平々凡々なキャラゲーであり、結末が少し良かった点以外に褒められる点は少ない。この中では最も期待していたののかルートの出来が特に酷く失望を禁じえない。
・シナリオ
先に述べておくが、最後に開放されるルートが良かったので66点としているが、それ以外の部分は全て60点あればいい方といった具合となっているので注意。
プレイ時間は31時間と長め。
はなからキャラゲーとして割り切ってプレイしていたつもりだったが、それでも予想以上に眠くなることの多いシナリオでした。
これはキャラゲーで最も重要とされるヒロインの魅力というものが一切感じられなかった点が大きく影響している。
外見が可愛らしいだけで、その性格や設定には残念ながら一切魅力が感じられなかった。
数少ない褒められる点としては、髪形の変化が挙げられる。
制服、私服、外行きの私服といったものによって髪型が変化するのは新しい魅力に気付く良いきっかけとなる。
シナリオについては悪い点から述べる。
まず第一に主人公に魅力が感じられない。
いかにぐーたライフを満喫するかを最重要視する無気力系主人公なのは結構だが、何か特別な才能や長所があるわけでもなく、ただ楽をしたいだけの人生を追い求める主人公に魅力を感じろというほうが無理な話なのでは。
一応作中ではやるときはやる主人公だと度々言及されているが、それらしい描写はなく忘れ去られた設定のようになってしまっている。
強いてあげるならテストの山勘が良く当たるだとか、仕分け部での雑用を器用にこなすといった描写があるにはあるが、特別な才とは言いがたい。
次に残念な点としては、これは作品そのものを根本から否定する形となるが、序盤に起こる部室地下での地震後の流れが挙げられる。
勝手な願望で申し訳ないが、個人的にはあの地震後から過酷なサバイバル生活や非日常に飛び込んでゆくような急展開であれば、作風とのギャップから評価は大いに変わっていた。
あの一瞬、ありえないとは思いながらも僅かにその様な展開を期待してしまっていた自分がおり、その後の展開に酷く落胆したためあえて言及させて頂きました。
また、女装した主人公に権田橋晋作が懸想するという女装ゲーに片足突っ込んだような展開も存在するが、残念ながらその展開は一度きりでそれ以上発展することはない。
折角の面白い設定なのだからもっと掘り下げて権田橋晋作との友好を深める一助とすべきだったのでは。
最後に最も落胆した点を述べる。
冒頭でヒロインに魅力を感じないと記したが、正確には少し異なっている。
唯一魅力を感じたのはサブヒロインの花咲ののかだったが、残念ながら攻略順の制限により阻まれてしまい、不満を抱えながら他ルートを消化してゆくプレイとなってしまった。
挙句ようやくそのルートへ入れたかと思えば髪型が大幅に変化してしまい、まるでロングだった髪をショートにされてしまったかのような残念な具合となってしまっていた。
髪型を変更するだけならば問題ないが、髪の長さまで変化してしまうような変更は許容しがたいものがある。
そもそも似合っていないので何故この様に残念な具合となってしまったのか理解に苦しむ。
せめて選択式にするか、多少なりと原型を残した髪型にして欲しかった。
次にシナリオの良い点を記す。
これは2点のみ。
まず1点目は、全てのルートを攻略した後に開放されるルートはよく出来ていた。
何故飛鳥があのキーホルダーを握り締めた状態で亡くなっていたのか、何故主人公は飛鳥の死にこれほどまでに囚われていたのかといった理由が、たった一つの要因で線として繋がる様は素晴らしいものがありました。
これまで何一つとして良いと感じる部分が無かっただけにこれは不意打ちでした。
何故あのタイミングで山小屋が突然炎上したのかには違和感が残るが、繋げ方だけはとても良く出来ていた。
ただ桜の樹の下で立ち止まってはならないという決まりの理由に関しては少し疑問が残る。
これは私の読解力が低過ぎる所為なのかもしれない。
額面通りに受け取るならばいつまでも同じ場所には囚われず、前を向いて前進し続けろという思いが籠められているという事になるのだろうか。
それとも桜の花はいずれ枯れる事から、決まりごとの意味は変化するということを示唆しているのだろうか。
確かに前者であれば辻褄は合うが、どうにもスッキリしないものが残るような気もする。
もし答えをお持ちの方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけると幸いです。
次の2点目はののかルートでの主人公の言動が挙げられる。
これは珍しく本作の主人公の言動に好感を覚えた瞬間でした。
以下にその場面をそのまま切り取った物を記します。
俺は、兄として・・・・・・・お前の幸せを願ってる
そして、兄は妹を女としては愛さない
それは、家族を・・・・・・俺のことをお兄ちゃんって慕ってくれる妹を傷つける行為だから
だから、俺・・・・・・おにいちゃんをやめようと思うんだ
俺、卒業したらこの家を出るよ
どこか違う街で進学して、就職する
そしたら、兄じゃなくて・・・・・・ただの花咲遊真として、お前を迎えに来るから
実の妹という訳でもないにも関わらずこうまでしっかりとした考えを持って妹からの告白に答えた兄はいまだかつて存在しないのではないだろうか。
この部分は手放しで褒められる素晴らしい出来でした。
本当によく出来ている。
ただしその後すぐに手を出すのは大きな減点要素。
ののかに証が欲しいと懇願され行為に及んでしまうのはまだ理解できるが、次の場面では全てを台無しにするかの如く邪まな気持ちから妹に手を出す主人公が全く理解できない。
舌の根の乾かぬうちにとは正にこの事か。
まるでルートの途中でライターが変わってしまっているかのようだ。
・音楽
平均的。
特別良いものもないが悪いものも無い。
・システム
一通り必要とされる機能は実装されているが一部残念な点も存在する。
以下に残念な点を箇条書きで記す。
・全画面にすると強制最前面となってしまう
・不知火祈ルートで祈の台詞音量にばらつきあり
・マウスカーソルをデフォルトへ戻すことが出来ない
・総評
一部光るものは存在するが、その他の大部分は眠くなるような退屈なもので覆い尽くされている。
結論としてはやはり平々凡々なキャラゲーと述べるほか無い。
新島夕が退社した時点で予想はしていましたが、もはやこのブランドに「はつゆきさくら」のような名作を求めるのは酷なのだろう。
金色ラブリッチェの成功にしろ外注のさかき傘によるものであるし、そのさかき傘にしろ今後はより気楽に出来る同人界に注力してゆくとブログで発言している始末。
ただでさえ優秀な人材が一般へ流出しているにも関わらず、同人にすら奪われてしまうようでは目も当てられない。
有能なシナリオライターを抱えられないという致命的な問題を早急に解決出来なければ、この狭い業界に未来は無いのではないだろうか。
そういった危惧を改めて感じさせられた作品でもありました。