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boningenさんの暁の護衛 トリニティ コンプリートエディションの長文感想

ユーザー
boningen
ゲーム
暁の護衛 トリニティ コンプリートエディション
ブランド
あかべぇそふとすりぃ
得点
90
参照数
281

一言コメント

素晴らしい名作だが、10年ぶりに読み返してみると色々と粗が目立つ。日常会話の面白さというよりは飽きを感じさせない突拍子もない展開が連続する作品。伏線未回収よりも個別ルートでの雑な展開のほうが気になりました。また三作品を一纏めにした移植自体も雑だったので多少減点しています。

長文感想


暁の護衛シリーズはCS版を除く全てを発売と同時にプレイ済み。






・リメイクによる比較

「CROSS†CHANNEL -FINAL COMPLETE-」や「世界でいちばんNG(ダメ)な恋 ハピネスモーション」のようにリメイク時に余計な要素を取り入れて大幅に劣化している訳ではないが、手放しに評価できる程でもない。
及第点といったところ。

リメイクについての詳細を以下に記す。
システム面では解像度800×600→1280×720という点と、三作品が一つの実行ファイルに纏められている点以外に大きな変化は無い。
ムービー面では過去作品で使用された全ての物が使用されている。つまり著しく評判の悪いCS版のOPも使用されているということです。
シナリオ面では「暁の護衛 トリニティ(PSP&PS3)」に18禁要素を継ぎ足したものとなっています。
強い拘りが無ければ「暁の護衛 トリニティ コンプリートエディション」を購入することをお勧めしますが、一部デメリットとなる要素も有り。
デメリットの詳細についてはそれぞれの項目にて後述する。

追加シナリオに関してはCS版の追加要素をそのまま移植しただけで、完全新規のものは存在しない。








・シナリオ

プレイ時間はそれぞれ
 「暁の護衛」               21時間
 「暁の護衛 ~プリンシパルたちの休日~」 16時間
 「暁の護衛 ~罪深き終末論~」      32時間
となっています。これはプレイ順も兼ねています。

攻略対象としては、基本的に立ち絵と声の付いている女性ならば全て対象となっている。
勿論18禁シーンも存在するが、対象が多い関係か広く薄くといった印象が強い。
メインには幾つか用意されているが、サブには短いものが一つだけと最低限の仕様。
所謂魅力的な攻略不可を防止するために広く薄くなったのだとは思うが、それ以上にサブルートへ入る過程が省かれ過ぎており、いい加減な箇所が目立つ。
ただ個人的にはあるだけマシだと思っているので、そこまで不満には感じていない。

初めてプレイした際に強く感じた日常会話での特別な面白さは、思い出補正もあり期待したほどではなかったが、それでも十二分に飽きる事無く読み進めることが出来る素晴らしい作品でした。
改めてプレイして気付いたのですが、純粋な会話内容のみはそこまで面白いわけではない。
では何故過去にプレイした際には面白いと感じていたのか。
おそらく突拍子の無い展開が続くことで単純に読み手が飽きを感じづらいだけで、それを面白い文章だと錯覚していたのではないかと思われます。
それはそれで一つの才能だとは思うのですが、強引な展開に頼らず面白い文章を作る事が出来てこそ面白い作品だと思っているので、これは少し違うもののように感じられました。

ただ登場人物それぞれの濃い味付けは流石に良く出来ており、その中でも群を抜いて主人公の言動が好き放題暴れているため、読んでいて子気味よい。
これだけ濃い人物が多い作品にも関わらず、全体の調和が上手くとられており、また物語の進展する速度も丁度良い。

特に何年経とうとも強く印象に残っていた毒舌メイドであるツキについては、やはり記憶に違わず非常に素晴らしいものがありました。
演じられている大花どんの演技もこれ以上無いほどに良く合っており、未だにこれを超える毒舌メイドには巡り合えておりません。

また改めて実感させられた点としては、本作品のライターである衣笠彰梧は日常会話の上手さも然る事ながら、伏線や謎の張り方が非常に上手い。
が、その広げきった伏線の回収はあまり上手いとは言えないという側面も併せ持つという点です。
そういった意味では一本で完結することを求められるエロゲという媒体ではなく、長く続けることの可能なライトノベルという媒体へ移動した事は理に適っているといえるのかもしれません。

特に残念な点としては、個別ルートでのヒロインとの結ばれ方にある。
最も重要とされる主人公のどういった点に惹かれたのかという部分がすっ飛ばされており、本筋となる二階堂麗華以外のルートの出来はあまり良いものとは言えない。
根本的な問題が放置されたままの所謂投げっぱなしENDばかりなので、本筋以外の個別ルートを手抜きと酷評されるのも致し方ないのでは。
あるだけマシだという見方もあるが、それでももう少し何とかして欲しかった。
これは余談ですが、2019年発売の「流星ワールドアクター」でも全く同じ問題点を抱えており、成長している様子は残念ながら見受けられない。

リメイク時におけるデメリットについての詳細を最後に記します。
これはシステムとシナリオのどちらの項目で記すべきか迷ったのですが、より影響を受けるのはシナリオだろうとの考えから、こちらに記すことにしました。

まず本作品では「暁の護衛 トリニティ」という所謂CS版のシナリオが使用されています。
これは一般へ移植する際にレーティングに引っかかる影響で一部過激な表現等が修正されており、台詞もその際に新規収録されたものとなっています。
つまり本作品でも修正されたシナリオが適用されている訳なのですが、この変更部分の台詞の音量調整が全くされておらず、前後の台詞音量と比較すると明らかに大き過ぎたり小さ過ぎたりと非常にお粗末なものとなっています。

生憎と移植版である「暁の護衛 トリニティ」はPSPやPS3を所持していないのでプレイしたことが無いので、この問題が以前からあるものなのかは判りかねるが、どちらにせよ酷い手抜きであると言わざるをえない。






・絵や背景

やはりトモセシュンサクということもあり群を抜いて可愛らしい絵柄となっており、構図に違和感を感じることも少ない。
背景は古い作品ということもあり、ここ最近の緻密な背景と比較すると数歩劣るが、発売当初の水準で考えるのならば妥当か。

解像度は800×600から1280×720へ変更となっており現在主流となっているワイド型の画面に合わせたものとなっているが、縦幅を犠牲にして横幅を確保するワイドの弊害により一部立ち絵の頭頂部が見切れてしまっている。
このような見切れ方は約20年前にプレイした「月陽炎」以来久々だったので、あまり不満には感じていないが懐かしい気持ちにさせられた。
というよりも記憶に残っていないだけで古い作品には多く見られたものかもしれない。





・音楽

可も無く不可も無くですが、CS版で新規収録された新OPだけはあまりの酷さから大きな原因要素となっています。
曲が悪いだとか映像が悪いだとか以前に、作品の雰囲気を完全にぶち壊してしまっている。
何を思ってあんな代物を採用したのか甚だ理解に苦しむ。

しかも性質の悪いことに本作品では「暁の護衛」のプレイを開始するといの一番に問答無用でこの新OPが流れ始める。
OPで作品の雰囲気を掴む方も多いかと思われるので、この的外れな新OPで誤った認識を持たれる方が増えないことを祈る。





・システム

リメイクにより三作品が一つの実行ファイルに纏められており、管理が楽になっている点は素晴らしい。
CONFIG内の設定も三作品共有となっており、都度設定する手間を省けるのも良いが、肝心の音量部分では雑さといいますか、率直に申し上げて手抜きとしか感じられない非常にお粗末なものとなっており、逆に面倒になっただけという印象が強い。
三作品毎のボイス音量調整が全くされておらず、同じ人物にも関わらず作品を跨ぐと音量が完全に異なっており滅茶苦茶になってしまっている。
シナリオの項目で指摘している台詞の音量問題も合わせて考えると、音量周りの設定の雑さ杜撰さが際立つ。
何故こうなってしまったのか、具体的に誰が悪いのかは判らないが、一箇所だけあからさまに手を抜かれると、そこだけが目立つ典型的な例。
当初は実行ファイルが一つに纏められており設定も共有となっている作りだったので、三作品毎に設定を変更する手間が省けると喜んでいましたが、音量関係が杜撰過ぎて結果としては完全に裏目に出てしまっています。
結局掛かる手間は同じですし、むしろ以前の設定を上書きするしかない部分を考えると悪化してしまっている。

また個別音量の設定に関しても、小さく名前だけ羅列されるだけとなっており、登場人物の多さも合わさり特定の名前を探し出すのにも苦労する不親切な設計となっている。
人物が多いからこそ画像を表示する余裕がなく名前の羅列となっているのか、ネタバレ防止のためにこうなっているのかは定かではないが、どちらにせよ作品毎にページを別ければ済むだけの話であり、いくらでもやりようはあるのでは。
そもそも公式サイト上でのキャラクター紹介ページではそうなっているのだから、方法を知らないわけでもないだろうに。
この辺りでも手が抜かれているように感じられた。

その他の細かい不満は三点だけ。
 ・全画面時に解像度の変更がないのは良いが、Alt+Tab等で裏画面に移行する際に一瞬暗転してしまう。
 ・システム音とシステム音声の音量が共通となっている。
 ・文字表示速度の調整幅が狭過ぎて好みの速度にするが出来ない。瞬間表示一歩手前にしても表示速度が遅過ぎる。










・総評

再度プレイしても色褪せない魅力を秘めた名作だが、良くも悪くも衣笠彰梧の特徴が強く出ている作品。
リメイクには幾つか不満も残るが、目を背けたくなるほど特別酷い訳ではない。
未だにプレイされたことのない方には自信を持ってお勧めできますし、私のようにCS版の追加要素だけ未体験という場合でも、内容をほぼ忘れているのならもう一度プレイし直してみるのも良いかと思われます。