとも取れるものになるので、そこだけは注意されたい。
全てのルートでの展開が過去作品の何れかで既に使用されたことのある手法が用いられており、真新しさや感動を感じることは難しかった。
私はこの点を懐かしいとだけ感じ残念には思わなかったので減点対象とはしなかったが、そういったものが好きではない方からすると評価の大きく下がる要因となるだろう。
ネタバレせずに感想を書いているので具体的に書くことが出来ないが、後半のみ残念。
恐らく最も作品の中で感動することの出来る場面なのだろうが、「何故」や「どうして」といった疑問が立ち消えず、読み手を置き去りにしたままいつの間にか終わってしまう。
この最後の残念の部分がなければ、文句なしの100点を付けられたのだが。
特にそれまでの出来が素晴らしかっただけに、終わり方の残念さが際立つ。
まさかこれで終わりではないだろう、と思いながら読み進めていると全て終わってしまい、なんとも不完全燃焼のような後味の悪いものが残る。
読み終えた直後は、酷い終え方をした後半以外の印象が強く高得点を付けていたが、暫くして改めて思い返してみると後半の酷さが際立つようになり、大幅な減点をする羽目になった。
この感想文も一度書き上げた後に大幅に加筆修正していますので、一部以前のままの文章となっており矛盾するような表現があるかもしれません。
そういった経緯のためか評価点を付けるのに非常に苦労しました。重要なことなので二度書くが、後半以外の点数は文句なしの100点だが後半は0点と落差が激しすぎる。
こうまで見事に上げて落としてくれた作品は他に無いのでは。
終わり方に賛否両論ある結末の作品でもそれも一つの作品の在り方だと思い許容出来ていたが、これはない。それこそ古くはエヴァンゲリオンのTV版の結末でも、あれはあれで有りだと許容してきたぐらいだ。同じ業界内でいえば「恋×シンアイ彼女」が記憶に新しいと思われるが、これも問題なく受け入れられた。
だが本作品の結末はいくらなんでも酷すぎる。
テキスト総量は大作に相応しい文章量。
個性的な登場人物が多いが、それでいて不快感を感じることもない絶妙な匙加減。
担当声優も新鮮味があり、どの声優も登場人物の個性とよく噛み合っている。
一般作品ということもあり見慣れない声優陣となっていたが、どの演技も登場人物に良く合っておりこれ以上ない配役だと思わせてくれた。
また主要登場人物はどれも非常に魅力的で、どのルートから手を付けるかで迷ってしまうほど。
特に良かったのは鳴瀨 しろは演じる小原好美。「月がきれい」というアニメでしか声を聴いたことが無かったが、まさにこれしかないと思わせる程。
まだデビューして間もないというのに名作に恵まれている。
テキスト自体も読みやすくテンポも良いので中弛みとは無縁。
卓球や島モンファイトといったミニゲームは中毒性があり、特に卓球はこれ単体でスマホのミニゲームとして発売してほしいと思える程に素晴らしい。
この辺りは元祖リトルバスターズを髣髴とさせる。
これは余談だが、私は未だにリトルバスターズのミニゲームのみをスマホでプレイ出来ないだろうかと一人で勝手に心待ちにして幾星霜が経とうとしている。多少高くても良いので発売してくれないだろうか。
継続性の必要な昨今のソシャゲは苦手だが、昔ながらのスコアのみを突き詰める種類のゲームは良い暇つぶしになる。
また名作には必須とも言える愉快な男友達との掛け合いも必要十分な量が用意されておりとても楽しむことが出来る。
お気に入りの音楽は
BGM
・「Sea, You & Me」
・「Golden Hours」
・「宿題は8月32日に」
・「夏を刻んだ、波の音は…」
・「眩しさの中」
・「ひと夏のたわむれ」・・・名曲という訳ではないが、男友達達との掛け合いが面白く、その場面では大体この音楽が流れていた。その所為か条件反射でこの曲を聴くと顔面がにやけてしまう。
音楽
・「夜奏花」
・「羽のゆりかご」
・「しろはの子守歌」・・・欲を言えばもう少し声のトーンを低めにしてほしかったが。
残念だった音楽
・「紬の夏休み」・・・こんな項目は初めて作ったが、歌詞が余りにも残念過ぎる。なぜこんな不快な歌詞にしてしまったのか理解に苦しむ。
グラフィックは問題なし。
keyお馴染みの樋上いたる氏は一切関わっておらず、「ぱれっと」で有名な和泉つばす氏等の複数の原画家体制となっている珍しい作品。
樋上いたる氏の味のある絵柄も嫌いではないが、やはり可愛らしさという点ではこちらの方に軍配が上がる。
そして今回グラフィックの部分で最も評価したいと感じたのは背景の作り込み具合。
地味な点ではあるが、非常によく作りこまれていると感じた。
駄菓子屋の外観は、私が子供の頃に通っていた駄菓子屋の雰囲気をそのまま醸し出しているとさえ感じた。
さらに自宅の背景では当たり前のようにブラウン管テレビとビデオデッキが置かれており、扇風機は昭和の代表機であるクリスタルゼファーのような渦巻き型のガードであったりと、意識して昔の田舎を再現していると強く感じられる。
これが作風によく合っており、懐かしい夏を想起させる重要な要因となっているように感じられた。
システムは一通り実装されており不満に思う点は無い。
ムービー音量がOPとEDで違うようで、OP基準で音量を調整するとEDの音量が小さくなりすぎてしまう。結局のところEDの方が目にする機会が圧倒的に多いためED基準で調整したが、これは少し残念。
余談だが、メッセージウインドウ右側に設置されているアイコン名はLOGやLOCK等英語表記だが、なぜか一つだけ「KOE」とローマ字表記になっている点がとても気になる。
「VOICE」表記が一般的だと思うが、何か意味があるのだろうか。
総評としては、後半以外は間違いなくkeyの代表作たる名作の一つとして名を連ねることに成功した作品といえる。
過去に数々の名作を生み出したメーカーとしての期待値を見事に満足させてくれた。
特にそれぞれの物語を一つ終える度に感じる余韻は凄まじいものがある。
やって損は無い作品というよりは、やらなければ損だと言えるような、そんな数少ない名作の一つと言えるだろう。色々な意味で。
本当に後半も良ければ文句なしの100点の名作となれただろうに、勿体無い。
評価点を付けるのに之ほど苦労した作品は初めてだった。後半以外の点数は文句なしの100点だが後半は0点と、落差が激しすぎるのが所以か。
作品に全く関係のない余談ではあるが、何故か私はこの作品を通して邦画「菊次郎の夏」を思い出した。
何故かはわからないが、私の中で懐かしい夏、ひいては夏休みを連想させるものとしてこの映画が強く印象に残っているからなのかもしれない。